自動車業界におけるLCAへの対応

第3回―WBCSD削減貢献量ガイダンスの概要編―

  • 2023-06-28

はじめに

2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択され、2021年11月開催のCOP26ではグラスゴー気候合意に「2030年までに世界の二酸化炭素排出量を2010年比で45%削減し、今世紀半ば頃にはネットゼロにすること。そのために、世界のGHG排出量の急速かつ大幅な削減が必要であること」*1が盛り込まれました。

このような国際動向を背景に、GHG*2排出量の削減に向けて、さまざまな取り組みが進められています。その中で、技術革新や新サービスによって実現されるGHG排出量の削減を定量的に示す「削減貢献量」の重要性が高まっています。

そして2022年のCOP27においては、GHGプロトコルの発行団体であるWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)から削減貢献量の計算手法が開発中であることがアナウンスされ、2023年3月には削減貢献量の算出や報告に関するガイダンスが発行されました。

これまでにもさまざまな団体が削減貢献量のガイドラインを発行してきましたが、グローバルスタンダードと位置付けられるものは存在していませんでした。WBCSDのGHGプロトコルはGHG排出量算出のグローバルスタンダードとして位置付けられていることから、WBCSDの削減貢献量ガイダンス(以降、ガイダンス)も今後グローバルスタンダードに位置付けられると考えられます。

そこで本稿ではガイダンスの内容を用いて、削減貢献量とは何なのか、どのように算出するのか、外部に伝達・報告する際に遵守すべきことは何なのか、などについて解説します。

WBCSD削減貢献量ガイダンス

削減貢献量の定義

削減貢献量について、ガイダンスは以下のように定義しています。
「GHG削減ソリューションが存在する場合のGHG排出量と、GHG削減ソリューションが存在しなかった場合のGHG排出量との差分」*3
つまり、“そのソリューションによってライフサイクルでのGHG排出量がどれだけ削減できたのか”と言い換えることができます。

図表1:削減貢献量のイメージ (低燃費タイヤ使用による走行中のGHG排出量削減の例)
  • 削減貢献量はライフサイクルでのGHG排出量を算出することが必要
  • 上記イメージでは使用(走行)以外の原材料製造、タイヤ製造、廃棄に係るGHG排出量は変わらない前提

削減貢献量の目的と位置づけ

削減貢献量の目的について、ガイダンスの中では「製品またはサービスが低炭素経済に貢献する能力を反映させること」*3と記述されています。企業の経済活動はGHGを排出しますが、環境性能が優れた製品やサービスを開発し普及させることでネットゼロ目標に貢献することができます。つまり削減貢献量を数値化(見える化)して公開することで、環境性能が優れた製品やサービスを開発・普及させることが削減貢献量の目的だと言えます。

さらに図表2に示すように、企業の取り組みとして第一優先は企業が排出するGHG排出量を削減すること(ピラーA)であり、その次にグローバルな脱炭素化に向けた企業の貢献(ピラーB)であることをガイダンスでは述べています。従って、企業は削減貢献量を主張する前に、ピラーAである自社のGHG排出量(Scope1,2,3)の算出と削減に向けた努力を行うことが求められます。その次に、ピラーBとして削減貢献量が位置付けられるのです。

図表2:ガイダンスのフォーカス領域

※WBCSDの削減貢献量ガイダンスを基にPwCにて加筆

このことはガイダンスの中で基本原則としても記述されています(図表3参照)。

図表3:削減貢献量の基本原則(一部抜粋)

適格性の確保

削減貢献量を主張する企業は、その適格性を確保するために、3つのゲートを満たすことをガイダンスは要求しています。

図表4:削減貢献量を主張するために満たすべき3つの適格性ゲート

上記3つのゲートを通過した企業とソリューションについては、削減貢献量を主張する適格性があります。企業は削減貢献量を主張する前に、GHG排出量(Scope1,2,3)の目標を設定し、その削減に努めることが求められます。

算出のステップ

ガイダンスでは算出方法を5つのステップで説明しています。

図表5:削減貢献量算出の5つのステップ

ライフサイクルでのGHG排出量の算出方法については、「自動車業界におけるLCAへの対応 第2回ーISO14040とISO14044に基づくLCAの実施ー」において概略を説明していますので、ご参照ください。

またタイムフレームとは、削減貢献量を算出する時間の区切りです。ガイダンスではタイムフレームの設定としてソリューションの内容に応じて以下2つのアプローチ(A、B)を想定しており、それぞれ削減貢献量を算出する時間の区切り方が異なります。

図表6:タイムフレームを設定する2つのアプローチ

例えば、ソリューションが売り切りで提供される場合にはAが適用され、リース契約により特定の期間にソリューションが提供される場合にはBが適用されます。

伝達と報告

削減貢献量を外部に伝達・報告する場合、以下9つの要求事項を満たす必要があります。これは比較可能性や一貫性を高め、虚偽表示のリスクを最小限に抑えるために遵守すべき重要な事項です。

図表7:削減貢献量を外部に伝達・報告する場合の要求事項

まとめ

削減貢献量は企業の製品・サービスの環境性能を外部に発信する上で有益な指標となり、今後消費者が製品・サービスを選択する際の判断材料の1つになると思われます。しかしながらグリーンウォッシュとみなされないように、伝達・報告する場合の要求事項には留意する必要があります。

また本稿では詳細を触れませんでしたが、削減貢献量算出の5つのステップにおいても詳細な要求事項が存在し、実際に算出するためにはWBCSD削減貢献量ガイダンスの内容を正しく理解する必要があります。
自社の製品・サービスに対して削減貢献量の算出・外部報告を検討される際には、ぜひPwCへご相談いただければと思います。

注記

*1 : グラスゴー気候合意より引用。PwCにて和訳。
*2 : Greenhouse Gas。温室効果ガス
*3 : WBSCD削減貢献量ガイダンスより引用。PwCにて和訳。
*4 : 1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータのこと。

参考文献

・WBCSD ,2023.「Guidance on Avoided Emissions」(2023年5月29日閲覧)
・United Nations Climate Change ,2021.「Glasgow Climate Pact」(2023年5月29日閲覧)

執筆者

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川添 健太郎

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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西山 早帝

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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