
コラムシリーズ 自治体経営の未来を考える 第三弾 変革ストーリー守破離
負担費用の削減に向け、共同パートナー開拓の時間的余裕を生み出すための具体的なアプローチと、既存構造を創り変え、整えるための変革のストーリーを紹介します。
2022-05-31
参加者
デジタル庁
統括官付参事官付企画官
柳生正毅氏
FRAIM株式会社
代表取締役
堀口圭氏
PwC弁護士法人
パートナー
茂木諭
PwCコンサルティング合同会社
公共事業部デジタルガバメント担当パートナー
上瀬剛
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)上瀬剛、柳生正毅氏、堀口圭氏、茂木諭
上瀬:
2021年9月にデジタル庁が発足し、各省庁のデジタル戦略・政策・体制・予算など含めた制度の見直しが急ピッチで進められています。
デジタル庁を最高決定機関として、デジタル改革、規制改革、行政改革を総合的に推進することで、個人および事業者が新たな価値を創造しやすい社会づくりを進めるという政府方針が本格的に具体化され始めていますが、そのなかでデジタル臨時行政調査会(以下、デジタル臨調)やその下部組織である作業部会、デジタル化検討チームが設けられ、活発な議論や作業が行われています。このおよそ一年間の政府の動きやそれが意味することについて改めて解説いただけますでしょうか。
柳生:
日本のデジタル化の遅れについてはかねてから指摘がありましたが、昨年12月末に行われた2回目のデジタル臨調でお示ししているように、既存の規制や行政がデジタル化に対応しきれておらず、結果として経済社会産業全体のデジタル化が阻害されているということが課題となっています。行政改革、規制改革、デジタル改革といった構造改革を強力に推進していくことが日本の命運を握っているなか、牧島かれん大臣は、規制改革担当大臣、行政改革担当大臣、そしてデジタル大臣を兼ねていらっしゃいます。
ITやデジタル技術を取り込んだ政府像は、以前まで「電子政府」という言葉で表現されてきました。2000年に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(通称:IT基本法)が制定された後に改革が始まりましたが、当時はデジタル化というよりもあくまで仕事をITで代替するという考え方。仕事のやり方そのものを変えるというよりも、一部コンピューターに置き換える、もしくは省人化することが主な趣旨・目的となっていました。
そのため、申請を全てオンライン化するというやや短絡的な発想のもとプロジェクトが進められたこともあります。結果として費用対効果が不明瞭で、誰も使わないオンラインシステムができあがり、政府として大きく反省するということがありました。そうした過去の失敗や教訓も踏まえて、情報通信技術をいかに有効活用するか検討・模索してきたのが直近の動きであり、デジタル庁の創設が一連の改革の大きな節目となっているとも言えると思われます。
上瀬:
これまで政府のデジタル化はIT総合戦略室(以下、IT室)が主に管轄していましたが、位置づけとしてデジタル庁とはどのような違いがあるのでしょうか。
柳生:
IT室は政府の中でIT・デジタル化の旗を振り、各省庁に号令をかける役割を果たしてきました。ただ実際に遂行するのは各省庁であり、それぞれが行政課題を抱えるなかどうしてもデジタル化に注力できずにいました。一方、デジタル庁は各所に対する司令塔機能を持ちながらも、情報システムの整備などをはじめ、デジタル化全般に責任を持ち推進する主体という位置づけとなります。
デジタル庁 統括官付参事官付企画官 柳生正毅氏
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部デジタルガバメント担当パートナー 上瀬剛
上瀬:
デジタル庁ではデジタル臨調を設置していますが、そのなかではどのような議論が行われているかも気になります。デジタル臨調の趣旨や意義も含めてご解説いただけますでしょうか。
柳生:
過去20年間、日本は諸外国と比較して経済成長が停滞しており所得も伸びていません。さらに人口減少も喫緊の課題です。日本国が抱えるさまざまな課題を克服するためには、単に仕事をITで代替するだけでなく、仕事そのもののやり方を変えるという視点が重要になってきます。そのように大局的な世の中の動向を読み解きつつ、デジタル改革を実現するための議論を交わすことがデジタル臨調の趣旨です。
デジタル臨調では日本の各種ルールを総ざらいでチェックしながら、デジタル化を阻害する要因を個別に洗い出しています。法律や政令、通知、通達などに紙や人の介在を必要とする規定がある場合には、デジタル技術を活用できません。規制改革の隘路を見つけ修正可能かどうか調べたり、各省庁と議論しながら具体的な見直しをしたりしています。
一方で、政・省令レベルになると常に新しいものが生み出されていくので、それがアナログ前提の規制になっていないか、またデジタル原則に沿うものかを確認するプロセスの検討を行っています。法制事務自体をデジタル化するための議論も行っています。
なお、デジタル技術については、大企業はもちろん、スタートアップの技術を積極的に組み合わせて活用しながら社会全体のDXを加速していく方法を模索することも、デジタル臨調の重要な取り組みのひとつです。
上瀬:
堀口さんはデジタル臨調のデジタル化検討チームに参加されています。政府会合にて議論されるなかで、起業家として、また民間代表として感じられたこと、気づきなどがあればお聞かせください。
堀口:
デジタル化検討チームの中では、制度の見直し、あるいは見直すべき制度の検証やデジタル化について検討を進めていますが、リストアップされた項目を見て我々自身のビジネスにも多大な影響があることを改めて痛感しています。
例えば、当社は企業の文書のデジタル化を支援していますが、そのなかで原本の問題に直面しています。紙の介在が法律・規制で定められている場合、各社には各規制に準拠した社内規制や業務規程が存在し、さらには紙で管理するための文書の体裁や複雑なワープロソフトの使用方法が定着するなど、課題が構造化されています。
今回、デジタル臨調には常駐や目視など紙・人の介在を見直していこうというテーマもありますが、特に重要事項説明書を法令に沿って記載・作成している不動産や金融など、規制対象となるクライアント企業の業務をデジタル化していくにあたり極めて重要な論点になってくると考えています。というのも、文書自体が印刷を前提にした体裁になっており、表や線、印鑑を押す場所などが細かく配置されているため、その編集には多くの時間や労力がかかります。
また規制自体が文書の作成に影響を及ぼしているという課題もあります。不動産や金融分野以外にも、工場、環境、医薬などの分野では「規制に関連する」文章が多く、各省令・通達・法令のチェックが欠かせません。当社はデジタルデータを使って、改正があった場合にアラートを飛ばし文書作成を容易にするシステムを保有しておりますが、毎年アップデートしなければならない紙文書がたくさん存在するという課題感を常に感じてきました。
デジタル臨調での議論を通じて、デジタル化の障壁になっている制度や規制が見直されることにとても期待しています。
FRAIM株式会社 代表取締役 堀口圭氏
PwC弁護士法人 パートナー 茂木諭
上瀬:
アナログ作業を前提とした法律が、各社のデジタル化や生産性向上の障壁になっているという事実を改めて実感しますね。さまざまなグローバル案件や海外企業との渉外業務の経験を持つ茂木さんから見ると、海外企業の場合は日本と実情が異なるのでしょうか。
茂木:
私が以前外資系法律事務所に在籍していたときに気づいたのは、海外企業はあまり紙ベースの原本にこだわらないということです。契約の際にもいわゆるカウンターパートという方法があって、それぞれ署名欄を別々にPDFで送り署名をする。サインをしたことで契約が成立するというルールを採用している国や企業がほとんどです。サインした紙ベースの原本をクーリエで送って各国で綴じるということもおそらくしていません。元々そういう文化があったのか、グローバル取引が活発に行われている海外企業だからこそプラクティスが根付いたのかは定かではありませんが、日本に限って言えば、原本を互いに送れる環境にあるため紙を保存するという習慣が残っているのではないかという印象を抱いてきました。
なお紙ベースの原本は整理の煩雑さや保管の難しさもあると思うのですが、日本の各企業ではどういう課題を共有しているのでしょうか。最近の動向をお伺いしたいです。
堀口:
まず原本が積み上がると保管代が高くなるという課題感は常に共有されています。また最近では、倉庫に保管した紙の原本データをデジタル化する企業が多いと聞いています。
一方で、電子捺印も普及してきてはいますが、どういう方法で捺印するか統一されている会社は少なく、部署ごと、もしくは部門ごとにさまざまな方法が用いられているというのが多くの企業の現状です。
上瀬:
多くの企業が共通して抱える課題を克服する上でも、デジタル臨調での議論は重要となりそうですね。現在、通知や通達の見直しを含め、規制を総点検するために各省庁のヒアリングが進んでいるということですが、全体的に見ると量は膨大で、省庁ごとにやり方や見解の違いがあると思います。ヒアリングをしていくなかで、各府省はデジタル庁の方針に前向きなのか、また改革に難しさがある場合にデジタル庁ではどのように対応されているのでしょうか。
柳生:
各省庁ともデジタル化は取り組むべき課題であるという認識は強く共有していて、かなり協力的というのが私の率直な感想です。デジタル庁としては、ヒアリングするなかで他省庁の取り組みをシェアしたり、デジタル化のための技術を紹介したりしています。
そこで気付いたのは、最新の技術がどこまで使えて、どれほど精度があるかを各省庁が把握しきれていないという状況があるということです。我々としては、テクノロジーマップを作成して、各省庁をバックアップしていこうと考えています。実は国交省では同じような試みをすでに実践しており、使える技術がどんどん共有されています。
また各省庁が抱える共通した課題としては、ルールを見直す先として、実際にデジタル化につなげることができるか否かです。デジタル対応が可能なルールを制定しても、すでに書面の体裁が煩雑になっているためデジタル化に対応できない、面倒だから引き続き紙でやるというようなことも十分に起こり得ます。ルールに対応したシステムや、提出側も受け取る行政側もともにデジタルに対応した体制をしっかりと構築していかなければならず、それらも含めて検討していくことが必要だと考えています。
上瀬:
ありがとうございます。鼎談前半ではデジタル庁を中心とした各省庁の動きと民間における課題感などについて議論させていただきました。鼎談後半では、政府の法制執務業務支援システム「e-LAWS」の話題などを中心に、デジタルガバメント実現の可能性をさらに掘り下げていきたいと思います。
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