プライバシー法規制のトレンドと企業に求められる対応

生成AIと個人情報―法的論点と実務上の対策の概説

  • 2023-10-24

はじめに

生成AIに関連する論点は多岐にわたりますが、本インサイトにおいては、生成AIに関連する個人情報保護法*1上の論点を概説し、事業者が講ずべき対策を説明します。

なお、本インサイトは、2023年9月29日時点で公表されている法令およびガイドライン等に基づき執筆されています。生成AIに関する法律問題については議論が流動的であるため、常に最新の情報に基づき検討する必要があることにご留意ください。

おわりに

本インサイトでは、生成AIと個人情報保護法との関係性について解説しましたが、それ以外にも生成AI利用に伴うリスクは多岐にわたります。生成AIの利用を推進する企業には、こうした各種リスクを考慮した早急なAIガバナンスの整備が求められます。

しかしながら多くの企業においては、ガバナンスの整備以前にガバナンスの整備を推進すべき2線部門がどの部門か不明確な状態となっており、リスク対応が停滞しているケースが散見されます。法律だけではなく、セキュリティやプライバシー、コンプライアンスなど、AIリスクの論点は非常に幅広く、現場レベルで対応部門を整理することが困難であるためです。AIガバナンス整備の第一歩として、2線として関与すべき各種リスク対応部門の役割や責任範囲に関して早急に整理し、経営レベルで合意することが不可欠です。また、生成AIの利用を進める1線の部門も、活用のみを推し進めるのではなく、一度立ち止まってリスクの洗い出しとリスクの許容度の確認をしなければなりません。

企業がより良いサービス・製品を提供する上で、生成AIは大きな可能性を秘めていますが、いまだ予期し得ないリスクが潜在していることも忘れてはなりません。生成AIの利用を推進する企業は、顧客が安心して企業に自身のデータを提供することができるよう、リスク対応体制を早急に整備することが求められます。

*1 個人情報の保護に関する法律。以下、「法」と省略する場合も含めて同法を指します。

*2 AIネットワーク社会推進会議「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案(平成29年7月28日)」における「開発者」の定義を参考にしました。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000499625.pdf

*3 「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等(後述)を事業の用に供している者をいいます(法16条2項)。

*4 AIモデル開発との関係では、例えば、(i)複数人の個人情報を機械学習の学習用データセットとして用いて生成した学習済みパラメータ(パラメータと特定の個人との対応関係が排斥されているもの)や、(ii)個人情報から加工した統計データは個人情報に該当しないと整理されています(個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A(平成29年2月16日(令和5年3月31日更新))」、以下「Q&A」)Q&A1-8、Q&A2-5)。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/2304_APPI_QA.pdf

*5 「個人情報」該当性の判断にあたっては、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(平成28年11月(令和4年9月一部改正))」、以下「GL通則編」)2-1の記載が参考になります。https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230401_guidelines01.pdf

*6 石井夏生利ほか編著『個人情報保護法コンメンタール』(勁草書房、2021年)146頁

*7 Q&A2-1およびGL通則編3-1-1

*8 Q&A7-53参照

*9 この点に関して、個人情報保護委員会が2023年8月21日に公表したパンフレット「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/generativeAI_notice_leaflet2023.pdf)では、AIサービス利用者が入力した情報について、AIサービス提供者が学習データとして利用することとしている場合に、利用者が個人データを入力すると、利用者から提供者に対し、個人データを提供したことになると記載されており、少なくともこの場合には「提供」に該当すると考えられます。

*10 GL通則編3-6-3(1)

*11 「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去および第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの以外のものをいいます(法16条4項)。

執筆者

山田 裕貴

パートナー、PwC弁護士法人

高澤 真理

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

矢野 貴之

PwC弁護士法人

田上 薫

PwC弁護士法人

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