世界の分断

コロナ禍で培われたアジリティを維持する

企業は、パンデミックを通して培われた迅速な意思決定の建設的な一面を今後も継続すべき

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大する以前の世界を振り返ってみると、私たちは忘れがちなのですが、グローバルのビジネス環境は控えめに言ってもそもそも「厄介なもの」でした。企業は、気候変動とテクノロジーによる破壊的変化にどのように対処するかという難しい課題に直面していたのです。人口動態の変化、政治的分断、従業員のスキルアップも手に負えない懸念でした。貿易障壁、移民政策、そして時に気まぐれな規制も経営課題として重くのしかかっていました。課題のあまりの複雑さに、多くのリーダーは、何か手を打つよりも、身動きが取れなくなっているようでした。

COVID-19のパンデミックが発生したとき、それまでの危機には緩慢とした対応に終始していた企業も、この感染症によってもたらされる存続への脅威に対しては迅速かつリアルタイムに対応しました。すべての従業員と顧客が物理的に離れている状況で、どのようにビジネスを継続するか。港湾業務が閉鎖、または制限されている状況で、どのように製品を世界中に出荷するか。組織への帰属意識をどのように維持するか。アドレナリンがみなぎった企業は、通常なら数週間、数カ月、数年といったスケジュールで進めるところを、ほんの数日の間で従来のビジネスモデルとプロセスを捨て去りました。企業はデータが限られる中で勇気ある決定を下し、迅速に実行し、走りながら調整しました。

米国のある大手保険会社のCEO(英語)は私たちに次のように語ってくれました。車をほとんど、もしくは全く運転することがなくなった被保険者たちが自動車保険の払い戻し請求を始めた際、経営陣は4日間という前代未聞のスピードでリベートの提供を決め、それを公表し、被保険者のための小切手を準備したそうです。多くのリーダーは、従来は既存のビジネスプロセスに段階的に技術的変更を加えていましたが、コロナ禍におけるデジタル化に関してはそのアプローチから一気に転換し、新たな方法で顧客にリーチするための根本的な変革を短期間のうちに達成しました。その一例が、Disney+の迅速な展開です。

調査に回答した雇用主の約半数は、より優れたデジタルツールと柔軟性を提供することで、リモートワーカーの生産性向上を目指しています。

リモートワークの従業員に対して、以下の事項を計画している雇用主の割合

労働時間の柔軟性の向上

57%

より良いハードウェアと機器

55%

業務用アプリケーションとデータのモバイルエクスペリエンスの向上

53%

リモートワークを支援するためのセキュリティポリシーの改善

53%

ネットワーキングと関係構築への支援

51%

さまざまな活動の再開の可能性をもたらすワクチンが開発されたことで、トンネルの終わりがようやく見え始めました。まさに今、企業は、今後何十年にもわたって影響を及ぼすであろう、以下のような最大級の試練に直面しているのです。コロナ禍以前の悪しき慣習に戻らないようにできるか。以前よりも迅速なスピード感をもって抜本的な変更を決断できるか。生存リスクに脅かされていた際、機敏かつ鮮やかに実行し採用された管理プロセスをアフターコロナの時代にも運用することができるか。

以前から存在していた脅威はむしろ強さを増しています。そして、今回の危機で多くのイノベーションと組織の力強さを引き起こした“土壇場の底力”のようなものに頼り、これらの脅威に対処することは不可能です。徹夜仕事を常にやり続けるのは持続可能なやり方ではありません。コロナ禍以前の悪しき慣習に戻ることが自滅的であるのと同じように、パンデミック下の緊急対応をずっと引きずっていては前に進めないことも認識しておく必要があります。組織に過度のストレスをかけずにアジリティを維持するには、以下の迅速な意思決定要素のいくつかを備えておくことが不可欠です。

  1. 自社にとって最も重要な課題を特定して焦点を合わせる:COVID-19は明らかに企業の生存に関わるほどの課題だったため、誰もがすぐにそれに対処しました。意思決定が遅くなるのは、多くの場合、いくつもの優先課題が競合することが原因であり、結果としてどの課題にも十分効果的な対応がなされないことになります。

  2. 多くの人々、特に社内外のエコシステムに関連する専門家や、経営判断によって大きな影響を受ける人々を巻き込み、迅速な選択を行い、直ちに実行する:包括的なアプローチをとれば、責任を持つ人の輪が広がります。そうすることで周囲の人々は喫緊の課題を理解し、すぐに答えを見つけてくれるようになることでしょう。これにより、組織における個人の隠れた可能性を見出すことができるかもしれません。 

  3. 重要な決定は頻繁に再検証し、パフォーマンス指標を確認し、期待に沿わない計画は修正する:戦略を妨げている制約を特定し、それらを減らす、または取り除くことに焦点を合わせます。パンデミック下において明らかな制約は、事業を継続しながらも人々の安全を確保する必要があることでした。そして数日のうちに、事実上すべての企業が、両方の目的を達成する手立てとしてリモートワークに行きついたのです。この鮮やかさを維持できるでしょうか。

  4. 自社の決定がもたらす予期せぬ結果、特に広く社会全般および事業を営む環境に対する影響について検討し、それらを軽減するよう備える:コロナ禍において、食肉包装業者など一部の企業は、利益を維持するために労働者の安全を無視していました。その選択は罰金、そして悪評という形ではね返り、企業にダメージを与えました。アフターコロナの世界において、企業は、自社の戦略や事業運営が気候変動、所得格差、人々の生活へのテクノロジー侵害といった問題に与える影響を考慮する必要があります。物事を壊すことなく素早く動く必要があるのです。

  5. 複数のプロセスに同時並行で取り組む:対処すべきビジネス上の必須事項を特定したら、それぞれに対する回答を同時並行で策定します。記録的な速さで新型コロナウイルスワクチンを製造することができた背景には、研究者たちが各地で科学的な挑戦に取り組むのと並行して、薬事承認に先立って製造および流通体制が構築されたことが大きく寄与しています。  

  6. 従業員を気遣い、多様な働き方に対応する:人はそれぞれのスピード感で働いており、高い生産性を実現するための働き方も異なることを理解すべきです。1人で働くことを好む人もいれば、他の人と協働することを好む人もいます。柔軟性を担保し、企業の最大価値である従業員が組織の制約の中でもそれぞれのワークスタイルを自由に選択できるようにする必要があります。例えば、ある組織では従業員の就労満足度が80%から99%へと、前例のない数値にまで上昇しました。これは、従業員が職務上の義務を果たすにあたって、個々の従業員の状況を考慮し、それらを組み込む対応を行ったためです。PwCの調査によると、雇用主の多くも同様に、リモートワークする従業員が生産性を高めるために必要なものをできるだけ提供することに取り組んでいます。

  7. ペースを管理する:コロナ禍において、優れた企業は、運動と休息のインターバルを取り入れてトレーニングするトップアスリートのように活動しました。COVID-19によって提示された一連の課題に対処するには、多大な努力が必要でした。最も成功した企業は、時に個人的な休暇を義務付けることなどを含め、次の課題が発生する前にリソースを整えることに時間をかけました。  

これらのアプローチを検討し、大きな問題に取り組むためのアジリティを維持しようとする際に、考慮すべき最後の要素があります。それは、私たちは、希望を生み出す可能性に目を向け、傾倒することができるということです。

パンデミックは依然としてひどいものであり、しばしば圧倒され、理解が追いつかないような出来事です。この問題に最もうまく取り組んだリーダーたちは、人々が制御できるものに注力することに焦点を合わせ、目的と可能性の感覚を生み出しました。彼らは共感を持って人々を導き、耳を傾ける意欲を示しました。その過程で、彼らは単にワクチン学の新しいモデルや新しい働き方を開発したのではなく、人々がより明るい未来への架け橋を築くのを助けたのです。

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※本コンテンツは、PwCが2021年1月18日に発表した「Sustaining COVID-era urgency for the long run」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。