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2022-04-27
「自動車業界におけるLCAへの対応 第1回 ーGHG排出量算出の課題ー」で紹介したように、カーボンニュートラル実現に向け、各国・地域における法規制制定やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の発足を背景に、自動車業界においてもLCA(Life Cycle Assessment)の実施が求められています。一方で具体的な実施方法についてはまだ認知が広がっておらず、手探りの状態で対応を進めている企業も多いと考えます。そこで本稿では、ISO14040(環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−原則及び枠組み)とISO14044(環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−要求事項及び指針)が求める主な活動を説明し、LCAの具体的な実施方法を紹介します。
LCAとは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷の量を定量的に評価する手法です。ISO14040にはLCAの原則と枠組み、ISO14044にはLCAの技術的要求事項やガイドラインが記述されており、この2つの基準によってLCAの実施方法が定められています。なお、「自動車業界におけるLCAへの対応 第1回 ーGHG排出量算出の課題ー」で紹介したように、LCAにはGHG(温室効果ガス)に特化したGHGプロトコルのコーポレート基準、プロダクト基準、Scope3基準なども存在します(図表1)。
ISO14040およびISO14044では、LCAの枠組みとして4つの段階とクリティカルレビューが説明されています(図表2)。
第1段階の「目的および調査範囲の設定」について、ISO14044は意図する用途、実施する理由、結果を伝える相手、一般開示を意図する比較主張に用いるか否か、製品システム、製品の機能、機能単位、機能フロー、システム境界を明確にすることを求めています。下記に、自動車を例に示します(図表3)。
製品システムとはライフサイクルの全プロセスを表したものであり、システム境界とはLCAの評価対象と評価対象外を切り分ける境界です。従って図表3においては、素材製造から廃棄までのライフサイクルをLCAの評価対象としているが、販売店およびリサイクルから排出される環境負荷の量は評価対象外ということになります。このように評価対象としないプロセスを決定することをカットオフといいます。本稿では詳細な記述を省略しますが、カットオフ基準、前提条件、ならびにカットオフ基準が調査成果に及ぼす影響も評価し、記述する必要があります。
第2段階は「インベントリ分析」です。インベントリ分析では「目的および調査範囲の設定」で決めた内容に基づき、対象製品のライフサイクルでの環境負荷の量を算出します(図表4)。
データ収集の準備として、車両製造における生産プロセスフロー図を作成します(図表5)。実際には車両製造だけでなく、図表3で示した製品システム全てにおいてプロセスフロー図を作成することが推奨されています。プロセスフロー図を作成することで、どの工程においてどのような原材料やエネルギーが投入されているのかを明確にすることができるため、環境負荷の量を算出するためにどのようなデータを集めるべきかわかりやすくなります。
実際の車両製造プロセスはさらに複雑に細分化されているため、「目的および調査範囲の設定」に応じて適切な粒度でプロセスを分けて、投入される原材料やエネルギーを明確にすることが重要ですが、これは同時に難しい点でもあります。また組立においてはさまざまな構成部品が含まれるため、データ収集は各部品のサプライヤーとの連携も大変重要です。
次に投入原材料やエネルギーなどについてのデータを収集し、環境負荷量を算出します(図表6)。●には実際の工程などから収集した投入原材料量やエネルギー量などのデータが入り、▲には排出原単位と呼ばれる投入原材料やエネルギーの単位量当たりのCO2排出量のデータが入ります。投入原材料量やエネルギー量(●)にそれぞれの排出原単位(▲)を乗ずることで、CO2排出量(■)を算出することができます。
第3段階は「影響評価」です。インベントリ分析の結果から得られた環境負荷物質の排出量が環境に与える影響を評価します。環境に与える影響というと、地球温暖化以外にもオゾン層破壊や酸性化などの影響領域があり、実際のLCAでは目的の設定に整合させて、どの影響領域について評価するのかを決める必要があります。本稿では図表3において温室効果ガス排出量について記載することを宣言しているため、地球温暖化への影響について評価します。
地球温暖化へ影響を与える温室効果ガスはCO2だけではありません。メタン(CH4)や窒素化合物(NOx)の一種である一酸化二窒素(N2O)なども存在し、CO2と同様に自動車のライフサイクルにおいて排出されます。しかし地球温暖化に対する影響の大きさはCO2と異なり、例えば一酸化二窒素(N2O)はCO2基準で298倍の影響度があります(図表7)。CO2以外の温室効果ガス排出量についても、CO2排出量に換算・統一することで地球温暖化への影響を評価しやすくします。
ここでCO2以外の温室効果ガス排出量をCO2排出量に換算し、地球温暖化への影響評価の結果として自動車のライフサイクルにおけるCO2排出量をまとめた例を図表8で示します。この例ではガソリン車では走行中の燃料消費によって発生するCO2排出量がライフサイクル全体において最も大きな割合を占めることが分かります。一方、電気自動車では走行に用いる電力を製造するときのCO2排出量の割合が大きいことが分かります。加えて素材製造や車両製造におけるCO2排出量の割合もガソリン車と比べて大きいことが分かります。これはバッテリーの製造段階においてCO2排出量が大きいことに起因します。
第4段階は「解釈」です。インベントリ分析および影響評価の結果に対して感度分析、完全性チェック、整合性チェックを行ったうえで、重要な事項の特定、結論、限界、提言を行います(図表9)。
図表8からは、「電気自動車では素材製造や車両製造の段階におけるCO2排出量の割合が大きい」ということを踏まえて、「バッテリーの製造段階のCO2排出量を削減することがライフサイクルでのCO2排出量削減に貢献する」という結論および提言が考えられます。
クリティカルレビューの目的は、実施したLCAの方法がISO14044の要求事項に合致しているか検証することです(図表10)。クリティカルレビューの実施はLCAの知識と経験を有する専門家が行い、独立性の観点からLCA実施者とは異なる必要があります。
レビューというと一般的には審査というイメージがありますが、クリティカルレビューの場合には審査だけではありません。LCAの専門家からレビュー結果と改善要求事項を受け取り、それに基づきLCAを再実施する、というサイクルを繰り返しながらISO14044の要求事項を満たしていきます。従ってクリティカルレビューは、LCA専門家とともにLCAの完成度を高めていくプロセスだと言えます。
自動車およびその構成部品を対象にLCAを実施する場合には、1度のLCAでISOの要求事項をすべて満たすことは困難なため、LCAの専門家によるクリティカルレビューを実施することが強く推奨されます。
自動車のLCAを簡易的に実施することを通じて、ISO14040およびISO14044に定められたLCAの実施方法の例を紹介しました。実際にLCAを実施する場合には、ISO14040およびISO14044を用いて詳細な要求事項を学ぶ必要があります。また、解釈の流れで説明した、「完全性のチェック」「整合性のチェック」「感度分析」などは知識だけでなく経験も必要になります。さらに、「自動車業界におけるLCAへの対応 第1回 ―GHG排出量算出の課題―」でも紹介したように真正性の確保(適切な排出源単位の選択、投入原材料重量やエネルギー量の設定、算定の誤り防止)や算出の手間(算出プロセスの構築、算出ツールの選定)などの課題にも直面することも想定されます。しかし、十分な知識と経験を有し、これらに対処できるLCAの専門家が社内に存在するケースはまだ少ないため、まずは外部のLCA専門家を有効に活用し、ISO14040とISO14044に基づくLCAを実施することが肝要と考えます。