
『セキュリティ・クリアランス制度』法制化の最新動向と日本企業が取るべき対応 【第3回】運用基準を踏まえた企業対応の在り方
2025年5月17日までに施行される経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度に関して、特に影響があると見込まれる事業者や事業者の担当者において必要となる対応を、2025年1月31日に閣議決定された運用基準を踏まえて解説します。
経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス(適格性評価)制度が2025年5月17日までに施行される予定です。2025年1月31日に閣議決定された運用基準の概要について、企業において対応が必要となる内容を中心に解説します。
セキュリティ・クリアランス制度は、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要であるとして指定された情報にアクセスする必要がある政府職員や民間事業者などに対して、政府が調査を実施し、信頼性を確認した上でアクセスを認める制度です。(参考:経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス(適格性評価)制度の企業影響について)
経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を定める重要経済安保情報保護活用法(以下、法律)の成立を受け、政府として講ずべき措置や遵守すべき事項を規定することにより、政府における運用を統一化することを目的として、運用基準が定められました。
重要経済安保情報の指定の3要件(①重要経済基盤保護情報該当性、②非公知性、③秘匿の必要性)のうち、詳細の発表が特に待たれていた①について具体例が示されました。重要経済基盤に関わる企業においては、政府から図表1の細目に関する情報提供を受ける必要性を確認し、セキュリティ・クリアランス取得の要否を検討することが求められます。
1坂田和仁「基幹インフラの安全性・信頼性確保について」2023年11月2日
2内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)サイバーセキュリティ戦略本部「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画(改定)」2024年3月8日
図表1:重要経済基盤保護情報事項の細目
重要経済安保情報の指定の3要件のうち「②非公知性」の判断は、「現に不特定多数の者に知られていないか否かにより行うものとする」と定められました。報道機関や外国政府等によって公表済みの場合は、日本政府による公表有無を問わず、本要件を満たさないとされました。
3要件のうち「③秘匿の必要性」の判断は、情報漏洩によって以下のような形で日本の安全保障に支障を与える事態が生じるおそれがあるか否かによって行われると定められました。
重要経済安保情報の指定における遵守事項について、以下のとおり定められました。
行政機関の長は、経済安全保障を巡る情勢変化の速さを勘案し、上限5年以内で適切な有効期間を設定するととともに、年1回以上定期的に指定の理由を点検し、指定の要件を満たさない場合は速やかに指定を解除すると定められました。指定の有効期間が満了する前に有効期間の延長の有無を判断し、通じて30年間を超えて延長する場合は内閣の承認を得るものとされました。
事業者が重要経済安保情報の提供を受ける場合の手順について、以下のとおり詳細が示されました。
1 提供要否の検討、申請書の提出
1.1 行政機関は、事業者からの相談なども踏まえ、重要経済安保情報の提供要否を判断。
1.2 行政機関は、重要経済安保情報の概要につき、事業者に対してできる限り事前に情報を提供。
1.3 事業者は、情報提供を受けることを希望する場合、適合事業者の認定申請書を提出。
2 契約手続き、適性評価の実施
2.1 適合事業者認定審査の結果を通知。認定されない場合はその理由も通知。
2.2 行政機関との間で、重要経済安保情報の提供を受けるための契約を締結。
2.3 契約締結後、情報の取扱いが見込まれる従業員に対して、適性評価を実施。
適合事業者認定審査は、以下の考慮要素を踏まえ、総合的に判断すると定められました。
適性評価の流れと事業者(適合事業者)の対応について、以下のとおり詳細が示されました。評価対象者の上司、人事担当者などの職員や部署が対応、協力する必要があります。
1 事前手続き
1.1 行政機関との契約に基づき、重要経済安保情報の取扱いの業務を行わせようとする従業員について、氏名、生年月日、所属部署、役職名等を行政機関に提出する。
1.2 行政機関への提供に際しては、当該従業員の同意を得る。派遣労働者である場合は、雇用主に対して通知する。
1.3 行政機関から適性評価の実施について承認が得られた評価対象者に対してその旨を告知し、同意を得た場合は同意書を、同意しない場合は不同意書を提出する。同意書の提出から適性評価の結果が通知されるまでの間に同意取下書を提出することで同意を取り下げることができる。
2 適性評価の実施
2.1 評価対象者は質問票に必要事項を記載し内閣府に提出する。評価対象者が記入した内容は、上司その他知る必要のない者の知るところにならない。
2.2 評価対象者の上司、人事担当課の職員等は、評価対象者が重要経済安保情報の漏洩の恐れが無いか評価するための行政機関による調査に協力する。
2.3 行政機関は評価対象者に対し、結果等通知書の交付により調査結果を通知する。
事業者においては、適性評価実施後は以下の点に留意する必要があります。
ここまで、運用基準の概要について、企業において対応が求められる内容を中心に解説しました。
企業においては、2025年5月17日までの制度の施行を見据えて、対応が必要となる部署・役員・事業ポートフォリオの特定、対応のために必要となる予算・体制・施設などの確認、影響を踏まえた対応方針の作成(社内体制、社内システム、人材雇用・研修、ガバナンス制度、社内規則の刷新など)といった対応を進めることが求められます。
加えて、制度施行後の事業機会獲得に向けた準備として、国内外セキュリティ・クリアランス人材の獲得または育成に向けたプランニング、国内外政府案件参画に向けた準備、海外政府・企業との共同研究に向けた調整、国内競合他社の動きの確認などを行うことが必要となります。
坂田 和仁
マネージャー, PwC Japan合同会社
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