
課題を機会に転換し長期的な成長に導くトランスフォーメーションの在り方 第4回:変革を実現するためのポイント
ここまでに紹介した事例の総括と視聴者との質疑応答から、変革を実現するためのポイントをさらに深く掘り下げていきます。
2022-03-22
PwC Japanグループは2021年12月、「差し迫った課題を機会に変える~企業変革実行のアプローチ~」と題した経営者向けオンラインセミナーを実施しました。
企業を取り巻く環境は加速度的に変化する中、経営者が重点的に取り組むべき課題はますます多様化・複雑化しています。企業は差し迫る危機をどう機会に転換し、長期的な成長を実現していけばよいのか。同セミナーでは、サステナビリティや企業戦略、M&Aなどを専門とするPwC Japanグループのプロフェッショナルが、ディスカッションと事例の分析を通じてトランスフォーメーションに向けたヒントを探りました。
同セミナーの様子を4回にわたってお伝えする本連載。第1回は、PwCアドバイザリー合同会社代表執行役の吉田あかねが、日本企業を取り巻くマクロ環境とそこでの課題について整理します。
パネル参加者
PwCアドバイザリー合同会社
代表執行役/パートナー
吉田あかね
PwC Japanグループ
サスティナビリティ・センター・オブ・エクセレンス/エグゼクティブリード
坂野俊哉
PwCコンサルティング合同会社
ストラテジーコンサルティング(Strategy&)/パートナー
北川友彦
PwC税理士法人
国際税務/ディールズタックスグループ/パートナー
山岸哲也
(上段左から)吉田あかね、坂野俊哉(下段左から)北川友彦、山岸哲也
吉田:
PwCでは、約10年前から、クライアントの皆様のビジネスプランニングへの提案や支援を行うにあたり、世界の大きな流れの方向性である「メガトレンド」に着目してきました。
ここ数年、そうしたメガトレンドの影響は加速度的に多様化・複雑化しており、経営者が重点的に取り組むべき課題を把握し、それに対応することはますます難しくなっています。そこでPwCでは、世界が直面する5つの喫緊の課題とその影響を「ADAPT」という形で整理しています(図表1)。
最初のAは「Asymmetry」(非対称性)です。貧富の差の拡大や中間層の衰退とともに、各国内や国家間での不利益が拡大していく恐れがあります。こういった中で、従来資源源が減少し、これまで通りには使えなくなるというリスクが生じています。
2つめは「Disruption」(破壊的な変化)です。テクノロジーが広がっていくスピードが非常に速くなっています。テクノロジーは個人や社会、環境にポジティブな変化をもたらす一方で、ネガティブな影響も与え得るため、複雑な課題をもたらしています。また、気候変動問題などの進展とともにテクノロジーの活用方法が変化し、ビジネスモデルが進展していくということも起きています。
次のAは「Age」(人口動態)です。ビジネス、社会制度、経済への人口動態圧力が非常に強くなっており、ニーズや消費のパターンが急速に変化する中で、労働力が劇的に不足する国が出てきています。また、各国内でインフラ、投資、組織力や人材力にミスマッチが生じてくるという課題も顕在化しています。
Pは「Polarisation」(分断)です。世界的なコンセンサスの崩壊や分断、ナショナリズムやポピュリズムの台頭が顕著になり、政策上の判断がますます自国主義に傾いていきます。
最後のTは「Trust」(信頼)です。社会を支えてきた諸機関への信頼が低下してきています。個人の安全やサイバーセキュリティに関する不安が増大しており、ネットワークの構築上、何も信頼しないことを前提にセキュリティ対策を講じるという「ゼロトラスト」という考え方すらも登場しています。
こうした世界の課題とその影響を踏まえて、日本経済の現状に目を向けてみましょう。
平成の時代は失われた30年と称されることがありますが、過去10年をとってみても、グローバル経済の中での日本経済のプレゼンスは低下しています。名目GDPは2010年には米国の38%規模で中国と拮抗していた状況でしたが、2019年には24%の規模にまでプレゼンスが低下し、中国にも大きく引き離されています(図表2)。
また、実質GDPの成長率を見ても、新型コロナウイルス感染症の第一波で各国経済が大きなダメージを受けた2020年以降、米国・ユーロ圏・中国は2021年に非常に大幅な回復を実現し、2022年にはさらなる回復が期待されているのに対し、日本の回復スピードは低調となっています(図表3)。
日本経済のプレゼンスの低下は、株式の時価総額にも表れています。世界の株式時価総額のランキングを見てみると、1989年には日本企業が大半を占めていましたが、2021年にはデジタルを活用してマスマーケットを席巻しているいわゆるデジタルプラットフォーマーが目立ちます。その多くが米国企業で、時価総額上位30社の国別社数でも、米国が圧倒的多数を占めています(図表4)。さらに時価総額の大きさでも、日本企業は米国をはじめとする世界のトップ企業にだいぶ引き離されている状況です。
2021年10月15日、米国ではFRB(連邦準備制度理事会)が2022年3月までテーパリング、すなわち資産購入額の減額を終わらせて、2022年中に政策金利を3回にわたり引き上げる方針を打ち出しました。
これはFRBが急激に高まるインフレ圧力を抑える必要性を感じていることを示しています。実際、米国の消費者物価指数と生産者物価指数は高騰しています。
日本では生産者物価指数の急増は見られるものの、消費者物価の上昇は現時点ではそれほど生じていないとされていますが、2022年4月に携帯電話料金の値下げ効果が剥落すると想定されていることを受けて、物価上昇率が1%を超える可能性が指摘されています。
金利引き上げなどの政策の効果が出た場合、金利が正常化し、米国の消費者物価の上昇が2022年後半には2%台に抑えられるかもしれません。一方で、景気停滞下での物価上昇、すなわちスタグフレーションが生じてしまう悲観シナリオもあります。
物価上昇が止まらないと考えられる理由は数多くありますが、そのひとつに、脱化石燃料やグリーン化の加速により、石炭・石油・天然ガス関連企業が供給を増やすための新規投資を控えており、そこに経済再開でエネルギー需要が急拡大したことで、エネルギー価格が上昇しているという点が挙げられます。
スタグフレーションは、物価は上昇するものの景気は停滞・後退し、消費者の購買率が低下していくことを指しています。
世界経済のスタグフレーションが日本に与える影響について考えてみましょう。オイルショック後の1979年と比較すると、現在は高齢者比率と企業債務残高が非常に高くなっている一方で、実質賃金の上昇率はマイナスです(図表5)。これは現在の日本が、低所得層、年金生活者を中心に物価上昇に脆弱な構造となっていることを示します。また、長期的な金利緩和の継続によって生じた過剰債務により、金利上昇にも脆弱な構造となっていることが分かります。
スタグフレーションからの脱出には、省エネ、脱炭素を中心とした成長領域への投資強化と経営効率の高度化が必要です。実は1970年代後半のかつての日本は、成長投資と効率化に取り組んでスタグフレーションからいち早く脱出し、1980年代前半には世界市場を席巻した“勝ち組”となりました。
これを2020年代の令和の時代にあてはめれば、「グリーン&デジタル」で日本経済を発展させる以外に道はありません。しかしながら、これは大きなチャレンジです。省エネ・脱炭素を強化してグリーン化を実現しようとすると、短期的にはエネルギー価格が高くなり、物価が上昇します。また、デジタル化を推進して経営効率を追求すると、デフレインパクトが生じ、経済・経営のかじ取り次第では労働者への分配が下がり景気後退が生じます。
グリーン、デジタル、物価コントロール、景気回復の間で、こちらを立てれば、あちらが立たずといった、いわば4律背反とも言えるジレンマが生じるおそれがあります。
こうした現況下で日本企業が直面する代表的な課題も、ADAPTのフレームワークで整理することができます(図表6)。
こうしたメガトレンドから生じる課題は、日本企業の競争環境を根本から覆しています。モノづくりで優位性を発揮してきた日本の製造業を例に見てみましょう。2021年の時価総額上位に上がっていたプラットフォーマー企業は、コンシューマーマーケットの成功にとどまらず、BtoBマーケットにも参入しています。
彼らの首尾一貫した戦略は、数多くのセンサーから収集した膨大なデータをクラウド上に集約し、機械学習を使った予測によって、リスクの高い領域に経営資源を集中させ、製造業のオペレーションコストを下げるというものです。日本の製造業がこれまで正しいと考えてきた堅牢なハードウェアや定期メンテナンス、きめ細かいアフターサービスは、安定的なオペレーションのために高い管理費用を発生させてきました。一方、プラットフォーマー企業は低固定費のオペレーションで製造業を生まれ変わらせています。
日本のマクロ経済や社会の動きは、企業の経営環境をますます厳しくしており、収益の確保や企業価値の向上は難しくなるばかりです。また、日本国内では依然として消費者物価や社会情勢は安定していますが、こういった状況に危機感を持たないまま成長戦略を放置していれば、手遅れになる可能性があります。
それでは私たちは何をすべきなのでしょうか。
私たちは、サステナブルな社会を実現するためには、各社が自社ビジネスを地道に、着実に変革して、企業価値を向上させること以外にはないと考えています。過去のビジネスの成功や居心地の良さに囚われず、企業の存在意義(パーパス)に照らして、正しい方向に変革を実行すれば、企業価値向上は達成できるはずです。
特にコロナ禍以降、先進国では20世紀の資本主義をベースとした価値観から、地球環境や人権に配慮した公正なビジネスであることが重要だという価値観へと変化してきています。
古くから「三方よし」という考えを有してきた日本には、こうした新たな価値観に基づく市場において大きなチャンスがあります。サステナブルな経営と企業価値の向上は、かつて言われていたようなトレードオフではなく、両立するトレードオンの関係にあるのです(図表7)。
具体的には、企業は自社の存在意義(パーパス)に沿った変革を着実に推進し、大胆なアライアンスとインオーガニックな成長とを組み合わせながら、大きな成果につなげていく必要があります。
デジタルプラットフォーマー企業の多くも、最初からジャイアントだったわけではありません。小さな実験的なビジネスモデルをデジタルという新しいインフラで試行錯誤しながら模索し、不足する経営資源をM&Aで取得して、社会に認知される大きなビジネスに成長させてきたのです。
また、今ほどビジネスで人という概念が重要になった時代はないでしょう。企業のために働く人々は、1日24時間しかない時間の一部を会社に提供していますが、同時に自社製品のカスタマーでありSNSの発信者でもあります。
そうした人たちとの関係を、従来のように「雇用主と従業員」という関係性で括るのではなく、社外のサプライヤーやカスタマーと同様に、企業のステークホルダーとして新しい関係性を構築する必要があります。
このように考えると、企業のお金の使い方、投資の仕方にも変化が出てくるのではないでしょうか。従業員の教育や、従業員以外に企業のパートナーとなり得る人たちへの投資にも工夫が必要になるでしょう。
こうした変革を起こしていくのは簡単なことではありません。多角的な経営判断が求められ、その遂行には二律背反、場合によってはより複雑な事態が生じ得ます。
またそもそも、人間というのは生物学的に変化を嫌う動物だとされています。経営者が変革を起こそうとしたとき「なぜ変えなければならないのか」という声も内外から出てくるものと思われます。
フランスの経済学者・思想家であるジャック・アタリは「実現の可能性が非常に高いと考えられることは、一般的に予想よりもずっと早く起こる」と述べています※。
変化の兆しが見えたならば、すぐに変化を起こしていかないと、気がついた時にははるか後方に取り残されてしまうでしょう。多角的に経営判断をしながら、変革に果敢に取り組む新たなリーダーシップが求められているのです。
※ 日経電子版「加速する歴史の歩みに備えを ジャック・アタリ氏」(2021年9月2日)
ここまでに紹介した事例の総括と視聴者との質疑応答から、変革を実現するためのポイントをさらに深く掘り下げていきます。
変革を実現した企業の事例を通じ、危機を機会に変える経営の在り方について考えます。
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