第11回「スマートホーム・エコシステム【後編】」

2020-12-07

4. スマートホーム・エコシステムの戦略の方向性

前回解説したように、スマートホーム・エコシステムとは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などのデジタルを駆使し、個々のライフスタイルに応じた多様なサービスを提供することで、より便利・安全・快適な暮らしを実現するエコシステムです。スマートホーム・エコシステムにおけるデジタルの影響としては、住宅内での提供サービスの拡大と、ヒト・モノに関するデータの利活用によるサービスの高度化が挙げられます。

こうしたデジタルの影響を踏まえると、スマートホーム・エコシステムの戦略は、事業領域・データの利活用の広さという切り口から大きく4つに分けられます。

  1. ヒトのデータを元にした住宅内での利便性・快適性・安全性向上
    住宅でのデータに基づいたサービスの提供が該当します。例えば、離れて暮らす家族や留守番中の家族、ペットの行動データを活用した見守りサービスや、居住者の行動パターンに基づいた家電の制御サービスが挙げられます。
  2. モノのデータを元にした住宅内での利便性・快適性・安全性向上
    IoTなどから収集されたモノのデータを元に、サービスの質を向上させることが該当します。例えば、住宅内に設置されたセンサーデータを元に、住宅のセキュリティを強化したり、温湿度データに基づいて家電を自動制御したり、電力の使用状況を踏まえた節電のアドバイスを行うことが挙げられます。
  3. 住宅外での行動に関わるサービスを提供
    居住者の好みを把握して住宅外での行動に関わるサービスを提供することが該当します。例えば、スマートスピーカーに蓄積された居住者の趣味嗜好に、スケジュールや天気データをかけ合わせて服装のアドバイスをしたり、居住者の好みをデータとして蓄積することで飲食店のリコメンドを行ったりと、パーソナライズした広告を掲出することが挙げられます。
  4. 住宅外の多数のモノ・サービスが住宅内とつながり、シームレスな顧客体験を提供
    他のデジタルエコシステムと連携し、これまで住宅外で提供されてきたヘルスケアやエンターテイメントなどのサービスが住宅内で、日常の生活の一部としてシームレスに提供されることが該当します。例えば、IoTマットレスで睡眠データを取得し、医療機関の診察履歴と組み合わせてヘルスケアのアドバイスを行ったり、所有する衣類をスキャンして居住者のファッションの傾向に基づいて買い物の提案をしたり、VR(仮想現実)を活用して自宅にいながら別の場所にいる仲間と一緒にフィットネスを行ったり、没入感のあるeスポーツ大会へ参加したり、電力データから在宅情報を予測して地域の物流を効率化したりすることが挙げられます。このように、他のデジタルエコシステムとも連携してシームレスな顧客体験を提供していきます。

6. アライアンスを組む上で留意すべきこと

スマートホーム・エコシステムは黎明期にありますが、スマートホームそのものの認知度は高く、顧客満足度も高いと言われています。このため、市場が立ち上がったフェーズでユーザーをいかに増やすか、そのためにパートナーとどのような形でアライアンスを行うかは非常に重要な論点です。
ユーザーを増やしていくには、サービスの拡充が必要ですし、そのためにはユーザーのデータは欠かせません。スマートホーム・エコシステムの特徴として他のエコシステムと親和性が高い点が挙げられます。この特徴を活かし、住宅内のリアルデータを多数有する企業だけでなく関連性が高いエコシステムのオーガナイザーとアライアンスを構築することも重要となります。また、他のエコシステムと比べると、消費者の価値が多様化することによって大きな影響を受けるエコシステムであり、GAFAなどのメガテックプレイヤーの参入度合いも強いため、自社の現状保有するアセット・ポジショニングをしっかりと踏まえた上でどの方向性に進んでいくべきか検討することが重要です。

執筆者

石本 雄一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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「デジタルエコシステムの最前線」コラム

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