
2020年代後半に向けて大胆な改革を Next in pharma 2025:未来を決めるのは今
製薬業界の未来を見据えた戦略的アプローチと必要な能力について論じる本稿では、2025年以降の変革的なトレンドや価値創造の方法を探り、特にAIの影響、バイオロジーの進歩、薬価引き下げの圧力、患者中心主義などに対応するための戦略を提案して います。
2023-01-23
企業を取り巻く環境が複雑化し、多様な課題に対応することが求められる時代になりました。
このような経営環境下にあるクライアントをより強力に支援するため、PwCコンサルティングはインダストリーとサービスを掛け合わせることによってクライアントの課題解決をサポートする組織横断的なイニシアチブを新たに立ち上げました。
PwCのグローバルネットワークでは多様な分野のプロフェッショナルが活躍しており、PwCコンサルティングには彼らと国境、そして業界をまたいで協力し合うカルチャーが根付いています。イニシアチブはこの強みを活かし、クライアントの経営変革を支援していくための取り組みです。
本稿ではこのイニシアチブの1つであるヘルスケア領域への参入支援をテーマに、ナビゲーター・フリーアナウンサー魚住りえ氏がPwCコンサルティングの専務執行役パートナーの安井正樹、上席執行役員パートナーの堀井俊介にPwCの取り組みと今後目指すべき姿について聞きました。
専務執行役パートナー
プラクティス本部 兼 クライアント&マーケット
安井正樹
上席執行役員パートナー
ヘルスケア・医薬ライフサイエンス産業事業部
堀井俊介
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魚住:PwCコンサルティングは、インダストリーとサービスの掛け合わせによる課題解決支援を推進するため、組織横断的なイニシアチブを立ち上げました。その中の1つであるヘルスケア参入支援について伺いたいのですが、まずヘルスケアマーケットの現状について聞かせてください。
堀井:日本はあらゆる地域に病院があり、優秀な医師もたくさんいます。一方で医療費がかさみ、徐々に制度疲労が来ていると考えています。また「薬局で採血できない」「自分のカルテを持ち歩けない」といった課題もあり、そのような点で大きな変革期を迎えつつあるのが今だと考えています。
魚住:変革とおっしゃられましたが、具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。
堀井:1つ目はヘルスケアのパーソナライズです。ワクチンを例に挙げると、接種による副反応は人によって異なり、どのメーカーのワクチンかによっても変わります。そのような違いに目を向けて、「個人を健康な生活に導くために最適なヘルスケアの提供を目指す」という変化が起き始めています。
2つ目はヘルスケアの提供場所の多様化です。従来は、病気になれば病院に行って診てもらい、薬局で薬をもらうのが普通でした。しかし、病院や薬局での治療だけがヘルスケアではありません。より大きな概念で考えると、自宅、学校、職場でのヘルスケアもあるはずで、ヘルスケアが関わる幅が従来よりも広がっています。
3つ目はテクノロジーの台頭であり、この変化は非常に大きな影響力を持ちます。従来は、治療薬は薬局で処方されてきたわけですが、テクノロジーが進化することでそのプロセスがアプリを経由してできるようになります。つまり、アプリで治療し、テクノロジーで治癒するといった変化が起きているのです。
魚住:一方で、ヘルスケア分野へ新規参入するのは難しいとも言われています。なぜでしょうか。
堀井:当社が行った企業向け意識調査では、約70%の企業がヘルスケア分野への新規参入に興味や関心があり、そのうちの45%が参入の難しさを感じていることが分かりました。
要因としては、通常のコモディティと異なり、ヘルスケア分野の商品やサービスは個人の価値観や思想が複雑に絡んでくるため、患者のペインポイントやニーズを突き止めることが非常に難しいということがまず挙げられます。その結果、商品もサービスもプロダクトありきになり、しっかりとマーケットに参入しきれない現状があると見ています。
また、医療行為の中で利用されるヘルスケア分野の製品やサービスは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」などの定めによって品質、有効性、安全性を科学的に実証する必要があり、それも参入を難しくしている要因であると言えます。
予防から予後にわたるペイシェントジャーニー全体で考えると、ヘルスケア領域への参入課題を1社だけで解決することは難しいと言え、パートナー企業と組んで行うことが肝要とも言えます。しかし、このエコシステムを構築すること自体も難しく、参入障壁になっています。
安井:規制が多い産業という点では、医師、学会、行政とのコネクションも重要です。サービスをローンチするとどのような規制の対象になるのかという点を自分たちだけで考えるのではなく、当局と議論する必要があります。特に近年はサービスの幅が広がり、1つの業界団体と議論するだけでは解決できないような課題が増えています。そのため、業界団体をまたいで議論していくことが重要です。
さらにマネタイズの問題もあり、新規参入を目指す企業を苦しめる大きな要因となっています。企業がヘルスケア分野への新規参入を検討するにあたっては、ソーシャルグッドなことに取り組むという意識が先行するケースが多いのですが、「どのように稼ぐか」という点の難易度が高いのです。例えば、お金を払うのは患者かもしれませんし、保険会社かもしれません。まずは誰に払ってもらうかを踏まえて事業設計することが求められます。
魚住:参入と事業化にあたってのポイントは何になるでしょうか。
安井:4つあります。1つ目はマネタイズにも関わる要素で、住民や患者のニーズが何なのかを見極めることです。2つ目はエビデンスです。上市する時はもちろん、安心して継続的に使ってもらうためにもエビデンスは必要です。3つ目がエコシステムの形成です。ヘルスケアの問題は製薬メーカー1社と病院1つで解決できるものではありません。保険業界、テックプロバイダー、行政など多様なプレーヤーの関与が必要となるため、エコシステムの形成とそのインセンティブの設定が大きなポイントとなります。4つ目はケイパビリティの確保です。自社でケイパビリティを有していない場合、必要な力を持つ企業を買収するのか、あるいは他企業の連携で補完するのかといった方法を検討、実行していく必要があります。
魚住:具体的な成功事例を挙げていただけますでしょうか。
安井:例えば、コンビニエンスストアなどで売っている「ストレスを緩和するチョコレート」のような商品が分かりやすいかもしれません。
堀井:安井さんが2つ目に挙げたエビデンスの例ですね。ストレス軽減につながる成分が含まれていることを科学的に立証した裏付けがあったことから、消費者の間で人気が高まったのだと思います。また、ルールメイキングというところでは、PwCのTechnology Laboratoryに在籍している山川義徳ディレクターは、脳の健康管理を指標化することを推奨しています。脳に良いかどうかを、誰にでも分かる比較可能な数字で表すことが、商品やサービスの付加価値となります。
魚住:ヘルスケア分野への参入を支援するためのケイパビリティについて教えてください。
堀井:各疾患領域のみならずバイオサイエンス、データプライバシーなど多種多様な領域のプロフェッショナルが揃っていることです。これは参入の障壁を乗り越え、成功要因の1つであるエコシステムの構築につながるものです。例えば、行政、保険、テックベンダー、各領域の専門家とつながる力を持っていることや、その根底として、PwCグローバルネットワーク内外のステークホルダーを巻き込んでいくカルチャーが醸成されていることが、PwCのケイパビリティです。
また、より具体的に事業化を考えていくためには、現在の課題に終始していても話が進みません。未来がどうなるのかを予測し、そこからバックキャストで考えながら施策を提言していく必要があります。その点、PwCにはクライアントを取り巻く未来の環境を予測し、クライアントと一緒に施策を考えていくフューチャーデザインラボがあります。このような取り組みを行っている点も私たちのケイパビリティです。
魚住:これらのケイパビリティにより、PwCはどのような提供価値を創出できるのでしょうか。
堀井:ひと口にヘルスケアといっても疾患ごとにやるべきことは異なり、「薬が必要なのか」「手術が必要なのか」といった点でも異なります。その点、私たちは多様なプロフェッショナルの知見を結集させ、ビジネスや医療に係る政策を提案することができます。
2つ目の提供価値として、ヘルスケア関連の科学的なソリューションを提供できるということが挙げられます。
3つ目は、エコシステムの構築に貢献できることです。これはヘルスケアチーム内だけではなく、ハイテク企業のサポートチーム、公共団体のサポートチームなどと連携することで、インダストリーの枠を超えたエコシステムをクライアント向けに構築できます。
また、1社ではできない取り組みを複数のパートナーを巻き込みながら推進していく世界観を常に持ってます。例えば、M&Aなども含めた施策やシナジー効果を出す戦略を描くことから、実行に至るまで支援できることが大きな提供価値です。
魚住:PwCのHIA(Health Industries Advisory)チームと、ヘルスケア参入支援の住み分けを教えてください。
堀井:HIAの主なクライアントは製薬企業、医療機器メーカー、病院です。一方、このヘルスケア参入支援のイニシアチブではヘルスケア分野への参入を希望、検討している、ヘルスケア業界の外にいる企業を主な対象として支援しています。インダストリーの枠を越えた連携により、異業種からの参入をメインとして支えていくところ、その支援に特化した専門チームを作ったところが大きなポイントです。また、業界特性や新規参入のための各種障害についてはHIAに豊富な知見が蓄積されていますので、それらはイニシアチブの活動において活かすことができると考えています。
魚住:最後にメッセージをお願いします。
安井:ヘルスケアは非常にホットな分野です。行きつく先はウェルビーイングであり、私たちの尊厳をどのように保ち、QOLをどのように安定させ、高めていくかという議論そのものだと思います。個人として、この議論に携われることにワクワクしています。ステークホルダーとの利害を調整しながら進めていく部分で難しさはありますが、だからこそ、私たちコンサルタントが培ってきた力を発揮することができます。各領域のプロフェッショナルの力を結集させ、座組みを構築する力。コンセンサスを取って同じ方向に進めていくリーダーシップ。そういったPwCの強みをいかんなく発揮できるヘルスケアチームに注目していただきたいですね。
堀井:ヘルスケア分野への参入支援は組織横断的な取り組みが非常に重要で、HIAだけではなく、他のインダストリーチームの方々とワンチームとなって取り組むことが成功へのカギとなります。心を燃やし、より多くの人と一緒にワークしながら、ヘルスケアチームのミッションである日本の医療への貢献を実現します。
PwCコンサルティングが課題解決のための立ち上げたイニシアチブでは、「3つのDによる変革 」を軸に、 企業が抱える課題を多面的に捉え、デジタルを活用してこれまでにない解決策を模索し、サービスや業界を超えてコレクティブに協働することで、クライアントの経営変革を加速していきます。
製薬業界の未来を見据えた戦略的アプローチと必要な能力について論じる本稿では、2025年以降の変革的なトレンドや価値創造の方法を探り、特にAIの影響、バイオロジーの進歩、薬価引き下げの圧力、患者中心主義などに対応するための戦略を提案して います。
PwCコンサルティングが経営強化・業務改善支援を行っている北杜市立塩川病院・院長の三枝修氏および北杜市立甲陽病院・院長の中瀬一氏に、これまでのご御経験を踏まえて地域医療の魅力を存分に語っていただきました。
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