「経済安全保障推進法」企業に求められる対応

重要物資の安定供給(サプライチェーンの強靭化)について

  • 2023-11-29

連載コラム「『経済安全保障推進法』企業に求められる対応」の第1回では、日本における経済安全保障政策や法規制の整備状況、経済安全保障の確保に向けた主要国の動向を、第2回第3回では、経済安全保障推進法の主要施策であり、2024年春頃に運用開始予定の「基幹インフラの安全性・信頼性確保」および「機微技術の流出防止(特許の非公開)」についてそれぞれ解説しました。第4回となる今回は、同じく経済安全保障推進法の主要施策の1つである「重要物資の安定供給(サプライチェーンの強靭化)」について、企業活動への影響や求められる対応について解説します(図表1)。

図表 1

企業への影響と対応の方向性

日本企業は本施策をどのように活用すべきでしょうか。日本企業が特定重要物資の供給事業者として政府から認定を受けた場合、資金援助を受けたうえで、自社のグローバルサプライチェーンの再構築や生産拠点などの機能移管を図ることが可能です。将来想定される各国の法規制や中長期トレンドを踏まえた事業環境の変化への対応を図ることで、競合他社に対する競争優位性の確保を進めることもできます。近年頻発するサプライチェーンの混乱や、自社にとって重要な原材料や製品の価格ボラティリティの影響低減に備えることも肝要です。日本企業からは「工場増設を検討する場合、(本施策を活用することで)日本が選択肢に入ってくる」などの声も聞かれ、概ね好意的に受け止められています。

一方で、日本政府から継続的な生産や設備投資が求められる可能性や、需給がひっ迫した場合に増産が求められる可能性がある点には留意が必要です。本施策で資金支援を受ける事業者だけでなく、当該事業者に対して部品などを納めるサプライヤーも、本施策を活用する事業者から長期での部品供給を求められたり、場合によっては国内回帰を求められたりする可能性がある点に留意が必要です。

1 経済産業省「経済安全保障推進法に基づく認定供給確保計画一覧」

2 高市早苗チャンネル「【高市早苗に聞く】供給途絶のリスクに備える『特定重要物資』について」 2023年1月

3 内閣府「経済安全保障法制に関する有識者会議 第2回サプライチェーン強靱化に関する検討会合(2023年10月16日)資料(特定重要物資に関する取組の方向性について)」2023年11月

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執筆者

坂田 和仁

マネージャー, PwC Japan合同会社

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