再考、スレットインテリジェンス

1.スレットインテリジェンスを「意思決定の知見」として活用するために

近年、スレットインテリジェンスまたは脅威インテリジェンスと呼ばれる情報および情報提供サービスが注目を集めています。以前からCVE(Common Vulnerability Enumeration)に代表されるソフトウェア脆弱性に関する情報を提供するサービスは存在しています。また、IoC(Indicator of Compromise)のように実際のサイバー攻撃で悪用されたマルウェアのハッシュ値や通信先IPアドレスなどを提供するサービスも近年登場しています。こうした取り組みとスレットインテリジェンスはどこが違うのでしょうか。

インテリジェンスは一般的に、インフォメーションを特定の目的で分析して得られる意思決定のための知見を意味します。そのためインテリジェンスを語る上で「分析の目的は何か?」は欠かすことができない問いと言えます。スレットインテリジェンスは、文字どおりサイバーセキュリティ脅威に関するインフォメーションを対象とし、自組織のサイバーセキュリティ対策向上を目的とした分析により得られた、意思決定のための知見と考えることができます。サイバーセキュリティ対策という概念をどのように捉えるかにはさまざまな考え方がありますが、代表的なものとしてはNISTサイバーセキュリティフレームワーク(NIST CSF)が挙げられます。そのため同フレームワークを構成する5つの要素(「特定」、「防御」、「検知」、「対応」、「復旧」)それぞれの観点からサイバーセキュリティ脅威に関するインフォメーションを分析したものが、スレットインテリジェンスと考えることができます。

「スレットインテリジェンスサービスが有用だと聞いてと契約したが、有効な使い方が分からない」という声を聞くことがあります。こうした場合、「どのようなセキュリティ課題を改善するか・高度化するか」という課題・目的の設定、そのためにどのような知見が必要か、知見を得るためにはどのような情報・分析が必要か、という検討プロセスがおろそかになっていることが少なくありません。冒頭の脆弱性情報の場合、「自社システムに関連する、深刻度の高い脆弱性情報の把握」、「自社システムに関連する、実際の攻撃での悪用が確認されている脆弱性情報の把握」、「自社システムに関連する、同業他社を狙った攻撃が確認されている脆弱性情報の把握」では分析の目的が異なり、必要となる知見や情報も異なります。インテリジェンスが「意思決定のための知見」であることを踏まえると、企業や組織においては、徹底して自組織で活用することを前提とした目的設定が必要だと言えます。

執筆者

村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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