
「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第13回「地域経済エコシステム【後編】」
地域経済エコシステムとは、行政や企業などのさまざまなプレイヤーがデジタルやデータを活用し、地域の魅力を発信することで地域経済・地域コミュニティを活性化するエコシステムです。前編・後編の2回にわたり解説します。
2020-10-19
前編で解説したように、スマートロジスティクス・エコシステム(※)は、さまざまな物流データを収集・連携することで、搬送経路・時間、倉庫内の在庫などを最適化したロジスティクスサービスおよびその発展型としてサプライチェーンサービスを提供するエコシステムです。スマートロジスティクス・エコシステムにおけるデジタルの活用は物流サービスの高効率化・多様化と、サプライチェーンレベルでの付加価値の向上という影響をもたらします。
こうしたデジタルによる影響を踏まえると、スマートロジスティクス・エコシステムの戦略の方向性は、提供サービスの広がりと、データの利活用の広さの切り口から大きく4つに分けられます。
地図データやGPS(衛星利用測位システム)データを始めとする位置情報と、トラックの積載貨物量を踏まえ、効率的な配送ルートを設定し配送コストを下げることなどが該当します。
車両のシェアリングや、荷主と物流事業者のマッチングを進めることが該当します。例えば、倉庫や車両の空き状況をデータ化し、クラウドで共有しAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)連携することで、これまで人間が行っていたマッチング・シェアリングのスピード・効率が向上します。このようなマッチング・シェアリングを、行き荷・帰り荷、季節、配送時間帯によって需要変動が大きい地域や配送ルート間で行い、トラックやドライバーなどのアセットを効率的に活用します。
ロジスティクスの領域など、顧客のサプライチェーンに関連したデータを利活用し、顧客にサプライチェーンの最適化提案をすることが該当します。そのためには、サプライチェーン内のデジタル化を一層推進し、IoTを活用して収集したデータや、過去の取引データの利活用によって顧客企業のサプライチェーンの中で自社が担っている部分のコストやリードタイムを可視化する必要があります。
他のデジタルエコシステムと連携し、在庫や需要などのサプライチェーンデータ、サプライチェーンに関わるデータを踏まえて、顧客のサプライチェーンの付加価値を向上させることが該当します。
デジタルコマースとの連携では、サプライチェーン上の製品量をリアルタイムで把握することで在庫量の最適化や横持ち配送の低減できるほか、需要量を確認して欠品を防止したり、需要予測に基づいた発注などを行うことができます。スマートファクトリー・エコシステムと連携し、データを受け取った物流事業者が3Dプリンターで製品を製造し、配送することも可能となります。
サプライチェーン外部データとの連携では、地域の交通情報や物流インフラの状況、気象予報、災害の発生状況などのデータと、サプライチェーンのデータを組み合わせてサプライチェーンの頑強化を行うことが挙げられます。
(※)「スマートロジスティクス®」は、株式会社日立物流の登録商標です。
ロジスティクスには、EC(電子商取引)の増加や、工場の国内回帰の流れから荷物の小口化・発送の高頻度化が進む中で、人手不足、収益性の低下、CO2の排出量削減など多数の課題が浮き彫りとなってきています。オーガナイザーはこれらの課題を解決しつつ、他のエコシステムと連携して顧客のサプライチェーンの付加価値を向上する必要があります。
このように多岐にわたる課題を解決するために、エコシステムとしての共通の仕組み、参画するプレイヤー別のインセンティブを設計し、多様なプレイヤーを集めることが必要です。プレイヤーの中でも、中小の物流事業者は、オペレーションにデジタル化が十分に浸透していないと想定されるため、これらの企業が参画しやすいインセンティブや参画前後のサポートが必要です。
共通の仕組みを作る上では、各社が保有するデータや、新たに取得するデータなど、サプライチェーンの各所に散在するデータをデジタル化して収集・蓄積・活用することがキーとなります。物流企業は事業者の規模によっては電話やFAXでのやり取りが主流で、オペレーション関連のデータが蓄積されにくい状況にあったり、かつデータが散在していたりすることがありえます。
KSFはサプライチェーン上のプレイヤー・顧客のデータを収集し、データを基盤として、各プレイヤー別にインセンティブを設計し、関連するプレイヤーを巻き込んでいくことです。その上で、プレイヤーの提供価値を統合し、顧客のサプライチェーン全体の可視化やシステム統一など、顧客のオペレーションにまで入り込み、PLインパクトやBCP(事業継続計画)など、攻めと守りの両面で付加価値を顧客に提供することであると考えられます。
デジタルプロバイダーに求められることは、ドライバーやアセットの有効活用を促進して生産性を上げることや属人化を低減することです。ドライバーやアセットの有効活用は、CO2の排出量の低減にも寄与します。
例えば属人化していた倉庫や車両・ドライバーのマッチングを効率化したり、生産量・在庫量・販売実績データを取得し、AI(人工知能)が解析して需要予測に基づきスピーディーに生産計画を立てたりすることが挙げられます。
これらを踏まえると、KSFはリアルタイムでサプライチェーンに関わるデータを可視化し、データに基づいて需要予測や生産計画、在宅予測、マッチングなど、顧客のサプライチェーンに欠かせない機能として組み込まれていくことと考えられます。
サービスプロバイダーには、物流現場での人手不足対策として作業の無人化や負荷低減などの省人化といった機能が求められます。
例えば、トラックの隊列走行やピッキングの際に棚ごと運搬を行うなど、オーガナイザーやデジタルプロバイダーと連携してオペレーションを変革することが挙げられます。この他にも受け入れ荷物のサイズ・形状を絞り込んだ上で倉庫自動化のケイパビリティを獲得し、オーガナイザーへ倉庫内業務をサービスとして提供したり、倉庫の無人化(省人化)を前提として物流に適した安価な立地に拠点を設立したりすることが挙げられます。
このため、KSFは物流拠点丸ごとの無人化(省人化)が可能なデジタル領域やロボティクスのケイパビリティを有し、オーガナイザーに倉庫内業務などのオペレーションをサービスとして提供可能であることと考えられます。
エコシステム形成のためには、販売量や生産量など、ロジスティクスだけでなくサプライチェーンのデータを連携させることが重要です。また、気候や交通量、下請け企業の情報を加味してサプライチェーンの最適化を行うニーズもあると考えられます。これらに加え、IoTのように常にネットワークに接続されているデバイスに対するセキュリティの堅牢さも必要となります。
よって、KSFとしてはロジスティクスに留まらずサプライチェーン、およびサプライチェーン外部データを統合し、サプライチェーン全体がリアルタイムに可視化可能なセキュアで安定なシステムであること、物流事業者がデータを簡便に活用可能なUI(ユーザーインターフェース)を有することと考えられます。加えて、オープンかつ標準化されたEDI(Electronic Data Interchange:商取引に関するデジタルデータをやり取りする仕組み)フォーマットを活用するなど、エコシステムの各プレイヤーの既存システムとの接続を担保することも重要です。
スマートロジスティクス・エコシステムの形成に向けては、人手不足の中でECの増加や工場の国内回帰が進んで物流量が増加することを踏まえ、物流のキャパシティを増やした上で、顧客のサプライチェーンを担うなどサービス領域を広げることが必要です。
物流のキャパシティを増やすためには、物流企業の多数を占める中小の物流事業者を全国またはエリア規模でネットワーク化することが有効です。ネットワークを有効活用するには、デジタル化が必要となりますが、中小の物流事業者の中にはデジタル化への投資および活用が十分に進んでいないところも多いため、各物流事業者にデジタル化の推進を促し、アセットのデジタル化やオペレーション変革を行うことが必要となります。そのためには、オーガナイザーはサービスプロバイダー、デジタルプロバイダー、システムプラットフォーマーとの連携も強化する必要があります。
これらにより、顧客にとっては運べる荷物が増え、荷物に応じた配送方法を選択できるだけでなく、物流の効率化や可視化というメリットが享受できます。また、物流事業者にとっては、物流のキャパシティを増やした上で、小売やデジタルコマースといった事業者とアライアンスを組み、在庫管理や発注などを共同で行うサプライチェーンを構築することで、新たな収益機会も得ることが可能となります。
地域経済エコシステムとは、行政や企業などのさまざまなプレイヤーがデジタルやデータを活用し、地域の魅力を発信することで地域経済・地域コミュニティを活性化するエコシステムです。前編・後編の2回にわたり解説します。
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スマートホーム・エコシステムとは、IoTなどのデジタルを駆使し、個々のライフスタイルに応じたサービスを提供することで、より便利・安全・快適な暮らしを実現するエコシステムです。前編・後編の2回にわたり解説します。
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本シリーズでは、地域経済の需要喚起に資するデジタル地域通貨・共通ポイント事業、さらにはデジタル版プレミアム付商品券などの準ずる事業を取り上げ、事業面やデジタル技術の観点からその多様性を整理し、今後の持続的なあり方について考察します。
2023年は変革とディールがCEOの価値創造戦略の前面に押し出され、M&Aにとって活気に満ちた時期になるでしょう。M&Aやポートフォリオの最適化は、事業戦略を再編し、成長を促進するとともに、持続的な成果を達成する上で重要な手段となります。
「日本企業のグローバル戦略動向調査2022-2023」の続編として、「トランスフォーメーション(ガバナンス改革を含む)」「地政学リスク(中国市場の不確実性)」の各テーマを俯瞰的に考察しました。日本企業の課題や今後とるべき対応策に焦点を当て、日本企業の「成長への未来」を拓く手がかりを探ります。
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