想定されるリスクと各国の法規制

2023-03-13

広く社会で使われるようになったAIですが、関連するインシデントも多発しています。こうしたリスクをコントロールするため、各国・地域ではさまざまな法規制が導入されています。

本稿では、AIがもたらすリスクや各国・地域の法規制の現状についてまとめました。

AI活用推進に伴い増加するAIインシデントと競争優位性

AIの活用は、世界中であらゆる業界へと広がっています。PwC Japanグループが実施した調査「2022年AI予測(日本)」によると、日本企業においてもここ数年でAI活用の明確な進展が見られ、AIを業務に導入している企業の割合は2022年には58%(前年比15ポイント増)にのぼっています。

それと同時に、AIが原因となったインシデントも世界的に増加傾向にあり、AIの意思決定による倫理違反、人種や性別などによる差別的バイアスや公平性の欠如、プライバシーやセキュリティの侵害といったリスクを回避するための取り組みが不可欠となっています。また、AIによる複雑な意思決定の中には、その過程がブラックボックスになりやすいものあるため、説明責任(アカウンタビリティ)を果たす必要があります。そのためにも、透明性、説明可能性や追跡可能性を考慮し、教育・リテラシーやモニタリング・監査も含めた適正な利用を担保していくことが求められています。

なお、AIの利活用を推進し、国際競争力や企業間における競争優位性を確保するためにはAI倫理だけでなく、AIと学習データの質(適正な学習)といったAIの性能そのものを担保することや、AI同士の連携も視野に入れて取り組むことが不可欠となります。

AIリスクに対する各国の状況

AIリスクのコントロール実現に向けたルールとしては、主に以下の3つがあります。

  • OECD(経済協力開発機構)やGPAI(Global Partnership on AI)などの国際機関や各国政府が取りまとめた原理原則
  • 各国政府が定める中間的ルール
  • 企業ごとに自主的に取り組む企業ルール

欧米では、2021年にEU(欧州連合)がリスクベースのAI規制の枠組案を提示し、米国のFTC(連邦取引委員会)がAI規制による摘発を開始するなど、法規制の強化が進んでいます。

日本でも、経済産業省が「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドラインver1.1」(以下、「AIガバナンス・ガイドライン」)を公表し、AI活用企業が実施すべき行動目標や、ゴールとの乖離を評価する実務的な対応例が示されました。そして政府は企業に対し、リスクベースのアプローチによるAIガバナンス態勢構築の検討を求めています。

主な指針・規制・ガイドライン▼

 

日本

米国

欧州

原理原則

  • 人間中心のAI社会原則(内閣府)
  • 我が国のAIガバナンスの在り方(経済産業省)
  • AI規制に係るガイダンス
  • AIに係る権利の章典(OSTP)
  • AI指針(Artificial Intelligence for Europe)
  • AIのガバナンスと倫理のイニシアティブ(シンガポール)
  • 北京AI原則/次世代AIガバナンス原則(中国)
  • AI国家戦略(ドイツ)

各国政府が定める中間ルール

  • AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン(経済産業省)
  • AI・データの利用に関する契約ガイドライン(経済産業省)
  • 農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン(農林水産省)
  • 機械学習品質マネジメントガイドライン(経済産業省)
  • AI利活用ガイドライン(総務省)
  • AI利活用ハンドブック(消費者庁)
  • 自動運転車の安全技術ガイドライン(国土交通省)
  • 大学・高専におけるAI教育に関する認定制度(文部科学省、経済産業省)
  • プラント保守分野AI信頼性評価ガイドライン(消防庁、厚生労働省、経済産業省)
  • 人口知能を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の関係について(厚生労働省)
  • 人工知能技術を利用した医用画像技術支援システムに関する評価指標(厚生労働省)
  • 医療機器の特性に応じた承認制度の導入(厚生労働省)
  • 医用画像診断支援システム開発ガイドライン(経済産業省)
  • ビジネス向けのAIアルゴリズム利用に係るガイダンス(FTC)
  • AI倫理ガイドライン(DOD)
  • AIリスクマネジメント枠組み(NIST)
  • AI法案(Proposal for a Regulation laying down harmonised rules on Artificial intelligence)
  • モデルAIガバナンスフレームワーク(シンガポール)
  • 信頼できる人口知能についての白書(中国)

執筆者

宮村 和谷

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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