{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
国家戦略としてAI産業の発展を促進している中国では、独自のAIガバナンスモデルが形成されつつあります。中国のAIに関する国家政策の全体像を俯瞰し、その倫理規制、アルゴリズムの透明性の確保などに関する法制度を解説します。
中国は、国家戦略としてAI産業の発展を促進しています。同時に、既存の法令とアルゴリズム規制、AI倫理規制と標準制定などを組み合わせる形でAI規制を行っており、中国独自のAIガバナンスモデルが形成されつつあります。
2017年に国務院(中央政府)が公表した「新一代人工知能発展規画1」は、2025年までに人工知能に関する基本的な法律、倫理枠組み、人工知能に対する安全評価と管理能力を構築するとしました。中国は早期の全面的なAI促進政策からAIの倫理・安全、アルゴリズム規制などについて法律を制定するようになり、現在その基本的な様相が明らかになってきています。
中国でAI関連事業を展開する組織は、こうしたAI関連法制度を遵守する必要があります。また、中国のAI規制のアプローチは、その特有の点を除けば、AIガバナンスの構築などにおいて参考になると思料します。
以下、中国のAIに関する国家政策の全体像を俯瞰し、その倫理規制、アルゴリズムの透明性の確保などに関する法制度を解説します。
中国のAIに関する国家戦略全体は、政策、既存法令、アルゴリズム規制、倫理規制およびAI標準で構成されています。法制度については、既存のサイバーセキュリティ関連法令2を活用しながら、AI関連の規制を制定する方式になっています。
AI技術の急速な発展を受け、中国は、既存の法令に組み合わせる形で、2022年に「インターネット情報サービスアルゴリズム・レコメンデーション管理規定3」(以下、「レコメンデーション・アルゴリズム規定」)、その後、「インターネット情報サービス深度合成アルゴリズム管理規定4」(以下、「深度合成アルゴリズム規定」)を制定しました。また、2023年7月に生成AI向けに「生成人工知能サービス管理暫行弁法5」(以下、「生成AI弁法」)が制定されました。
プロバイダーについて、以下の通り責任を規定していますが、アルゴリズムの透明性確保のための届出制度は特徴的と言えます。
AIアルゴリズムの規制は、AIの透明性確保において非常に重要な法制度になります。中国の場合、電子商務法、個人情報保護法などにおいて、事業者に対し、その用いるアルゴリズムに関して、ユーザーが見つけやすい場所に顕著な方法での告知による説明責任を果たすことを義務付けています。また、レコメンデーション・アルゴリズム規定におけるアルゴリズム利用に関する明示要求および届出制度によって、初めてアルゴリズムの透明性に関する制度が具体化され、深度合成アルゴリズム規定によって、深度合成アルゴリズムの明示と届出が規定されました。現在パブリックコメント段階にある生成AI弁法においては、生成AIアルゴリズム利用に関する明示と届出が求められています。
レコメンデーション・アルゴリズム規定、深度合成アルゴリズム規定、生成AI弁法のいずれも、アルゴリズム利用についてのユーザーに対する明示義務を設定しています。この点では、欧州のアルゴリズム透明性規制と類似するところがあります。
法規制(パブコメ中のものを含む) | アルゴリズム利用についての明示義務 |
レコメンデーション・アルゴリズム規定 |
|
深度合成アルゴリズム規定 | 生成あるいは編集される情報内容(アウトプット)について、合理的な場所に、分かりやすいサインを用いて深度合成アルゴリズムの利用によるものであることを明示すること |
生成AI弁法 | 生成AIについて、深度合成アルゴリズム規定と同等の規制の見込み |
前述のレコメンデーション・アルゴリズム、深度合成アルゴリズム、生成AIアルゴリズムについてサービス提供を行う事業者は、レコメンデーション・アルゴリズム規定の届出手続きに従い、以下に記載の方法で届出を行うことが求められています。
届出制度の対象事業者は、政府のWebサイト6を通じて届出を行う仕組みになっており、届出Webサイトの利用に関するガイドラインも同じサイトで公開されています。
一般的に、対象事業者はサービス提供日から10営業日以内に、Webサイトを通じて届出を行う必要があります。アルゴリズムの変更がある場合には、10営業日以内に登録内容の変更手続きを行い、サービス終了の場合は終了日から20営業日以内に登録抹消手続きを行う必要があります。
届出項目 | アルゴリズム明示要件 |
組織の情報 |
|
製品/サービスにおけるアルゴリズム情報 |
|
組織が届出をしたアルゴリズム関連情報については、中国インターネット情報弁公室(CAC)が一般公開7しており、誰もが確認することができます。公開されている情報は、アルゴリズムの名称、アルゴリズムの分類、事業者の名称、製品/サービス名称、主な用途、届出番号などです。
アルゴリズムの届出を行わず、法令違反となった場合のリスクとしては、そもそも個人情報保護法などの既存の法律に抵触するような場合であれば、それら既存の法律の適用を受けることになるので要注意です。個人情報保護法違反となれば、かなり高額(最大で5,000万人民元(約10億円)または、前年度の売上高の5%)の罰金を科せられる可能性があります。前述のレコメンデーション・アルゴリズム規定に基づく届出違反については、1万人民元(約20万円)以上10万人民元(約200万円)以下の罰金が設定されています。
2023年4月に中国科学技術部が「科技倫理審査弁法(試行)8」のパブリックコメントを開始しました。当該弁法は、2022年国務院の「科技倫理ガバナンス強化に関する意見」におけるAIを含む科学研究活動に対する倫理五原則を具体化する法令になります。AIの研究開発を含む生物学、医学など科学研究開発を行う大学、企業などの組織に対して、倫理委員会の設立、研究開発活動の倫理審査などEthics by Design(倫理的な問題への対応をプロセスとして組み込むこと)を求めています。
組織は、その倫理委員会の組織的、経済的独立性を担保する必要があります。また、倫理委員会のメンバーについては、特定分野の専門家以外に、社会倫理学、法学、社会学などから性別、民族などのバランスよく招へいし、倫理委員会メンバーの多元化を保証することが求められます。
特に、AIなどのハイリスクの科学研究活動については専門家の審査が必要であり、審査状況について毎年報告書などを届出する必要があります。
中国は、上記のアルゴリズム規制、倫理規制と同時に、AI規制について体系的な標準制定を進めています。2020年に国家標準化管理委員会、国家発展改革委員会、科学技術部、工業情報化部などが合同で制定した「国家新一代人工知能標準体系建設ガイド9」は、AIの技術面における標準体系の制定を目標としています。AIのリスク管理面については、2023年に全国情報技術標準化技術委員会人工知能サブ技術委員会と国家人工知能標準化総体組の主導で「人工知能倫理治理標準化ガイド(2023版)10」が作成されました。
特に「人工知能倫理治理標準化ガイド」は、AIの全ライフサイクルにおいて、データ、アルゴリズム、システム(自動判断方法)、人的要素の4つのカテゴリーから、倫理五原則をさらに10のガバナンス準則に詳細化しています。
グローバル各国は、AIに対する規制を実施し始めています。EU、米国、中国のAI関連規制はそれぞれの特徴を有しています。その中で、AIの促進と規制について早期に着手した中国のアプローチは、その特有な点を除き参考に値すると考えます。
また、中国でAI事業を展開している組織も中国の規制動向をモニタリングし、対応していくことが求められます。
1 中国国務院,2017,「新一代人工智能发展规划」,2023/5/19閲覧,
http://www.gov.cn/zhengce/content/2017-07/20/content_5211996.htm
2 中国のサイバーセキュリティ関連法令の詳細は
「中国サイバーセキュリティ法のポイントと日本企業が講じるべき対策」
「中国データセキュリティ法のポイントと日本企業が講じるべき対策」
「中国個人情報保護法のポイントと日本企業が講じるべき対策」を参照。
3 中国インターネット情報情報弁公室(CAC),2022,「互联网信息服务算法推荐管理规定」,2023/5/15閲覧,
http://www.cac.gov.cn/2022-01/04/c_1642894606364259.htm
4 中国インターネット情報情報弁公室(CAC),2022,「互联网信息服务深度深度合成管理规定」,2023/5/15閲覧,
http://www.cac.gov.cn/2022-12/11/c_1672221949354811.htm
5 中国インターネット情報情報弁公室(CAC),2023,「生成式人工智能服务管理暫行办法(征求意见稿)」,2023/7/13閲覧,
http://www.cac.gov.cn/2023-07/13/c_1690898327029107.htm
6中国インターネット情報情報弁公室(CAC),互联网信息服务算法备案系统,2023/5/15閲覧,
https://beian.cac.gov.cn/#/index
7 中国インターネット情報情報弁公室(CAC),2022,「国家互联网信息办公室关于发布互联网信息服务算法备案信息的公告」,2023/5/15閲覧,
http://www.cac.gov.cn/2022-08/12/c_1661927474338504.htm
8 中国科学技術部(省),2023,「关于公开征求对《科技伦理审查办法(试行)》意见的公告」,2023/5/15閲覧,
https://www.most.gov.cn/wsdc/202304/t20230404_185388.html
9 国家標準化管理委員会ほか,2020,「国家新一代人工智能标准体系建设指南」,2023/5/15閲覧,
http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2020-08/09/content_5533454.htm
10 全国情報技術標準化技術委員会人工知能サブ技術委員会ほか,2023,「人工知能倫理治理標準化ガイド(2023版)」,2023/5/15閲覧,
https://www.aipubservice.com/airesource/fs/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%99%BA%E8%83%BD%E4%BC%A6%E7%90%86%E6%B2%BB%E7%90%86%E6%A0%87%E5%87%86%E5%8C%96%E6%8C%87%E5%8D%97.pdf