
税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第11回:税務部門の役割と他部門との連携―期待される責任範囲の明確化―
昨今の国際情勢において、関税への備えを企業側も強化することが求められています。主に上場企業や多国籍企業の関税管理における業務上のポイントや税務部門の職掌範囲、調査への対応などについて解説します。
2021-04-20
米国のバイデン政権発足により、デジタル課税の枠組みに関する2021年7月のOECD(経済協力開発機構)案の最終合意に向けた動きの加速が見込まれています。一方で、依然として先行き不透明な課題も残っています。その中には、デジタルサービス税(DST)の導入や、課税制度簡素化の見通しなどが含まれており、多くの多国籍企業への影響が予想されます。
前編に引き続き、PwC税理士法人の国際税務サービスチームによるPwC欧州地域タックスポリシーリーダーのEdwin Visserへのインタビューでは、米国を中心とするDSTの導入や、課税制度簡素化への動きなどについて聞きます。
Edwin Visser
PwCオランダ パートナー/PwC欧州地域タックスポリシーリーダー
白土 晴久
PwC税理士法人 パートナー
城地 徳政
PwC税理士法人 ディレクター
浅川 和仁
PwC税理士法人 ディレクター
(左から)Visser、白土、城地、浅川
浅川:
今後のDSTを巡る動きについて聞かせてください。
Visser:
DSTの対象範囲・閾値・市場国に配分する超過利益の額をどのように決めるか、どのように市場国に配分するかなど、議論が必要な点は依然として残っています。米国が第1の柱において利益の大部分の課税権を明け渡すよう求められることになれば、バイデン政権はこれを支持しないものと思われます。なぜなら、米国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の救済プログラムに1.9兆米ドルを費やすことを決定したばかりであり1、そうした財政状況の中では国内で発生した利益の課税権の大半を海外へ移転することに合意はしないでしょう。
PwC税理士法人 ディレクター 浅川 和仁
PwCオランダ パートナー Edwin Visser
白土:
第1の柱と第2の柱が2021年7月に合意され、世界的なコンセンサスが得られた場合、EU諸国はDSTを段階的に放棄していくと考えられますか。また、DST導入の行方をどのように予想されますか。
Visser:
第1の柱に関する観点からは、合意に達した以上、一方的な措置であるDSTを廃止する流れに向かうであろうと予測されます。OECDで議論していることの目的はここにあるはずです。しかし、第1の柱および第2の柱から生じる税収は、合計1,000億米ドルと多額に及ぶとはいえ、グローバルの税収総額や、各国がCOVID-19の救済措置に費やす金額に比べれば微々たる額です。また、第1の柱における追加的な税収は程度が限られており、むしろ国家間の税収の移転と言うべきものです。
問題点として挙げられるのは、各国が第1の柱のグローバル合意と引き換えとしてDSTに係る税収を放棄する意思があるかどうか、という点です。イタリア、フランスおよびスペインでは、すでにDSTによる多額の税収を得ており、例えばスペインではDSTが約500億ユーロの税収をもたらすと見積もられています。また、COVID-19による景気後退期において、各国では税収増加が求められています。
私個人としては、DSTのような一方的措置の廃止についてコンセンサスを得るには、多くの障壁があると考えています。フランスを除き、欧州諸国がDSTを廃止する意向があると聞いたことがありません。オランダでは2週間後に選挙を控えていますが(本インタビューは2021年3月2日に実施)、さまざまな政党の選挙公約を見ると、グローバルレベルでの合意が形成されつつあるにもかかわらず、一方的な措置の導入を示唆している政党もいくつかあります。フランスは昨年DSTの課税を延期しましたが、グローバルコンセンサスの欠如のため、現在は課税しています。依然として、多くの国ではDSTの導入を求める強い圧力が存在していると感じます。
DSTを廃止しなければ、米国との間で貿易戦争のリスクが生じる恐れがあります。一方的なDSTに対する米国の新政権の通商代表部の見方が、トランプ政権下でのポジションと異なるものとなるとは思えません。バイデン政権も第1の柱では米国のハイテク企業がターゲットとなっていると見ており、報復関税措置をとることも考えられるでしょう。
浅川:
グローバルなコンセンサスが得られない状況が続いた場合には、どうなっていくでしょうか。
Visser:
合意が得られなかったとしても、ブループリントで表明された制度の背景や内容が、国際課税に関する各国政策の方向性を変えるだろうと私は考えています。今後は各国が第1の柱と第2の柱の特定の要素を自国の税制に取り入れ、他国との二国間交渉を行うことによって、異なる課税権の配分を採用していくと考えられます。COVID-19による真の経済的影響は、計り知れません。OECDによると、経済へのマイナスの影響は世界のGDPの1%程度と試算されていますが、これを先進国と途上国の間でどう判断するかは、まだ明白ではありません。各国がそれぞれの経済状況を踏まえて課税権の交渉を進めていくことになるのではないでしょうか。
城地:
2021年1月の会合の議題の1つであった、ブループリントにおける制度簡素化の議論についてお聞きかせください。今後、予想される簡素化の流れ、そしてそれに対する課題は何でしょうか。
Visser:
第1の柱の利益Aの中で最も複雑な問題は、対象範囲と、セグメンテーションおよびソースルールの2つです。これについては、閾値を7億5,000万ユーロよりも高く引き上げることにより第1の柱の対象となる企業の数を制限し、その範囲も制限するという対策が考えられます。
一方、利益Aの対象範囲を限定すると、結局は米国に拠点を置く大規模多国籍企業が主な対象となることが想定されるため、米国の支持が得られるかどうかは不透明です。また、対象範囲を決定するために一定の収益や超過利益といった定量的なアプローチを用いると、セグメンテーションやソースルールの問題が軽減されるといった分析もあります。私の見解では、第1の柱の利益Aのような複雑なシステムを取り入れる場合、対象を限定せずに、例えば、収益や利益率が特定の数値を上回る全ての企業を対象範囲とし、超過利益を市場国と分配するような仕組みにしない限り、複雑さを劇的に減らす可能性はほとんどないものと考えます。
PwC税理士法人 ディレクター 城地 徳政
PwC税理士法人 パートナー 白土 晴久
第2の柱については、2021年1月のパブリックコンサルテーションにおいて、どのスピーカーもその複雑さについて言及していました。第1・第2の柱は、国際課税制度に複雑な階層を多数追加することとなります。よって、第2の柱における簡素化だけでなく、国際課税制度全体の簡素化についても、検討していく必要があるかもしれません。
CFC税制(外国子会社合算税制)2が依然として必要とされる場合、所得合算ルールであるIIR(Income Inclusion Rule:所得合算ルール)と軽課税支払ルールであるUTPR(Undertaxed Payments Rule:過少課税支払ルール)の導入についても疑問視されるかもしれません。一般的に、CFC税制は受動的所得に対処するため、IIRやUTPRとは異なる要件・仕組みとなりますが、IIRとUTPRを有している場合、CFC税制やハイブリッドミスマッチ税制の廃止を検討することは合理的と言えます。仮に第2の柱の導入とともにCFC税制とハイブリッドミスマッチ税制を廃止することができれば、制度の煩雑さも大幅に軽減できます。
白土:
OECD租税委員会が目標とする最終合意の報告は、2021年7月9~10日にベネチアで開催されるG20財務大臣・中央銀行総裁会議で行われる予定です。私たちPwC税理士法人メンバーもデジタル経済課税の枠組みを巡る最新動向を引き続き注視し、PwCグローバルタックスポリシーコアチームと協力しながら、企業の方々に向けて有用な情報を発信していきたいと思います。本日はありがとうございました。
1 2021年3月12日 日本経済新聞 『米200兆円経済対策が成立 現金給付、恩恵は業種で濃淡』
2 日本においては租税特別措置法第66の6に規定する外国子会社合算税制がCFC税制に相当します。
2003年、PwC税理士法人へ入社。2010年10月から2013年9月にかけてPwCオランダ法人アムステルダム事務所に出向、現地に進出している日系企業に対するオランダおよび日本税務アドバイス、欧州企業による日本投資に関する税務アドバイスを提供。
帰国後、M&Aや事業再生事案に関与した後、国際税務サービスグループのリーダーとして、クロス・ボーダー・ストラクチャリング、M&A、買収後のポスト・ディール・リストラクチャリングに関する税務や、税務機能のデジタル化、国際税務部門の立ち上げ支援、税務ポリシーの策定、リスク管理における税務アドバイス、税務業務のトランスフォーメーションなど、多岐にわたる業務に従事している。
国税庁および東京国税局で27年間、国際課税のスペシャリストとして勤務。東京国税局では、大企業の国際課税(移転価格を含む)や外国法人の恒久的施設(PE)課税等に係る調査企画、実施および審理を担当。また、国税庁では、ケイマン諸島などタックスヘイブンを含む情報交換ネットワークの構築、AOAやクロスボーダー消費税の制度導入、OECDにおけるBEPSの議論などに関与。
2015年7月に麻布税務署副署長を最後に退官し、同年9月にPwC税理士法人に入社。税理士。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
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