ルワンダにおけるPoC事業:PPPによる医療施設サービスデジタル化

  • 2025-04-07

はじめに

本編第1回では、公共サービスDXを加速する新たな官民連携方式であるDigital PPP(Public Private Partnership)と、GovTech産業の広大な規模について解説しました。本稿では補足として、ルワンダ国に向けた「デジタルイノベーション促進プロジェクト」の実証実験(PoC)事業として実施した医療施設のライセンス管理プラットフォームの開発について、背景から開発の流れの詳細を紹介します。

医療施設ライセンス管理プラットフォーム開発事業

背景

ルワンダは、アフリカにおけるICT立国として国際的に高い評価認知を得ていますが、依然として多くの課題に直面しています。主には、国民のデジタルリテラシーの向上、行政サービスのデジタル化の加速、投資の促進、起業環境および資金調達環境の改善が挙げられます。
そこで国際協力機構(JICA)は、ルワンダにおけるGovTech産業の創出と行政のデジタル化の推進を目指して「デジタルイノベーション促進プロジェクト」を立ち上げ、PwCコンサルティングも支援しています。本プロジェクトの一環として、行政や社会に大きな影響を与える分野におけるPoCが進行しており、医療施設のライセンス管理プラットフォームの開発が対象事業の一つに選ばれました。

本事業の目的

ルワンダでは、保健省(MoH)が医療施設の運営に必要なライセンスの発行を担当しています。図表1に示すように、これまでMoHはライセンス発行のプロセスおよび管理を紙ベースの手作業で行っていたため、効率性とデータ管理に課題がありました。そこで、本事業では医療施設ライセンスの発行から管理までを統合するプラットフォームを開発し、業務のデジタル化を図ることで、効率性の向上およびデータの正確性と透明性の改善を目的としました。

図表1:医療施設ライセンス管理のデジタル化による課題の解決

開発事業者の選定

開発事業者の入札にあたっては、上述の課題と期待される成果を記載したRFP*1および評価基準を公開し、企業規模の制限を設けずに関心のある企業を広く募りました。評価基準は技術面を高く評価するように設定し、行政評価を20%、技術的実現可能性および事業継続計画を70%、財務評価を10%の配分としました(図表2)。16件の入札から選定されたのが、技術面が最も高く評価されたOrion Systems & Design(以下、Orion社)です。

図表2:入札事業者に対する評価基準

開発スケジュール

開発スケジュールは、契約締結時に4つの成果物の提出期限を事前に設定しました(図表3)。それぞれの成果物が承認されるごとに報酬が段階的に支払われる契約形式を採用しました。このようにマイルストーンを事前に設定することで、品質を確保しながら開発を進めることが可能になり、報酬の分割支払いで支出リスクも軽減できます。

図表3:各成果物の期限と支払い報酬の割合

開発体制

開発チームにはMoHやルワンダICT省(MINICT)およびルワンダ情報化振興局(RISA)からの人員を配置することで、開発を進めるOrion社との円滑なコミュニケーションを促進しました(図表4)。

図表4:開発体制と会議体

開発手法

Orion社は自社の経験を基に、アジャイル手法の一種であるスクラムフレームワーク*2を採用しました。ステークホルダーと開発者の間で密接に連携し、ニーズに応じた開発を重視した、反復的かつ漸進的なプロセスでプロジェクトを推進しました。
開発したプラットフォームは2回のユーザー受入テストを通じて全てのテストケースをクリアし、本稼働しました。

収益性と今後の展望

今後の展望として、Orion社のような公共サービスDXに携わった企業には、開発に対する報酬に加えて、政府の規制のもとでサービスを運営し、政府やユーザーから利用料を徴収する仕組みも考えられます。確立された技術やノウハウを同様のニーズを持つ他国に輸出することで、さらなる収益源の開拓も期待できるでしょう。このように、GovTech産業には複数の収益軸が存在するため、広大な市場規模が見込まれるのです(図表5)。

図表5:GovTech産業の収益軸

*1:RFP(Request for Proposal, 提案依頼書)= システム導入の際に、発注者が必要な要件や実現したい業務などを示す書類

*2:スクラムフレームワーク = 少人数のチームを組み、短期間で開発サイクルを繰り返し行う開発手法

主要メンバー

岡村 周実

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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川埜 裕介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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途上国政府・産業DXに関する対談・コラム

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