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住友化学株式会社(以下、住友化学)では、2019年度から「DX戦略1.0(AI、IoT、RPA活用などによる既存の業務プロセス改善)」、「DX戦略2.0(顧客接点強化・満足度向上に着目したデータドリブン経営)」による生産性向上と既存事業の競争力確保に資する取り組みを展開しています。2023年度からは、データ利活用に関する多様で豊富なビジネスアイデアを蓄積し、有望なアイデアを素早く実現することを目指したDX戦略3.0(データマネタイゼーションプロジェクト)を推進。PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、クライアントへのDX実現支援を通じて培った知見とノウハウを活かし、同社のDX戦略3.0の円滑な立ち上げと自走化に向けた伴走支援を行いました。
両社のメンバーがこの取り組みを振り返る座談会の後編では、プロジェクトを通じて立ち上げたデジタルプラットフォーム「Biondo」の事業化に向けた課題と、その解決策について語り合いました。
(本文中敬称略)
西野信也氏、青木幹雄氏、米山敏広氏、ならびにDX戦略3.0プロジェクト支援メンバー
登場者
西野 信也氏
住友化学株式会社 デジタル革新部 部長
博士(工学)
青木 幹雄氏
住友化学株式会社 バイオサイエンス研究所 研究グループマネージャー(生体解析)
博士(理学)
米山 敏広氏
住友化学株式会社 技術・研究企画部 主任部員
博士(薬科学)
木下 尚悟
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
荒井 叙哉
PwCコンサルティング合同会社 エクスペリエンスコンサルティング パートナー
青木 博信
PwCコンサルティング合同会社 エクスペリエンスコンサルティング ディレクター
ファシリテーター
宿院 享
PwCコンサルティング合同会社 アナリティクスインサイツ シニアマネージャー
DX戦略3.0の第1弾サービスとして、2024年7月から「Biondo」がスタートしました。住友化学としても新たな取り組みだったかと思いますが、どのように検討を進めていったのでしょうか。
西野:
データマネタイゼーションを目的としたこのプロジェクトは、4つのフェーズに分けて進めました。1つ目は、アイデア募集と選定のフェーズです。社内の各事業部門から新規事業につながるアイデアを募集し、アイディエーションやワークショップを行いました。その内容を踏まえて、顧客体験の観点から、収益性、既存事業や市場との親和性、事業としての新規性でアイデアを評価しました。ここで選ばれたのがBiondoの元となるアイデアでした。
米山:
2つ目はクリエイトフェーズです。ここではBiondoが想定するターゲットユーザーのペルソナ像の解像度を上げて、ユーザーインタビューを行ってサービス内容を具体化しました。また、インタビュー結果をもとに市場性の検証、収益の試算、システム設計、システムの要件定義を行い、開発着手に向けた準備を行いました。
青木:
アイディエーションを行うトライアルフェーズでは、ワイワイ、ガヤガヤと参加者が自由に意見を出しながらアイデアを発散させました。その後、BiondoがDX戦略3.0のテーマに選定されると、そこからの3カ月でアイデアを具体化・収束させ、投資の意思決定ができるだけのピッチ資料に落とし込みました。その過程では、PwCコンサルティングの協力を得てユーザー候補となる企業や人のインタビューを行い、顧客への提供価値を肉付けしながら少しずつ事業の精度と粒度を高めていきました。
木下:
顧客に価値提供できるプロダクト開発という点では、見込み顧客の1つである化粧品会社の人にインタビューを実施して話を聞くことができました。手触り感と手応えを獲得しながら進められたのが良かったですね。
青木:
そう思います。実際の想定ユーザーからのフィードバックを獲得できたことで、どのようなサービス設計が可能か、どのようなサービスで、どれくらいの収益が得られそうなのか、価値を感じてもらえるサービスを継続的に実行していくためにどれくらいの体制が必要なのかといった、事業の根幹となる要件を短期間で詰めていくことができました。
米山:
それらを踏まえ、3つ目のローンチフェーズに入りました。ここでは、収支計画、業務と組織の設計、一般公開に向けたマーケティング計画を検討しました。サービス公開に向けた準備を行いながら、プロダクト開発もアジャイルに進めました。スピード重視のアジャイル開発アプローチは馴染みが薄く、苦労と困惑がありました。
青木:
ローンチフェーズでは、公開後のオペレーションも視野に入れながら、業務フローと、それに対応する体制整備やドキュメント作成など多くの作業が発生しました。ここはPwCコンサルティングの伴走支援が役立ちました。印象的だったのは、PwCコンサルティングのメンバーが当社の研究所に来て、研究メンバーと一緒にオペレーションのワークフローを作りました。その姿勢を見て、プロジェクトに強くコミットしていると感じました。
西野:
プロジェクトのコミットという点では、1つ前のクリエイトフェーズでも、PwCコンサルティングのエクスペリエンスセンターをプロジェクトルームとして開放してもらい、住友化学のメンバーが毎日足を運ぶような議論の進め方をしていました。対面のコミュニケーションで、PwCコンサルティングのメンバーの熱意の高さ、強いコミットメントを感じましたね。
荒井:
特にプロジェクトが本格化するクリエイトフェーズでは、住友化学とPwCが一致団結して新規事業開発に取り組むチーム全体の熱量も大事でしたし、エクスペリエンスセンターという同じ空間を共有しながら対面でプロジェクトを推進できたことも大きかったと思います。
青木(博):
異なるバックグラウンドを持つメンバーがOJT形式で密にコミュニケーションを取ることによって創発的にアイデアを出し、短期間で計画を練り上げることができました。DX人材に求めるスキルの定義、人材育成方針の検討を行いつつ、ナレッジを整理しながら自走化に向けた体制の構築を支援できたと思っています。
米山:
そうですね。無事にローンチまで漕ぎ着けることができ、これからは最後のオペレートフェーズに入ります。サービスを公開して事業として運営していく中で、引き続きインタビューやアンケートを通じて顧客からのフィードバックを獲得し、継続的にプロダクトの強化、規模の拡大を行っていきます。
新たな取り組みを進める中で、決して順風満帆ではなかったと思います。振り返ってみると、どのような課題がありましたか。
西野:
1つには、人の課題にはいつも頭を悩まされました。社内には新規事業開発の経験者がほとんどいないにも関わらず、フェーズが進むにつれてプロジェクトで求められる人材・スキルは多様化・細分化していきました。どこからどのように人を獲得するか、という点で、フェーズごとに上層とのタフな交渉がありましたね。実際には、未経験者であっても、ポテンシャルの高さやプロジェクトへの関心の深さ、そして何より新しいことに挑戦する意欲を重視してメンバーをアサインしたのですが、結果的に期待した以上の効果が得られていると感じます。このプロジェクトを経験した人材が、将来的には他部署でも活躍することを期待しています。
青木(博):
住友化学のメンバーの成長には、PwCコンサルティング側でもかなり時間をかけてフォローしました。BXTの幅広い知見を持つコンサルタントが、プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャー、エクスペリエンス、テクノロジーなどの各領域の担当者に張り付き、チーム間連携やバックログの優先順位付け、インタビュー、リサーチ作業など、ほぼ全てのタスクの遂行を支援しました。また、住友化学のメンバーへのフィードバックも高い頻度で行い、未経験者がプロジェクトの戦力として迅速に立ち上がるように努めました。
木下:
住友化学の若いメンバーの成長は著しいです。Value-nautsのメンバーには「こうしたい」という強い思いがあり、一つひとつの発言に意思を感じます。最初は従来の事業と異なるスピード感に戸惑うメンバーもいたと思いますが、「個別にフィードバックをください」との声をもらうこともあり、基礎体力がついたのではないかと思います。
西野:
プロジェクトはメンバーにとってかなりプレッシャーであったと同時に、貴重な経験になりました。パーソナルトレーニングに近い感覚で成果を求め続けた1年を通じて、筋肉がつき、メンタルも強くなり、自ら体験したからこそ人に伝える力もついたと思います。
青木(博):
住友化学が手掛ける従来のビジネスと、今回のデータマネタイゼーションプロジェクトでは、プロダクトマネジメントの観点でも難しさがあったのではないでしょうか。
青木:
おっしゃるとおりです。いわゆるものづくり事業は、完璧に近い状態までプロダクトを作り込み、工業化していくプロセスで進んでいきます。そのため、研究開発に1年かけ、その後の3年で事業化を目指すというのが、従来のスピード感です。一方で、今回のデータマネタイゼーションプロジェクトでは、1年もかからない期間で外部に価値を問うプロダクトを作るところまで進めており、そのスピード感は全く次元が異なっています。
また、当社の既存事業の開発やものづくリは、どう作り、どういう観点でチェックしていくのかをフレーム化しています。一方、デジタルプロダクトは明確なフレームを持たない状態で取り組まなければなりませんでした。
西野:
ものづくりはスペックを決めてから動き出しますが、デジタルはどこを目指すかが決まらない状態で動き出すことも大きな違いです。方向性が見えていない不安を感じながら検証を繰り返していく点が大きく異なりました。
木下:
ローンチに向けて進んでいく過程で、事業化の可能性を実感したタイミングはありましたか。
米山:
当初は「需要があるのだろうか」「市場に受け入れられるだろうか」といった漠然とした不安がありました。しかし、オペレーションフェーズでお客さまから話を聞き、良い評価やコメントをもらった時に、Biondoがお客さまに求められている事業であると実感できました。
青木:
やはりお客さまからのフィードバックは重要だと思います。こういう形のMVP(Minimum Viable Product)であればお客さまに使ってもらえる、喜んでもらえるといったイメージが固まり、それが徐々に確信に変わっていきました。
西野:
私は、最初から「このアイデアはいける」と確信していましたよ。(笑)
(左から)荒井叙哉、木下尚悟、青木博信
Biondoの今後の展望について教えてください。
青木:
Biondoの公開とともに、さまざまな素材とデータが集まり始めています。それらを活用する人の利便性も高まり、資源循環に資するマッチングも広がっていくはずです。そこで収益性を担保しながら、数年以内には1つの事業として一定の売上規模にしたいと思っています。また、素材循環の観点では、住友化学が掲げている社会課題の解決や資源循環の貢献に紐付けながら、Biondoだけにとどまらずに化学反応を起こしながら機能性素材の開発などにも広げられると思っています。
木下:
Biondoは資源循環の領域でさらに広がっていく可能性があると思っています。例えば、食品廃棄が多い日本は廃棄ビジネスの市場規模が大きく、1万社を超える事業者が存在しています。ここにBiondoが関わることで廃棄処理から再利用の流れが生まれ、産業構造を変革するトリガーにもなるのではないでしょうか。
米山:
そうですね。スコープとしては私たちも視野に入れていますし、Biondoで廃棄物利用を促進するだけでなくて、その他の課題も含めた新しいソリューションを開発していくこともできると思っています。
木下:
天然素材は扱いが難しく、粉末にしたり乾燥させたりするといった加工が必要です。その分野も視野に入れることで既存事業とのシナジーを創出できそうですね。
西野:
DX戦略のフレームワークである「ダブルハーベスト」を踏まえて、1つの成果を次の新しい成果につなげていくループサイクルを構築できると思っています。Biondoで得た情報を既存事業に生かすことが既存事業の強化につながり、全く新しいソリューションを生み出す新結合にもなります。データが集まるほど幅広い展開性が期待できるため、その波及効果による化学反応は私たちも期待しています。
荒井:
中長期的な視点で言えば、Biondoが循環型経済の新しいブランドとして認知されることで、Biondoブランドで消費財を売るといった展開も考えられます。「MOTTAINAI(もったいない)」の概念がある日本でこそ、Biondoの取り組みは幅広く受け入れられ、新たな市場創造と価値の創出につながると思っています。
木下:
例えば、私は家庭菜園をしていて住友化学の天然物由来の農薬などに興味があるのですが、近所のホームセンターでは扱っていません。そのような機会損失もあると考えると、デジタル物販のプラットフォームとして広がっていく可能性も期待できます。
青木:
農業、園芸などの分野では、バイオサイエンス研究所と事業部門が協働して開発した病害虫等に関する困り事の解決をサポートするアプリやウェブサービスがあります。虫や葉の写真をスマホで撮り、それをAIで解析して虫や病気の種類を判別し、有効薬剤までナビゲートするものです。今後はそのようなアプリやウェブサービスとともに、ソリューションビジネスとして更に広がっていく可能性も考えられますね。
図表2:住友化学が保有する分析技術、データ、ノウハウを活かしたデジタルプラットフォーム「Biondo」
住友化学株式会社提供
DX戦略3.0の今後についてはどのような展望がありますか。
西野:
プロジェクトを立ち上げた当初からの課題として、自立と自走が挙げられます。すでに社内では第2弾サービスのテーマを募り、早ければ今秋から本格検討に着手します。第2弾サービスでは、PwCコンサルティングの皆さんからは卒業し、住友化学が自分たちの力で取り組むため、Biondoに携わったメンバーの経験が生きると思います。
青木(博):
「次は自社で取り組む」という言葉は非常に力強く感じます。私たちとしては嬉しさとともに寂しさも感じますが、住友化学にとって重要な一歩を応援したいと思っています。
木下:
DX戦略3.0は、これから新規メンバーを増やしながら組織として成長していくステージに入っていきます。価値観やミッションを共有しながら仲間を増やしていくこともチャレンジですね。
西野:
PwCコンサルティングとの協業で得た経験をナレッジ化してカスタマイズし、新たにジョインするメンバーに文化として浸透させていきたいと思っています。また、これを1つの成功事例として社内に周知し、私たちが得た新規事業開発の情報やデジタルプロダクトを作る仕組みを共有する施策にも取り組んでいきたいです。