
税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第11回:税務部門の役割と他部門との連携―期待される責任範囲の明確化―
昨今の国際情勢において、関税への備えを企業側も強化することが求められています。主に上場企業や多国籍企業の関税管理における業務上のポイントや税務部門の職掌範囲、調査への対応などについて解説します。
2021-04-20
デジタル経済の急速な進展とともに、多数の国・地域のユーザーにデジタルサービスを提供することで収益を上げる企業が増えています。一方で、現行の法人課税の国際ルールはこのデジタル経済の潮流に沿わなくなってきており、多国籍企業に係るデジタル課税の諸問題に対しては、かねてよりOECD(経済協力開発機構)を中心に、各国・地域でどう対処すべきか議論が重ねられてきました。
こうした状況の中、OECDは、2020年10月、デジタル経済課税所得を市場国に対し適切に配分するためのルールの見直し(第1の柱)と、軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入(第2の柱)に関する青写真(ブループリント)を公表しました1 2。
このブループリントは、デジタル課税に係る2つの柱のアプローチについての大枠合意の内容を踏まえ、第1・第2の柱の主要な政策的課題、原則およびパラメータに関する見解を反映しています。また、見解の相違が残る政策および技術的な課題を特定し、それに続くステップも示されました。
2021年1月に実施された第1・第2の柱のブループリントについてのOECDでのパブリックコンサルテーション3を経て、2021年7月の最終合意に向けたデジタル課税枠組みに関するOECD案の合意への動きが活発化しています。各国の合意に基づく解決策がなければ、デジタルサービスへの一方的な課税拡大につながる恐れがあります。企業にとっては課税や貿易などを巡る訴訟の場面で損害を被る可能性も懸念されるため、今後の動向には注視が必要です。
米国のバイデン政権発足により、この合意に向けた動きの加速が見込まれている一方、依然として先行き不透明な部分も多く残っています。その中には、デジタルサービス税(DST)の導入や、課税制度簡素化の見通しなどが含まれており、多くの多国籍企業への影響が予想されます。こうしたトピックについて、PwC税理士法人の国際税務サービスチームは、PwC欧州地域タックスポリシーリーダーのEdwin Visserにインタビューを行い、より詳しい背景や今後の予測をまとめました4。
Edwin Visser
PwCオランダ パートナー/PwC欧州地域タックスポリシーリーダー
白土 晴久
PwC税理士法人 パートナー
城地 徳政
PwC税理士法人 ディレクター
浅川 和仁
PwC税理士法人 ディレクター
(左から)Visser、白土、城地、浅川
PwC税理士法人 パートナー 白土 晴久
白土:
まずは、自身のバックグラウンドについて聞かせてください。
Visser:
私は、PwCオランダに入社する2015年までの26年間、オランダ財務省の行政官としてさまざまな業務に従事してきました。私の財務省での最後の役職は税制政策法令総局の副局長であり、OECD租税委員会のオランダ代表を務めた経験も有します。PwCではEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域のタックスポリシーリーダーを務めています。2017年にスタートしたデジタル経済課税に係るBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクト全体に携わっています。OECDの全てのパブリックコンサルテーションに対して提言を行っています。
また、私はPwCグローバルタックスポリシーコアチームメンバーも務めています。同チームは、世界各国のPwCメンバーファームからのプロフェッショナル約10名で構成されており、グローバルな税務政策に対し責任を負っています。私の他にStef van Weeghel(PwCオランダ)がリーダー、William Morris(PwC米国)が副リーダーとして、ともに活動をリードしています。異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まった多様性の高いチームで、多面的な視点からの議論が可能となっています。
浅川:
PwCグローバルタックスポリシーコアチームの具体的な活動は。
Visser:
私たちの活動の目的は、国際機関(OECD、IMF(国際通貨基金)、EUなど)のポリシーメーカーへの建設的な関与を通じて、私たちの専門性を生かし、より適切な国際課税制度の構築に貢献することです。その際、必ずしも私たちはクライアント企業の利益を代表するものではありませんが、政策立案者や政治家の方々が十分な情報に基づいた適切な判断ができるように、PwCネットワークの知識・知見を共有しています。
デジタル経済課税プロジェクトへの参加にあたっては、パブリックコンサルテーションにおいてPwCグローバルネットワークを代表して講演しました。また、2021年1月には第1・第2の柱についての包括的かつ詳細なテクニカルコメントを記載した提言書をOECDに提出しました。
PwC税理士法人 ディレクター 浅川 和仁
PwCオランダ パートナー Edwin Visser
城地:
2020年10月にOECDが公表した第一の柱と第二の柱のアプローチについて、どのように考えますか。
Visser:
まず、私たちは、2019年11月にデジタル経済課税に係る第1の柱の統合的アプローチについての公開協議文書に対して、また、2020年12月には第2の柱のOECD事務局による公開協議文書に対して、PwCとしての見解を示しました。OECDの第1の柱におけるデジタル課税に対する利益Aの課税原則の考え方においては、これまでの個別エンティティにおける利益配分、機能、リスク、資産に基づく独立企業間原則に代わり、定式配分のアプローチが取られています。これに対しPwCとしては、利益Aのアプローチについて根拠となる合理的な経済原則が存在しないのであれば、これが持続可能なアプローチであるのか確信を持つことはできないという見解を提出しています。何が超過利益なのか、どのように超過利益を配分すべきなのか、また、超過利益の配分根拠は何なのかについての議論の決着がつかず永遠に続くことになるからです。
また、第1の柱は複雑すぎると見られており、その実施可能性が懸念されています。米国、オランダおよび日本といった先進国の税務当局のみならず、とりわけ、途上国にとってはあまりにも複雑なものとなっています。
2021年2月26日、米国のジャネット・イエレン財務長官が、米国は第1の柱をセーフハーバーとする主張はしないだろうと発言し、デジタル課税を巡る国際ルールの見直しに向けた状況は改善の兆しを見せています5。この状況にバイデン政権は一定の理解を示しているものの、コロナ禍での財政出動が継続する中、米国の課税権の喪失の可能性、途上国への課税権の配分、デジタル課税の施行への影響など、政治的課題が多数存在します。デジタル経済課税問題のグローバルな解決に向けて、米国は重要な役割を担っています。
デジタル課税の問題はグローバルレベルでの解決が必要であり、グローバルで合意形成ができていないままなら、多くの国で実施されているDSTのようなデジタル課税を導入しても、混乱を招くことになるでしょう。例えば、トランプ政権下の米国では各国の独自課税に対して反発の動きが見られました6。こうしたデジタル課税は、一般的に現行の租税条約の適用範囲外であり、二重課税を解決する仕組みにも含まれていないこと、VAT(付加価値税)と異なり仕入控除なくグロスの売上に課税すること、また、各国制度の対象範囲や税率が少しずつ異なっていることから、企業の同一活動に対して複数の課税が生じる可能性があり、今後も注視が必要です。
次に、第2の柱については、私の30年のキャリアの中でも、これまでにない複雑なルールと言えます。また、固定税率への上積み(トップアップ税額)の導入は、各国の既存の法人税制に付加するものであり、米国のGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income:米国外軽課税無形資産所得)制度7との共存も課題と考えられています。また、トップアップ税額の算定および各国への法人税の配分について、利益Aにおいて確実性を提供するパネルメカニズムがないことも安定性に欠ける要因となっています。この結果、二重課税に係る深刻な問題が生じると懸念されます。
また、第2の柱とOECDモデル租税条約第24条の無差別条項および税制に係るEU指令などのEUにおける法令との整合性についても懸念があります8。IIR(Income Inclusion Rule:所得合算ルール)とUTPR(Undertaxed Payments Rule:過少課税支払ルール)がEU法に不整合である点が重大なリスクとして懸念されていますが、OECDはこの点において例外を認めておらず、代替案もありません。ある小規模な国を代表する関係者筋によると、制度をより運用しやすくするための簡素化が提案されましたが、OECDには受け入れられておらず、第1・第2の柱の合意に至るまでには当初よりも時間を要する可能性があるとのことでした。事実、第1・第2の柱の合意目標は2021年半ばに延期されており、今後の動きが待たれます。
PwC税理士法人 ディレクター 城地 徳政
1 ブループリントの内容はOECDのウェブサイトで公表しています(https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-digitalisation-report-on-pillar-one-blueprint-beba0634-en.htm、https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-digitalisation-report-on-pillar-two-blueprint-abb4c3d1-en.htm)。
2 白土晴久・城地徳政・浅川和仁(2021)「2020年10月12日公表の第一の柱及び第二の柱のブループリントの概要と企業の潜在的影響」(日本租税研究協会『租税研究』第856号)で概要を説明しています。
3 OECDはパブリックコンサルテーションに関する会合を2021年1月14日、15日に実施し企業や実務家からの意見を共有しています(https://www.oecd.org/tax/beps/oecd-g20-inclusive-framework-on-beps-invites-public-input-on-the-reports-on-pillar-one-and-pillar-two-blueprints.htm)。PwCもプレゼンターとして参加しました。
4 本インタビューは2021年3月2日に実施したもので、インタビューの内容は当時の事実関係や公表内容に基づいています。
5 2021年2月27日 日本経済新聞 『米国 デジタル課税の「適用除外」案を撤回 G20会合』
6 2020年6月3日 日本経済新聞 『米、デジタル税で孤立深める 欧州・新興国へ報復検討』
7 内国歳入法第951条Aに基づく低課税のグローバル無形資産所得に対する課税性で、制度趣旨や設計に第2の柱におけるIIRとの類似性が見られます。
8 UTPRのグループ内支払の損金算入否認がOECDモデル租税条約第24条第4項「費用控除に関する無差別」に抵触する可能性があるとされています。EU法令との関係については、GloBEルールがEU機能条約(the Treaty on the Functioning of the European Union)上の諸自由(freedom of establishment(設置(設立)の自由)(49条)等)との関係において問題とされており、また、租税回避防止指令との関係では、EU司法裁判所判決において、否認されるのはwholly artificial arrangementのものであり、artificialityが背景にある中で、GloBEルールは単にミニマム税率未満での課税となっており、現在のEU指令よりも広い範囲を対象とするための新たなEU指令が必要との指摘がなされています。
2003年、PwC税理士法人へ入社。2010年10月から2013年9月にかけてPwCオランダ法人アムステルダム事務所に出向、現地に進出している日系企業に対するオランダおよび日本税務アドバイス、欧州企業による日本投資に関する税務アドバイスを提供。
帰国後、M&Aや事業再生事案に関与した後、国際税務サービスグループのリーダーとして、クロス・ボーダー・ストラクチャリング、M&A、買収後のポスト・ディール・リストラクチャリングに関する税務や、税務機能のデジタル化、国際税務部門の立ち上げ支援、税務ポリシーの策定、リスク管理における税務アドバイス、税務業務のトランスフォーメーションなど、多岐にわたる業務に従事している。
国税庁および東京国税局で27年間、国際課税のスペシャリストとして勤務。東京国税局では、大企業の国際課税(移転価格を含む)や外国法人の恒久的施設(PE)課税等に係る調査企画、実施および審理を担当。また、国税庁では、ケイマン諸島などタックスヘイブンを含む情報交換ネットワークの構築、AOAやクロスボーダー消費税の制度導入、OECDにおけるBEPSの議論などに関与。
2015年7月に麻布税務署副署長を最後に退官し、同年9月にPwC税理士法人に入社。税理士。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
昨今の国際情勢において、関税への備えを企業側も強化することが求められています。主に上場企業や多国籍企業の関税管理における業務上のポイントや税務部門の職掌範囲、調査への対応などについて解説します。
米国では、米国市民や米国企業に対して差別的または域外適用的な税を課すと見なされる外国に対応するために、特定の外国企業・個人の所得に対して追加の税を課す規定に基づいた大統領令が発令されています。これらの規定が適用される可能性について解説します。
本シリーズでは、欧州で事業展開する日系企業の移転価格担当者が留意すべき点などについて解説します。第3号では、オランダの移転価格税制の概要、税務調査の動向、特徴、そして相互協議および事前確認制度の現状について解説します。
本ニュースレターでは、OECDから公表されたグローバル税源浸食防止(GloBE)に係る追加の運営指針を含む、新たな複数の文書のうち主な文書の概要について解説します。