エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂

第4回:日本におけるメタバースの展望と課題

  • 2023-05-26

PwC Japanグループは2022年12月15日、メディア関係者を対象に、VR空間上でセミナー「エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂―新たな競争環境におけるイノベーションと成長―」を開催しました。当日はPwC Japanグループの各法人からそれぞれの領域のプロフェッショナルが登壇し、業界のトレンドやNFTビジネス、メタバースに関する今後の展望ならびに課題について講演しました。

当日の様子を振り返る連載の第4回では、エンタテイメント&メディア業界の今後のトレンドの1つとなり得るメタバースについて、PwCコンサルティング合同会社パートナーの奥野和弘より、日本における今後の展望と課題を解説します。また、PwCコンサルティング合同会社Strategy&パートナーの森祐治が、メタバース業界の見通しについて総括します。

登壇者

PwCコンサルティング合同会社 パートナー
奥野 和弘

PwCコンサルティング合同会社 Strategy& パートナー
森 祐治

(左から)奥野、森

※法人名・役職などはイベント開催当時のものです。

メタバースの定義

奥野:
「メタバース」という言葉の明確な定義はまだ確立されていません。実際、2022年春にPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が実施した調査の結果によると、メタバースと聞いて想起される言葉は、「仮想空間」「アバター」「仮想現実(VR)」「拡張現実(AR)」「NFT」など非常に広い範囲に及びました。

出典:PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象としたメタバース事業者サーベイ結果 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html

一方で、メタバースに関する有識者の発言を整理すると、メタバースに期待される特徴は大きく3つに分類できます。第1に、誰もが参加でき、同じ時間軸で交流できる没入型の体験であること。第2に、完全に機能する経済圏が存在すること。第3に、多様なクリエイターにより相互運用可能なコンテンツが提供されることです。

また、言葉としての定義は未確立ながら、メタバース市場の拡大を牽引する基盤技術は定まりつつあります。具体的には、「XR」「ブロックチェーン」「AI」「クラウド」「5G」「デジタルツイン」の6つが挙げられます。コンセプトとしては約20年前から既に存在していたメタバースが、昨今急激に注目を集め始めた要因の一端が、これらの基盤技術の大幅な発展にあると考えています。

日本におけるメタバースの展望

続いて、先ほども触れました、PwCコンサルティングが日本企業を対象として2022年春に実施したアンケート結果をご紹介します。まず、メタバース自体の認知度について、47%の企業がメタバースを認知しており、10%の企業は自社でのビジネス活用に関心を示しています。このように、多くの企業がメタバースに注目している点も、メタバースが急拡大を遂げている理由の1つに挙げられます。

出典:PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象としたメタバース事業者サーベイ結果  https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html

また、メタバースがもたらすビジネスチャンスについては、実に87%の日本企業が、メタバースのビジネスへの影響をポジティブに捉えていることが分かります。特に、新規ビジネスの創出に対して期待を寄せる企業が47.4%と最も多くなっています。

出典:PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象としたメタバース事業者サーベイ結果  https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html

続いて、メタバースを活用したビジネスの実行時期に関する質問からは、メタバースを活用したいと答えた企業の49%が、1年以内での着手を検討していることが分かりました。つまり、1年後の日本国内においては、メタバースの活用に関心を示した1割の企業における約半数、すなわち全体の約5%の企業が新サービスを開始している可能性があるのです。以上のことから、メタバースは日本でも大きなビジネスチャンスになると考えています。

出典:PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象としたメタバース事業者サーベイ結果  https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html

一方、日本におけるメタバースの発展には課題もあります。メタバース関連の先行企業に対し、メタバースが持つビジネス上の課題について質問したところ、28.6%は「導入する目的の明確化」と答え、26.4%は「費用対効果の説明」と答えました。すなわち、日本におけるメタバース発展の問題点として、目的が未確定のままPoCをしてみたものの、ビジネスとしての建付けが不十分であり、先の方針を決めかねている様子が見て取れます。そのため、メタバース活用のイメージを明確化することが今後の課題となります。

出典:PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象としたメタバース事業者サーベイ結果 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/metaverse-business-survey.html

メタバースのビジネス化に関する成功事例

前述のとおり、メタバースの活用に関しては、いまだベストプラクティスと言えるような定番の勝ち筋は見えてきていません。しかし、私たちPwCがお客様をご支援する中で、メタバースが一定の効果を発揮するであろう、いくつかの活用領域が見えてきています。このセクションでは、メタバースのビジネス化の成功事例となり得る3つの領域をご紹介します。

販売

まず初めにご紹介するのは、販売領域です。メタバース空間上に開設されたバーチャル店舗を通して既存のマーケットプレイスを利用するケースがありますし、メタバース空間内で使用するデータ(アバター自体やワールド作成時に利用できるアセットなど)を販売する市場も活況を呈しています。

近年は販売領域におけるメタバースの活用が端緒に就いていますが、現状では大きく4つの課題を抱えています。1つ目は購買サービスのUX向上です。現在、各プラットフォーマーが機能改善に取り組んでいる最中であり、将来的に誰でも利用可能なレベルまで利便性が向上すれば、マーケットのさらなる拡大が期待できます。2つ目はアセットの標準化によるポータビリティ向上です。現状では特定のプラットフォームでしか使えないアバターがさまざまなメタバース空間で使用可能になれば、顧客にとっての価値、ひいてはWilling to Payが向上すると言えます。3つ目は開発ツールの進化です。ツールの機能向上によってより多くの開発者が参入するようになれば、魅力的なコンテンツが拡充され、マーケットはさらに活性化するでしょう。4つ目はルールの早期整備です。既存のデジタル空間とは違った考え方を要するため、知財の扱いなどに関するルールが早急に整備されることが期待されます。

マーケティング

次に、マーケティング領域です。メタバース空間上で自社サービスを宣伝し、顧客認知の向上や興味関心の獲得を目指します。実際に、メタバースの活用により先進性をアピールすることで自社をブランディングし、現実世界での購買にもつなげるような取り組み事例も増えつつあります。

マーケティング領域におけるメタバース活用も、大きく3つの課題を抱えています。購買領域と同様に、1つ目は購買サービスのUX向上です。メタバース空間における購買文化がさらに浸透することで、メタバース空間内のサービスをメタバース空間で宣伝する動きも強まると予想されます。2つ目は各プラットフォームにおける広告関連機能の改善です。現状、メタバース空間への広告出稿はあまり簡単ではありませんが、ユーザー属性の提供や、種々のAPIの整備によって、より即時性の高い広告出稿が可能になり、市場が急速に拡大する可能性があります。3つ目はマーケターのスキルの高度化です。高度かつ複雑に進化を遂げつつあるマーケティングチャネルにメタバースという新たな選択肢が加わることで、顧客の購買行動把握はさらに難易度を増すと思われます。

生産

最後に、生産領域です。メタバースという言葉ができる以前より、製造現場ではVRやARを活用する動きが既に進んでいました。例えば、製品の生産工程における製造ラインのデータを収集することでデジタルツインを構築し、メタバース空間上で状況確認をしたり、シミュレーションを実施して現実世界へフィードバックしたりするといった活動が行われています。

今後、メタバースは生産領域の変革をさらに推し進めると期待されています。まず、ネットワークの帯域幅拡大やコンピューティングパワーの増強により、デジタルツインの即時性はますます向上するでしょう。AI技術の発達により、デジタルツインから現実世界へのフィードバックの高速化も期待されます。また、メタバースの活用がコンセプト設計やユーザーテストにまで広がることで、製造のサプライチェーン自体が大きく変容する時代が到来するとも考えています。一方で、メタバースにより製造現場が高度化することで、資金面や人材面で優位に立つ大手企業と、リソース不足に悩む中小企業との格差が拡大するという懸念もあります。

メタバースにおける課題と目指すべきアプローチ

最後に、現在のメタバースが抱える3つの課題についてご説明します。1つ目はアクセスの容易性です。ユーザーの視点からすると、メタバース空間の選択肢が多すぎることや、VRゴーグルなどのアクセスに必要なデバイスに対して抵抗感があること、目的が不明確であることなどがメタバース空間にアクセスすることのハードルを高めていると想定されます。

2つ目は事業性の確保です。メタバースは市場自体が黎明期でまだ洗練されておらず、ビジネスモデルも確立されていないため、事業性の確保が多くの参入企業で課題となっていると想定されます。

3つ目は標準仕様の整備です。メタバース空間は多く生まれているものの、アカウントやアバター、データ形式が標準化されていないため、ユーザーにとって不便な状況が生まれています。また、標準化を主導する役割も明確化されていません。

メタバースは非常に多くの可能性を秘めている一方で、現在はまだビジネスとしての方向性が定まっておらず、プラットフォームとしての機能も未成熟です。だからと言ってメタバースに対して悲観的になる必要はありません。メタバースが持つ現在から将来にかけての価値を理解した上で、自社の取り組む領域を定め、まずは小規模な取り組みから試行錯誤を繰り返すことで自社の成功モデルを確立するべきです。そうすることで競争優位性を早期に獲得することが肝要であるとPwCは考えています。

総括

森:
今回のセミナーの中で、VRヘッドセットを通してメタバースの世界を体験していただいた参加者の皆様におかれましては、UXの未熟さなど生々しい課題にお気付きになったかもしれません。ただ一方で、メタバースという概念は、既に皆様の生活へ入り込み始めています。コロナ禍の巣ごもり需要で流行した、マルチユーザーのインタラクションというメタバースの要素を持つゲームタイトルの数々が好例と言えるでしょう。そうした親しみやすいサービスを端緒とし、キーボードとマウス、あるいはスマートフォンのタッチ操作といった、既存のインターネット世界のエクスペリエンスを覆すようなツールへとメタバースが成長することは間違いないと思います。そうした前提に立つと、ビジネスの文脈においてメタバースへどのように向き合うべきか考えることは、現代社会における消費者生活の新たな地平を切り開くことにつながるのではないでしょうか。

2022年12月15日に開催したセミナー「エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂―新たな競争環境におけるイノベーションと成長―」の内容を、全4回にわたって掲載したコラムは以上で終了となります。

2023年もセミナーや記事などを通して、さまざまな情報を発信する予定ですので、ご期待ください。ご覧いただきありがとうございました。

主要メンバー

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

森 祐治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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