{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2021-07-16
経済産業省は、AIガバナンスに関する国内外の議論や動向を踏まえ、現時点で望ましいと考えられる日本のAIガバナンスの在るべき姿を、「我が国のAIガバナンスの在り方ver1.1」(以下、「報告書」)として取りまとめ、2021年7月9日に公表しました1。本報告書は、今後も継続的な議論が必要であることに留意しつつ、次のように結論付けています。
「現時点では、特定の分野を除き、AI原則の尊重とイノベーション促進の両立の観点から、AI原則を尊重しようとする企業を支援するソフトローを中心としたガバナンスが望ましいと考えられる」
報告書が提示する「我が国のAIガバナンスの在るべき姿」は、AIを利活用し、イノベーションを促進しようとする企業に対して、どのような影響を与えるのでしょうか。本コラムでは、報告書の背景と概要を解説し、その意義を考察していきます。
なお、本コラムにおける意見・判断に関する記述は筆者の私見であり、所属組織の見解とは関係のない点をあらかじめお断りしておきます。
AIの利活用を促進するにあたって、人間や社会が守るべき価値とは何でしょうか。その基本的な考え方であるAI原則についてはおおむね国際的なコンセンサスが形成されつつあり、現在は、そのAI原則を社会に実装していくためのガバナンスに関する議論が世界各国で精力的に行われています。
例えば、OECDが2019年5月に採択・公表した「AIに関する理事会勧告」を踏まえ、同年6月にG20首脳宣言の付属文書として合意された「G20 AI原則」は、AI原則に関する国際的なコンセンサス形成の一例と考えられます。また、2020年6月に設立された「AIに関するグローバルパートナーシップ(Global Partnership on AI:GPAI)」は、「人間中心」の考えに基づく、責任あるAIの開発と使用に取り組む国際的なイニシアティブであり、「G20 AI原則」の実装に向けた国際的な議論を行う場と考えられています2。
日本においては、政府の統合イノベーション戦略推進会議が2019年3月に決定・公表した「人間中心のAI社会原則」において、(1)人間中心の原則、(2)教育・リテラシーの原則、(3)プライバシー確保の原則、(4)セキュリティ確保の原則、(5)公正競争確保の原則、(6)公平性、説明責任および透明性の原則、(7)イノベーションの原則が掲げられています3。また、「統合イノベーション戦略2020」において、「AI社会原則の実装に向けて、国内外の動向も見据えつつ、我が国の産業競争力の強化と、AIの社会受容の向上に資する規制、標準化、ガイドライン、監査等、我が国のAIガバナンスの在り方を検討する」とされています4。
これらの動向を踏まえて、経済産業省は「AI原則の実践の在り方に関する検討会」(以下、「検討会」)を開催し、AI原則を社会で実践していくための方策としてAIガバナンスの在り方を検討し、中間報告書の公表とパブリックコメントを経て報告書を取りまとめました。なお、同検討会および報告書とあわせて公表された「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドラインver1.0」のワーキンググループには、PwCあらた有限責任監査法人システム・プロセス・アシュアランス部パートナーの宮村和谷が有識者として参画しました。
検討会がAIガバナンスの在り方を検討するにあたっては、2020年7月に経済産業省が公表した「GOVERNANCE INNOVATION:Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン」(以下、「ガバナンス・イノベーション」)を参考にしています。この中では、デジタル技術によって急激に変化する社会にあって、「イノベーションの促進」と「社会的価値の実現」を両立する新たなガバナンスモデルの必要性とその在り方が示されています5。そのため、報告書を読み解くにあたっては、併せてガバナンス・イノベーションを参照されることが望まれます。
報告書ではまず、AIガバナンスの設計に際してはリスクベース・アプローチが国際的にも広く共有されていること、その一方で具体的なリスク評価や分類は必ずしも共有されているとは言えないことが指摘されています。リスクベース・アプローチとは、AIが有するリスクの大きさに応じて規制の程度を対応させるという考え方です。また、リスクの評価や分類については、リスクの大きさに着目して区分する手法や、AIの用途に応じたリスク分類を試みる手法などが紹介されています。
その上で、ガバナンス・イノベーションで提示されたフレームワークを参考に、AIガバナンスの要素を次の4つに階層化しています。なお、各階層は相互に関連するものであり、AIガバナンスの設計には、国際的な議論との調和とともに階層間の協調が求められています。
これは「人間中心のAI社会原則」などのAI原則を指しています。
本項目は、欧州で検討されているハイリスクAIに対する法的拘束力のある規制を課す考え方と、ガバナンス・イノベーションでの議論に基づく考え方を対比している点で特徴的です。
モニタリングに関しては、欧州では監視当局が事後的に監視できるよう十分な記録文書の確保を求める考え方が欧州委員会のAI白書で示されています。それに対して、ガバナンス・イノベーションにおける議論では、リアルタイムモニタリングを通じてゴールに則した対応を行っていることを企業などに説明させるとともに、ステークホルダーとの対話を通じて改善を促すアプローチを提唱しています。
また、エンフォースメントに関しては、ハイリスクと考えられるAIの利活用に規制を課す場合の法令順守の確保のための方法として、事前適合性評価が欧州委員会のAI白書で検討され、AI規則案にも含まれています。それに対して、ガバナンス・イノベーションでの議論では、事前適合性評価に対してある行為の結果、社会にもたらされた影響やリスクの程度を考慮して制裁を科せるような、企業などのインセンティブを考慮した環境整備を重視する考え方を提案しています。
1 「我が国の AI ガバナンスの在り方 ver. 1.1」AI 原則の実践の在り方に関する検討会(2021年7月9日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20210709_1.pdf
2 「AIに関するグローバルパートナーシップが設立されました」経済産業省ニュースリリース(2020年6月16日)
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200616004/20200616004.html
3 「人間中心のAI社会原則」統合イノベーション戦略推進会議(2019 年3月29日)
https://www8.cao.go.jp/cstp/aigensoku.pdf
4 「統合イノベーション戦略2020」閣議決定(2020年7月17日)
https://www8.cao.go.jp/cstp/togo2020_honbun.pdf
5 「『GOVERNANCE INNOVATION:Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン』を取りまとめました」経済産業省ニュースリリース(2020年7月13日)
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200713001/20200713001.html