2022-07-13
日本では児童福祉法が1947年に施行され、さらに児童虐待の防止等に関する法律（以下、「児童虐待防止法」）が2000年に施行されました。児童虐待防止法の施行から20年以上が経過し、児童虐待防止に関する人々の意識の高まりなどにより、児童相談所に寄せられる虐待相談対応件数は年々増加しており、2020年度は20万件を突破しました（図表1参照）。1日当たりに換算すると全国で約562件の虐待相談に対応していることになり、児童相談所職員への負荷が高いことが分かります。
また、相談内容の内訳についても、ここ10年で心理的虐待の占める割合が上昇してきています。強い介入権限を用いる緊急性の高い案件のみならず、地域資源を使いながら保護者の「困りごと」に寄り添う支援が望ましいと考えられる通告が多く寄せられているのが現状です（図表2参照）。こうした現状を受けて、国は児童福祉法を改正し、子ども家庭総合支援拠点（児童福祉）と子育て世代包括支援センター（母子保健）を再編し、市区町村が「全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に相談支援を行う機能を有する機関（こども家庭センター）」を設置することとしました。
児童相談所に寄せられる虐待相談件数の増加に伴い、児童相談所の数も対応する職員数も増加していますが、通告を受けて支援に当たる児童相談所職員の業務負荷は高まっています。虐待対応は時に保護者等と激しく対立することも必要になったり、夜間や休日の対応を余儀なくされたりするなど、心身への負荷が高い業務です。そのため、児童相談所職員が心身とも健康に働き続けるためには、職員の純粋な量的体制の拡充のみならず、「支援者へのケア」など質的体制についても考慮することが喫緊の課題となっています。
当社が2020年度に実施した調査によると、アンケートに回答した児童相談所のうち76.5％が「45時間超80時間以下の時間外・休日労働をした職員が1名以上いる」状態であり、30.3％が「メンタルヘルス不調による連続1カ月以上の休業者が1名以上いる」ことが分かりました。また、ヒアリング調査の結果から、現場職員の心理的負担としては「対応の難しい保護者と対峙すること」「緊張感の高い状況に、突然直面すること」など児童相談所業務に特有の事項のほか、「経験年数が浅くケースにうまく対応することができないこと」等が挙げられました。児童相談所の管理職にとっては、「電話当番等の対応のため24時間365日気の休まる時間が少ないこと」「突発的な通告に対して情報が少ない中で緊急的に判断すること」がストレスに挙げられていました。
2020年度の調査結果より、児童相談所職員が心の健康を保つためには、①周囲への積極的な相談、②気持ちの切り替え・仕事への向き合い方を見直すこと、③職員同士の交流の場の設定といった取り組みが考えられます。ほかにも、④所内研修・育成プランの策定等、人材育成制度の設定も有用であると考えられます。
そのため、今後は、児童相談所職員の心の健康にも配慮しながら、個々のケースに対応していくことが求められます。
児童虐待の相談について、ここまで児童相談所に寄せられる件数・内容を踏まえて見てきましたが、児童虐待通告の窓口は、児童相談所だけではなく基礎自治体でもその機能を担っています。しかし、基礎自治体と児童相談所で個別に通告受付の初期対応をしている現状は非効率との指摘もあり、通告窓口として一元化していくことも検討の余地があります。
そこで、現行の児童相談所に寄せられるさまざまな通告内容に対して、子どもの安全を守り、家族を支援するのにより適した対応に振り分けることを目的として、当社で調査研究を実施しました。当社が2019年度に実施した調査研究では、福岡市をフィールドに、通告時点の限られた情報を用いて受理方針に関するシミュレーションを実施し、寄せられた通告に対してどのような初動を取るべきかの方針とその振り分けルールを策定しました。これを踏まえて当社が2020年度に実施した調査研究では、京都府および千葉県の２自治体をフィールドとして同様のシミュレーションを実施し、振り分けルールの見直しを行うとともに、実運用に向けた体制や実施フローを検討しました。
これら2年間の調査研究の結果から、今後に向けて検討が必要な課題が複数挙げられました。その中でも優先度の高い検討事項として、①児童相談所および基礎自治体の共通理解の構築、②通告窓口の体制案の検討、③基礎自治体の体制整備の３つがあり、これらを並行して検討することで、通告窓口を一元化して初動対応を進めることが期待されます。すでに一部の児童相談所や基礎自治体では職員間で協力・連携に関する話し合いをしているところもあり、子どもや家族の支援ニーズと、支援機関のリソースのマッチングに向けた模索が進んでいます。
