ブロックチェーンを活用したグローバルサプライチェーンの未来【前編】

サプライチェーンの課題と本来あるべき姿

PwCには日々、サプライチェーンに関するさまざまな相談が寄せられます。中国内の多くの生産ラインが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響でストップし、全世界の製造業が中国からの輸入品調達に多大な打撃を受けたことは記憶に新しく、そうした情勢がサプライチェーンに関する課題をますます生み出しているのは確かでしょう。しかし筆者は、サプライチェーン自体が不確実性と複雑性を増していることが課題の本質と捉えています。
より具体的に見ていきましょう。
 
  1. 長く複雑なサプライチェーン
    製品・商品の原材料・部品の調達から販売まで、サプライチェーンが非常に長く複雑で、企業内に留まらず多くの外部企業・グループ内企業にまたがるようになっています。さらにその経路は、不測の事態などにより頻繁に更新が求められます。
  2. 高い確認意識と低いコラボレーション
    サプライチェーンが異なる法人をまたがることで、企業やグループにおいては、自分たちが取引するデータの信憑性や正確性などを都度確認しなければならないという意識が働きます。しかしながら、それらを担保するための協業体制の構築やコラボレーションを効率的に行えている例は多くありません。そのため、サプライチェーン内であっても取引データが信頼できず、確認や調整に多くの時間が必要となります。
  3. 紙ベースの煩雑な作業
    調達量や生産量の調整にあたっては、手作業や紙ベースでの作業が多く存在します。帳票の送受信についても、内容や送信先の確認などを含め、多くの労力が割かれます。こうした時間の積み重ねが、サプライチェーン全体に煩雑さをもたらしていると考えられます。
  4. 情報伝達フローの分断と不透明性
    サプライチェーンの複雑さにより全体がつながらず、情報の伝達のフローが分断されることで、エンド・ツー・エンドの観点で、情報に不透明さが増すことになります。結果として、原料、材料、在庫の効率的な利用が妨げられます。また、情報やモノの追跡が困難であるため、サプライチェーンの途中に模倣品が混入し、買い手が損害を被るケースが拡大しています。
私たちはこれらの課題を解決し、本来あるべきサプライチェーンの姿を目指す必要があります。その姿とは、具体的には以下の4つであると筆者は考えます。
 
  1. 情報の透明性
    生産や販売における計画・管理に寄与する、企業をまたがった情報伝達フローの構築が必要です。
  2. スピードと効率性によるリアルタイム性の担保
    不確実な状況にスピーディーかつ効率的に対応するため、適切な資産(原料、材料、製品)を適切な場所に適切なタイミングで届けるための、デジタル化された効率的なプロセスの構築が求められます。
  3. トレーサビリティ(追跡情報)の確保
    サプライチェーンの各ステージにおいて、資産の出荷元や移送中の所在を追跡可能にするシステムの構築が必要です。
  4. 効率的な支払い業務の実現
    信用度・正確性の高い帳票・文書に基づき、サプライヤーへの効率的な支払いを可能にする業務フローを構築する必要があります。

ブロックチェーンがもたらすサプライチェーン変革

前述の課題に取り組むため、これまでにもさまざまな施策が実施されてきました。その代表例が、企業間のデータのやり取りのデジタル化です。電子データ交換(EDI:Electronic Data Interchange)やEAI(Enterprise Application Integration)を活用した企業間データ連携により、紙ベースの煩雑な作業の効率化は一定程度進みました。
ところが、このような企業間のデータ連携体制の構築には長い期間と莫大なコストが掛かります。2社間で構築した仕組みも、3社目以降が増えることで既存システムの更新が必要になったり、接続先増加で「スパゲッティ状」に複雑になったシステム構成が開発ならびに保守運用コストを指数関数的に増加させたりするという課題がありました。これにより、サプライチェーン全体を巻き込んでの仕組み作りは難航します。また、企業間でデータのやり取りが都度発生するため、デジタル化されているとはいえ、異なる法人から送られてくる取引データが完全に信頼できるものであるとは言えず、調整コストが掛かっていたのは前述の通りです。

このような課題を解決するために期待される技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンをサプライチェーンマネジメント(SCM)で活用すれば、まず企業間でやり取りされるデータの信頼性は、システム管理者などの特定の企業や人に依存することなくアーキテクチャで担保されることになります。サプライチェーンに参加する企業は全て「Single Source of Truth(真実となる唯一の情報源)」の概念のもと、ブロックチェーン上で管理される単一の情報にアクセスすることになるため、そもそも企業間で直接データをやりとりすることはなくなります。非中央集権型というブロックチェーンの特性は、サプライチェーンへの参加障壁を低くし、多様なステークホルダーの参画とエンド・ツー・エンドのトレーサビリティの実現可能性も高めると考えられます。サプライチェーンは点から線、線から面へと広がっていくことでしょう。

執筆者

丸山 智浩

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小川 博美

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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