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2019-03-22
東京証券取引所第1部に上場する企業の社外取締役が複数企業の取締役を兼任するケースが、最近よく話題に上がるようになっています。日本には兼任の数を規定する法律はありませんが、ヨーロッパ諸国における状況はどうなっているのでしょうか。各国のコーポレートガバナンス・コードを見ながら、日本とヨーロッパにおける上場企業の対応状況について比較、解説します。
社外取締役、取締役の兼任について、日本のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)1には次のように書かれています。
原則4‐11(2)
社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきである。こうした観点から、例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべきである。
社外取締役が複数の企業を掛け持ちすることで一社ごとの任務に十分な時間を取れず、その結果、業務が形骸化してしまうことが懸念されているようです。今回のコラムでは、この問題、すなわち「兼任の数」について取り上げます。
日本のCGコードでは「合理的な範囲」という言葉を使って、実際にその「数」をどう判断するかを企業に一任しています。社外取締役の中には8社兼任しているという人物もおり、対応はさまざまです。そこで、CGコードが20年以上前からあるイギリスやフランスなどはこうした問題に対しどう対応しているのかを、各国の同コードと比較しながら見ていきます。
フランスでは、商法4において「いかなる自然人も5社以上の会社の取締役を兼任してはならない」としています。さらに、規模の大きな事業活動を目的として設立されている株式会社においては、この数を5社ではなく3社までに限定し、取締役の一定以上の兼任を禁止しています。また、フランスのコーポレートガバナンス・コード(以下、Afep-Medefコード5)では次のように規定しています。
原則18業務執行役員と非業務執行役員の兼任数
§ 18.1
取締役は必要な時間と注意を自らの職責に注ぐべきである。
§ 18.2
業務執行役員は、グループ外の上場会社(外国のものも含む)において、他に2社を超える取締役を務めるべきではない。また、上場会社における取締役職を新規に受諾する前に取締役会に意見を求めなければならない。
§ 18.3
非業務執行役員に関して、取締役会は、個人の特定の状況および個人本人に与えられた特定の任務を考慮に入れて、この問題に関し特定の勧告を作成することができる。
§ 18.4
非業務執行役員は自らのグループの系列ではない他の上場会社(外国会社を含む)の取締役職に4つを超えて就くべきではない。この勧告は任命時にも任期の次回更新時にも適用するものとする。
このような背景から、フランス企業における取締役の兼任の数は、日本企業のそれと比較して圧倒的に少なくなっています。
フランスにおいては、フランス金融監督庁(AMF)の連携機関であるコーポレートガバナンス高等委員会が、2014年以降に毎年、SBF1206におけるAfep-Medefコードの遵守状況を調査し、結果を公表しています。2018年度活動報告書7によれば、2017年度のSBF120のすべての企業が、CEOや執行役員のグループ外での兼任の数を記載しており、「業務執行役員の兼務の数は2社を超えない」という原則に対する遵守率が99%であると発表されています。また、兼任の数は、SBF120で平均0.6社となっていることが分かりました。
SBF120のうち59社の執行役員は、グループ外の上場会社において一切の兼任をしていないことが分かっています。一方、Afep-Medefコードを遵守しておらず、3社以上の兼任をしている取締役がいる会社が1.9%あることも判明しています。
下の表は過去6年間の兼任の数の推移になります。ほとんど変化がないことが分かります。
ドイツでは、ガバナンスの構造として、非業務執行役員のみで構成されるスーパーバイザリー・ボード(監査役会)がマネージメント・ボード(事業執行をする執行役会)を監督する二重構造を採用しています。この構造を前提として、ドイツのCGコード8では、次のように規定しています。
5章 スーパーバイザリー・ボード
5‐4‐5
監査役(スーパーバイザリー・ボードの構成員)は、その任務を果たすために十分な時間を確保しなければならない。上場会社の「執行役」は、グループ外の上場会社のスーパーバイザリー・ボードや、グループ外の上場会社における同種の機関については、計3社を超えてそのメンバーに就任しないものとする。
ドイツの2015年におけるコードの遵守状況に関する調査報告書9によれば、上記のコードについては、DAX3010で100%、MDAX11で96.3%が遵守していることが分かりました。なお、兼任については数の面からだけではなく、利益相反のリスクを軽減するという質的な面からも重視されているようです。
ちなみに、ドイツの上場企業におけるコードの遵守率は、全体的に高く保たれているようで、2017年度DAX30の全項目に対する平均の遵守率は95.2%となっています。
オランダのCGコード12では、兼任に関して次のように規定しています。
原則2.4 意思決定と機能
取締役会と監査役会は、自らの知識とスキルを最新の状態に保ち、その義務と職務に十分な時間を費やすべきである。
2.4.2.その他の役職
執行役および監査役(スーパーバイザリー・ボードのメンバー)は、自らが就いている他のいかなる役職についても、事前にスーパーバイザリー・ボードに報告すべきであり、また、少なくとも年に一度は、他の役職についてスーパーバイザリー・ボードで議論すべきである。
この原則は、企業内での役職からグループ外での役職まで、兼任について幅広く指しています。事前の報告を課し、任命されている以外の仕事を勝手に引き受けてはならないという観点から、兼任の数に歯止めをかけているとも言えます。ただ数に関する明確な規定はないため、どこまでの兼任が許されるかについては、各取締役会に最終的な決裁権があると言えるでしょう。
2016年度にオランダの上場企業88社を対象に行ったコードの遵守状況に関する調査13では、全体の遵守率が96.7%と高い遵守率を保っていることが分かりました。オランダでは過去5年間の調査報告書において、「兼任の数」がトピックとして取り上げられたことはないようです。国全体として、あまり関心を持っていない領域と言えるでしょう。
イタリアのCGコード14では、次のように勧告しています。
第1条 取締役会の役割
1.C.2
取締役は、自己の業務および職業的活動に関するコミットメント、自己の職務を誠実に遂行するにあたり必要な時間を割くことができると認める場合には、規制市場(外国市場を含む)に上場している他の会社、金融機関、銀行、保険会社または相当規模の会社の取締役または監査役としての役職を、その数を考慮しつつ、引き受けるものとする。
1.C.3
取締役会は、取締役の出席を考慮して、取締役の職務の実効的な履行と両立すると考えられる(上記1.C.2で言及されているような)会社の取締役または監査役を兼任する場合の最大数に関するガイドラインを発行するものとする。
イタリアの企業においては、各社ごとに状況を分析して兼任の最大数を決める、ということになります。なお、数を決める際には、取締役会が一般的な見解を表明することが推奨されています。取締役会は、業務執行役員、非業務執行役員または独立取締役の各役割に関連するコミットメントとタスクを特定し、会社の特性に応じて異なる基準を設定し、かつそれらを説明すべきであると勧告しています。
しかしながら、2017年のコードの遵守状況に関する報告書15によれば、実際にこうした状況を開示している会社は平均49%にとどまっています。大企業では76%、中堅企業では60%が同コードを遵守していますが、小規模企業においては36%の企業のみが遵守しているというバラつきが発生しています。
また、兼任の数に関しては、同報告書によれば、MTA(ミラノ証券取引所)に上場しているすべての企業を対象にしたところ、取締役の13%が(イタリアの)他の上場企業の取締役または監査役を兼任していること、最大で5つの兼任をしていることが分かりました。なお、取締役によるグループ外の上場企業における兼任のみを対象とした場合、1社以上を兼任している取締役の平均割合は12%、2社以上を兼任している取締役はわずか3%だったということです。
ちなみに、遵守状況の報告書(前述)によれば、イタリアの上場企業におけるコード全体の遵守率は、大企業では90%に上ります。一方、中規模企業では約80%、小規模企業では約65%となっており、会社の規模によって遵守率の差が見られます。
執行役員の兼任の数については、イギリス、フランス、ドイツでは各国のCGコードの中で数が限定されており、またコードの遵守についても特に大きな問題がなく、議論の対象になっていないことが分かりました。オランダでは兼任の際には取締役会の承認が必要なため、結果として妥当な数は取締役会に決定権があること、イタリアでは各社が取締役会でその数を決めるよう推奨されていることも判明しました。
上記で取り上げた5カ国は、毎年各国のコーポレートガバナンス監督委員会が集まり、議論を行っています。2016年7月に行われた会議では5か国がコードの方向性を打ち出し、足並みを揃えていくことが5か国の委員会より発表されています(詳しくは<コラム12回ヨーロッパのコーポレートガバナンス・コードを巡る動向>をご参照ください)。このため、2018年に改訂されたフランス、イタリア版のCGコードには、この会議で打ち出された方向性が勘案されていますし、ドイツでは2018年11月にコードの改訂草案が公表されています。
冒頭でも述べたように、日本の会社法の下では兼任の数の規定がなく、CGコードでも具体的な数については言及・限定されていません。このことが、日本の上場企業において兼任の数が多く見られる理由の一つと思料されます。
とはいえ、掛け持ちが過ぎて自社に十分な時間を注いでもらえないのでは元も子もありません。各社が今後、兼任に関する方針を決めたり、数の目安を決めたりする際に、ヨーロッパ諸国の方法や実情は一考に値するのではないでしょうか。このコラムの情報が、今後の対応や開示を考える上での参考になれば幸いです。
以上
2 イギリスのコーポレートガバナンス・コード2018[English]
3 FTSE100は、ロンドン証券取引所に上場する企業のうち、時価総額上位100位の企業の銘柄で構成されている。
4 Code de Commerce : Article L225-94-1[French]
私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会がAFEP/MEDEFコード(Code de gouvernement d'entreprise des sociétés cotées)を策定している。文中で説明しているCGコードは、2016年11月に発行されたバージョンであり、統計をとった時点において企業が参照していたもの。
6 フランス SBF120は、CAC40とユーロネクスト・パリ(旧パリ証券取引所)に上場されているフランス企業株で時価総額、流動性が最も高い80銘柄から構成されている。
7 コーポレートガバナンス高等委員会(HCGE)「2018年度活動報告書」(2018年10月公表)
Haut Comité de Gouvernement D’Entreprise – Rapport d’activité (Octobre 2018) [French]
8 ドイツのコーポレートガバナンス・コード2017年度版German Corporate Governance Code 2017[PDF 736KB][English]
9 ベルリンコーポレートガバナンスセンター によるCorporate Governance Report 2015[PDF 1,765KB][German]
10 ドイツ DAX(ドイツ株価指数)は、フランクフルト証券取引所上場のドイツ企業のうち優良30銘柄で構成される。
11 ドイツ MDAXは、フランクフルト証券取引所における株価指数。同取引所に上場されている株式銘柄のうち、時価総額でDAXに次ぐ60の中型株を選出して構成される。
12 オランダのコーポレートガバナンス・コード2016年度版Corporate Governance Code 2016[PDF 394KB][English]
13 オランダのコーポレートガバナンス・コードの対応状況に関する報告書2017(対象2016年度)[Dutch]
2013年にオランダで設立されたコーポレートガバナンス監視委員会(Monitoring Commissie Corporate Governance)により、ほぼ毎年オランダの上場企業のおけるCGコードの遵守状況の調査や分析が行なわれている。
14 イタリアのコーポレートガバナンス・コード2018年度版 Corporate Governance Code in July 2018[English]
阿部 環
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム
※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。