プロフォーマ財務情報

本シリーズは、企業の成長促進や収益性向上の中心的手法であるディール(M&A、事業売却など)と海外資本市場への参入(新規上場、国際的な資金調達など)を大きなテーマにしています。CFOをはじめとする企業の経営層が検討すべきトピックを経営戦略と財務報告のそれぞれの側面から概説し、企業の成長のためにヒントとなるような情報をシリーズを通じてお届けします。

今回は「財務報告トピック」より、プロフォーマ財務情報について、その目的、作成ガイダンス、構成要素などを解説します。

プロフォーマ 財務情報

変革を測る第一歩

プロフォーマ財務情報とは、ある一定の仮定に基づいて過去の特定の財務情報を切り出したり、合算したりしたものを指します。米国をはじめとする一部の海外登録案件では、従来からプロフォーマのルール・実務が確立されており、日本でも2021年にプロフォーマ財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針が公表されるなど、議論が行われています。

プロフォーマ財務情報はさまざまな場面で用いられています。

例えばM&Aなどの取引においては、売手企業(セルサイド)がディール対象となる事業などのプロフォーマ財務情報を買手企業(バイサイド)に提示することが一般的です。

また、合併や会社分割などの組織再編やホールディングス化などを計画する企業が株主に向けた説明資料にプロフォーマ財務情報を掲載したり、グローバルオファリングによる資金調達を行う企業が投資家向けの目論見書にプロフォーマ財務情報を掲載したりするケースがあります。

財務報告においても、期中に企業結合を行った場合は、その取引が期首に行われたと仮定して年間の売上高や当期純利益の予測値をプロフォーマ財務情報として開示したり、SPACによる米国上場を行う場合は届出書にSPACとターゲット企業の合併に関するプロフォーマ財務情報を開示したりします。

このようにプロフォーマ財務情報は、上記のようなディールが過去に発生していたとしたらどのような影響をもたらしたか、という観点で一定の仮定に基づき作成される情報であり、変革を測る第一歩として捉えることができます。

図表1 プロフォーマ財務情報の使途

プロフォーマ財務情報の作成ガイダンス

日本にはプロフォーマ財務情報の作成に関する具体的な規定はありませんが、米国には米国証券取引委員会(SEC)が公表した「Regulation S-X Article 11」(以下、「Article 11」)と呼ばれるガイダンスがあります。

日本企業においてArticle 11の適用が必須となるケースは多くないものの、プロフォーマ財務情報が必要な場面において、当事企業が任意にArticle 11を参照してプロフォーマ財務情報を作成するケースがあります。例えば、SEC登録企業ではない日本の上場企業がM&Aのための資金調達を目的としてシンガポール市場で社債を発行するとします。この場合、発行会社も証券市場も米国とは関係ありませんが、投資家を募るために国際的なガイダンスとして米国のArticle 11を任意に参照してプロフォーマ財務情報を作成し、目論見書(Offiring Circular)に掲載するよう、引受証券会社などから求められることがよくあります。ただし、これらのケースではあくまで任意にArticle 11を参照するのみのため、作成上は自己裁量の余地があります。

プロフォーマ財務情報の 作成ガイダンス

以下はArticle 11に沿って解説します。

プロフォーマ財務情報の構成要素

プロフォーマ財務情報は一般に以下の3つの要素から構成されます。

全般的な定性情報
プロフォーマ財務情報を作成する要因となったM&Aや合併などのディール概要、目的、当事企業の名称、プロフォーマ財務情報の作成対象年度など

プロフォーマBS・プロフォーマPL
M&A:
A社とB社が合併する場合、A社とB社を合算して合併後ベースのプロフォーマBS、プロフォーマPLを作成

プロフォーマ注記
作成に用いた仮定、調整項目の内容や算定方法など

プロフォーマBS・プロフォーマPL

A社とB社の合併を例に、プロフォーマBSおよびプロフォーマPLについて解説します。取得企業であるA社は両社の実績値を基礎とし、そこに調整を加えてプロフォーマBSとプロフォーマPLを作成します。プロフォーマ調整には、A社がB社を合併する際に新たに認識するであろう「無形資産」や無形資産のその後の「償却費」などが含まれます。なお、プロフォーマ財務情報には比較情報の概念はありません。

プロフォーマ財務情報の作成対象期間

プロフォーマBSとプロフォーマPLの作成対象期間は必ずしも一致しない点に留意が必要です。

例えば、A社とB社の合併に関するプロフォーマ財務情報を作成するとします。両社ともに12月決算会社で四半期開示を行っており、2022年8月にプロフォーマ財務情報を作成する場合、プロフォーマBSは直近の財務報告日、すなわち直近四半期会計期間末である2022年6月末時点の数値で作成するのに対し、プロフォーマPLは直近年度(2021年1月~12月)と直近四半期(2022年1月~6月)の2つの期間について作成する必要があります。

また、プロフォーマ調整についても、プロフォーマBSの調整項目はプロフォーマBS日時点で発生したと仮定するのに対し、プロフォーマPLの調整項目は直近年度の期首(2021年1月1日)に発生し、その後の四半期期間に至ると仮定します。

プロフォーマ財務情報と企業の Value Creation

企業が経営戦略の手段としてM&A、組織再編、ホールディングス化、SPACによる米国上場、グローバルオファリングなどを検討する際には、プロフォーマ財務情報の検討が必要となります。プロフォーマ財務情報が利用される場面は多岐にわたり、重要な経営戦略と密接に関連していることから、CFOをはじめとする企業の経営層が経営戦略を語る材料としてプロフォーマ財務情報を活用し、マーケットや投資家に戦略的かつ効果的に訴求していくことが期待されます。

主要メンバー

稲田 丈朗

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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陳 景華

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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