{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
企業の人権尊重のための取組が世界的に求められるなか、日本政府は2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「政府ガイドライン」という)を公表しました。日本企業は今後、どのような対応を求められるのでしょうか。
政府ガイドラインのベースとなっている国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」という)では、企業の人権尊重責任の具体的内容として、「人権方針の策定」(人権尊重責任を果たすという経営陣によるコミットメント)、「人権デュー・ディリジェンスの実施」(人権への影響を特定し、防止し、軽減し、対処するためのデュー・ディリジェンスの実施)、「救済メカニズムの構築」(企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセスの構築)を実施すべきとされています。また、「ステークホルダーエンゲージメント」は、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、グリーンバンスメカニズムの構築など人権尊重の取組全体を通じて極めて重要な取組となります。今回は、これらの取組内容について概説します。
企業は人権方針を策定することにより、人権尊重責任へのコミットメントを示すことが求められます(指導原則15a、16)。人権方針には、人権尊重に関する自社の考え方、人権関連の国際的なフレームワークとの関連性、従業員および取引関係者その他さまざまなステークホルダーに対する人権配慮への期待などを明記することとなります。
この人権方針の策定に当たっては、企業は、人権に関する国際的なフレームワークや業界特有の事情などを調査・理解し、社内外の当事者や専門家と議論を重ねた上で、対応を優先すべき人権課題、国・地域特有の課題、業界特有の課題などを適切に把握する必要があります。その上で、企業の経営トップや取締役会などの承認を経て、企業の経営陣によるコミットメントとして社内外に公開することとなります。
そして、人権方針はそれ自体を公開するだけでなく、社内の事業の方針や事業運営プロセス(例:社内ガイドライン、社内規程、社内メッセージなど)の中にそのエッセンスを組み込み、企業全体およびサプライチェーンに浸透させることが重要です。その上で、定期的に行われる人権デュー・ディリジェンスやグリーバンスメカニズムにより検出された新たな人権課題の分析結果や、当該課題への対応などを踏まえ、人権方針の改訂を随時行う必要があります。
次に、企業は人権を尊重する責任を果たすために、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、対処方法を説明するための人権デュー・ディリジェンスを実施しなければなりません(指導原則15b、17)。具体的には、①「負の影響の特定・評価」(対象の特定・情報収集・人権への負の影響の分析・評価)、②「負の影響の防止・軽減」(対応措置の策定・実施など)、③「取組の実効性の評価」(モニタリング)、④「説明・情報開示」というステップで行われます。
企業活動に係るステークホルダーの人権の範囲は広範にわたるため、企業は、いわゆるリスクベースアプローチを用いて優先順位を付けて、人権デュー・ディリジェンスの対象範囲を選定し、対応を進める必要があります。その優先順位付けにおいては、「深刻度」と「発生可能性」が考慮されることとなります。「深刻度」については、具体的には人権侵害が顕在化した場合の負の影響の大きさ(規模)、影響の及ぶ範囲(範囲)、負の影響を受ける前と同等の状況に回復できる限度(是正不能性または救済困難度)を検討する必要があります。また、「発生可能性」については「影響が生じる可能性」とも換言できるでしょう。
人権デュー・ディリジェンスは、対象範囲を特定し、リスクベースアプローチで調査を行うため、対象範囲外のステークホルダーの人権リスクや、対象範囲内のステークホルダーの人権リスクまでを網羅的に把握することはできません。そのため、企業活動に関連する人権への負の影響について、広く被害を受けた人および地域(ステークホルダー)などが苦情を提起し、是正を求めることのできる「グリーバンスメカニズム」を構築することが求められます。これは苦情処理・問題解決のための仕組みであり、企業はこのメカニズムを通じて把握した人権課題について追跡調査を行い、是正対応などを行っていくこととなります。人権デュー・ディリジェンスとグリーバンスメカニズムは相互補完の関係にあるといえます。
人権尊重の取組を遂行する過程で重要となるのが、ステークホルダーとのエンゲージメント、すなわち企業とステークホルダーとで双方向に企業の人権尊重の取組内容や人権課題などについてコミュニケーションをとるプロセスです。
企業の人権尊重の取組は、ステークホルダーの人権保護を図るためのものですが、時に企業にとって都合のよい内容になることがあります。手続の実質的な公平性や客観性を担保するためには、ステークホルダーとの間で「バリューチェーン上にどのような潜在的な人権関連リスクが存在するのか」「それを防止するために、契約上の義務履行をどのように確保していくのか」「それをいかに効果的に運用し、人権への負の影響を防止していくか」「実際に人権への負の影響が生じた場合、どのような対応策を講ずれば人権への負の影響を最小限に止められるのか」という点について対話を継続する必要があり、そうすることで効果的な人権関連対応が可能となると考えられます。
これらの取組(PDCA)を実行することは、企業のリソースなどを踏まえると、実務的には必ずしも容易なことではありません。そのため、企業は自社のリソースなどを踏まえた適切なロードマップを策定した上で、継続的にこれらの取組を高度化していくことが重要です。
第3回では、人権関連法制に関する世界的潮流と日本の動向について説明します。