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昨今のAIの発展には目覚ましいものがあります。1950年代から始まるAIブームは今や、深層学習の出現を経て第3次を迎えたと言われており、さらに生成AI技術の急速な進歩によりその発展は加速しています。強力な画像生成AIや文書生成AIを誰でも気軽に使えることに驚いている方も多いのではないでしょうか(図表1)。
例えば、2018年にオークションに出品されたAI絵画が43万2,500ドルで落札され*1、2022年には画像生成AI「Midjourney」の作品が米国ファインアートコンテストで優勝しました*2。イラストを簡便に描くことができる多様なスマートフォンアプリは日々開発され続け、イラスト/アート界隈はAIを強く意識することとなりました。
2023年7月14日から118日間続いたハリウッド俳優によるストライキも、クリエイティブ業界における現在のAIへの期待と脅威を表す代表的な事象と考えられます。
また、文書情報の抽出、要約、校閲等をチャット形式で可能とする「ChatGPT」や「Bard」といったAIは、その応対の自然さから多くの反響を呼びました。今後はAI単体だけでなく、検索エンジンを始め、多数のシステムに組み込まれて使用されることで、より多様かつ自然な使われ方が模索されていくでしょう。
このようなAIは世間に大きなインパクトを与えており、今までとは明らかに異なる性質を有していることから、「生成AI(Generative AI)」と呼ばれ区別されています。アイアンマンのジャービスに代表されるようなSF世界観を持つ汎用人口知能(AGI*3)と呼ぶのは早計と思われる一方、特に「GPT4」はAGIの初期型として捉える主張もあり*4、期待は高まり続けています。
生成AIは、機械学習によってテキスト、プログラムコード、画像、動画、音声、音楽などの新しいデータを生成することができるAIで、学習されたデータを集合知として活用することで新たなアウトプットを生み出す汎用人工知能となることが期待されています。*5
生成AIが近年躍進した理由としては、AIを開発するための計算機資源が低価格化したこと、不連続に精度向上が起きるほどの甚大なパラメータ数を持つAI*6に膨大なデータを投入し始めたこと、TransformerやDiffusion Modelなどのアルゴリズム開発および柔軟性の高いデータモデルの効用などが考えられ、今後もさらなる拡張と発展を続けることが予想されています。
生成AIは、何を生成するかによって大別でき、具体的にはテキスト、プログラムコード、画像、動画、3Dモデル(CAD)、音声等に分類することが可能です(図表2)。
画像であれば、若き日にあらゆる画風を描きえた画家の名前を冠する「DALL-E2」、コミュニケーションアプリDiscord上で用いる「Midjourney」、データモデルが一般公開されたことで一気に広がった「Stable Diffusion」などが、文書であれば、昨今話題のChatGPTのもとになっている「GPT-2」「GPT-3」「GPT-4」やGoogle検索にも活用されている「BERT」「PaLM」などが代表的な技術として挙げられます。
現在のビジネス領域ではChatGPTに代表されるようにText2Textが主流となっていますが、近いうちにテキストから図、表、動画が生成されるようなText2Xが進み、その後マルチモーダル化が実現するとさまざまな形式のインプットから多様な形式のアウトプットが実現されるX2Xが実現されていくと想定されます。
ここまで生成AIの特徴を述べてきました。では、従来のAIと呼ばれるものと生成AIの違いはどこにあるのでしょうか。
AI開発のプロセスを明確にするために、「学習フェーズ」と「推論フェーズ」に区分して、両者の違いを考えてみようと思います。
「学習フェーズ」において、従来の課題はデータの収集、構造化、そして機械学習モデルへの適用でした。
しかし生成AIの普及によって、Big Techが提供する「事前学習済みモデル」の利用が一般化しています。この変化によって、企業が大規模データセットを整備したり、独自にモデルを訓練したりする必要性が減少しています。少量のデータでも効果的に活用ができ、企業特有の課題に対応する生成AIを容易に構築することができるようになっています。
「推論フェーズ」においては、「プロンプト」と「コンテクスト」という新しい概念が生まれています。プロンプトは生成AIに対する指示の形式を、コンテクストは質問の状況や背景を定めています。具体的にはプロンプトは指示の出し方、コンテクストは「人間の思考プロセスを模倣して徐々に質問を深めていく方法(Chain of thought)」に代表されるように生成AIとのコミュニケーションのテクニックを表しています。
これまではAIごとに用途が限定されており、操作はプログラミングによって指定されていました。そのため、エンドユーザーは限られたインターフェースでしかAIを制御できませんでした。一方、生成AIは多目的で対応可能であり、かつ、指示も自然言語で実施可能です。加えてその出力も人間が見ても違和感が無い内容であることからAIの普及が急速に進んでいます。
従来のAI開発では「学習」が中心であり、工数も多くかかっていました。一方で、「推論」は制約の多いインターフェース内で行われ、相対的にその重要度は下げられていました。
しかし、生成AIの台頭により、「推論」もまた重要な要素となり、その効果的な活用方法が新たな論点の1つとして挙げられるようになったのです。
以上のように「汎用的になり、かつAIと自然文でコミュニケーションが取れるようになった」という点が生成AIがこれまでのAIと大きく異なる部分であり、これによって、日常生活やビジネスにおいてのAIの活用の幅や可能性が広がりつつあると考えられています(図表3)。
ここまで、生成AIの期待や将来性について述べてきましたが、本技術は本格的な実用化に向けた取り組みが開始されて間もないため、今後もさらなる発展が見込まれています。この技術の利点を完全に理解するにはまだまだ時間がかかり、現在実業務適用に取り組んでいる企業も多くの課題に直面していることでしょう。
生成AI特有の課題として「ハルシネーション」が挙げられます。例えばニューヨーク州の弁護士が裁判の際に提示した判例に存在しないものが含まれていたという事例があります*7 。この弁護士に当該事項の説明を求めたところ、ChatGPTを利用して資料を作成したことが発覚しました。生成AIを自身の業務のアシスタントとして利用した結果ですが、まだ多くの技術的課題があることを明示した結果となりました。生成AIを適切に利用するには、利用者本人に生成AIの生成物の虚偽性を見極める判断力があることが前提となるのです。
このように本格的な実用化には課題を抱える生成AIに対して、企業はどのように向き合うべきでしょうか。
2023年7月4日、文科省は小中高校における生成AIの使用を認める指針を出しました*8。政府が学生のうちから生成AIの欠点を理解しながら、生成AIを使いこなす能力を身に付ける、という基本的な考え方を打ち出したのです。
さらに、PwCのレポートでは、2023年春から2023年秋のわずか半年ほどで、生成AI活用の推進に着手している企業は22%から87%に大幅に増加していることが分かっています。*9
このように、政府が生成AIを若いころから身に着ける方針を提示する中で、多くの企業も急速に活用を検討しており、企業は生成AI活用を検討しなければ、大きく優位性を損なう可能性があります。
これにより企業におけるAIによる業務変革は不可避となり、生成AIは今企業で使われているオフィスアプリケーションのように使えて当たり前という時代が来ると考えられます。
企業が実用化に向けて発展途上である生成AIに向き合うアプローチは、技術の普及において初期市場から一般市場に移行するときに断層があることを提唱したキャズム理論に基づくと、リスクを取り革新技術を早期に採用する「先行参入、投資型」と、リスクは取らず新技術の安定を待ち採用する「市場成熟期待型」の2つに分かれます(図表4)。前者は国内の先端テクノロジー企業に代表されるように、独自の生成AIモデルの開発を自社で進めたり、セキュリティが担保された環境を整え他社が提供している学習済みモデルを実業務で活用したりしています。まずテストを実施して社員の利用ニーズを確かめたうえで、独自開発を進めるというステップを踏む企業もあります。
ただ、多くの企業にとって、まだ成熟しておらずかつリスクもはらんでいるテクノロジーに対して投資をして活用するという判断は難しいものです。
では技術的成熟度が満たされるまで生成AIに関して何もしないのがよいのかというと、そうではないと筆者は想定します。
詳しくは次章以降で語りますが、ハルシネーションなどの課題をはらみつつも、少量のデータから効率的にパターンを学習し、自然言語でやりとりができる現状の技術レベルで生成AIを活用することで、例えば伝票確認や債権管理などにおいて業務改善が実現できます。
また、将来的に技術発展が進んだとして、どういった業務に対して効果が大きく見込まれ、どのような業務に対しては重要性が増す、あるいは減少すると思われるのかを把握しておくことで、将来の事業計画に対して活用することができるのではないでしょうか。
例を挙げると、いわゆる「事務作業」といったものは置き換えられていくと考えられます。それは自社に閉じた話ではなく、例えば会社間で行われる日々の請求業務においても、生成AIを活用することで事務作業の自動化が期待されます。
逆にデータになりにくい部分、例えば社員のモチベーション管理や部署間の連携といった人と人とのつながりに関するマネジメントは生成AIでの置き換えは難しく、人が行う必要がある業務として重要性を増すと考えられます。
すなわち、市場成熟期待型のアプローチでは、生成AI活用の初手としては生成AIがどういったものかを把握し、実際に使ってみて、それを踏まえたうえで現在の社内業務にどのように生成AIを活用できる余地があるのかを調査、アイディエーションしながらその具体案を集めることが必要となります。
その中で現状の生成AI技術でも大きなROI(投資収益率)が期待できるものに関してはパートナーの協力を経て開発に進むという判断もできるし、将来的な効果が見込めるものであれば生成AIの技術発展を見越して自社のデータ整備に取り組むべきだという判断も下すことができます。また逆に生成AIを活用してもそこまで効果が見込めない業務も明確になり、そうした業務に関してはこれまで通り継続してBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を続けていくか、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの既存技術でROIを向上できるのではないかといった指針の検討も可能です。
早期から積極的な投資を行い、新技術による業務改革を進めていく「先行参入、投資型」と、技術が成熟するまで待ちつつ、将来的な活用のために準備を進める「市場成熟期待型」とスタイルの違いはあれ、企業全体として業務への生成AIの活用を検討していく必要がある一方で、使用する従業員のリテラシーも同時に高めていく必要があります。
生成AIに対する過度な期待の高まりは、導入するだけですべての課題を解決するかのような誤った理解につながる可能性があり、生成AIに対する誤った理解は、生成AIが出す誤った答えに起因する企業の信頼性の低下や、本来人がやるべき業務にまで適用しようとすることによるプロセスの非効率化、無駄なリソース投資といった弊害を引き起こす可能性があります。
実際に、Gartner®社の「Hype Cycle™ for Emerging Technologies, 2023」*10においても、生成AIはPeak of Inflated Expectations(「過度な期待」のピーク期)に位置付けられています。
新技術が定着する過程では、新技術のポジティブな面が報道されていくことで期待が高まった後、一度、高まった期待に見合う効果を活用の試みから得られないことが原因で、新技術に対する失望、興味の低下が発生します。その後、この技術に対する失望を乗り越えた具体的な活用事例が増えることで理解が広まり、新技術の定着と安定的な生産性が実現していきます。
このような新技術の定着までに失望を乗り越えなければいけない過程において、期待が過度に高まれば高まるほど、実際に活用を試みた際に得られる効果が期待に届かず、失望も大きくなります。技術に対し感じる失望が大きいほど、その技術の活用を定着させることは難しくなるでしょう。そのため、将来的に数兆ドル規模の経済貢献が予測される生成AIの活用を定着させるには、失望が大きくなることを避けるために過度に高まった期待を抑制する必要があります。
期待が過度に高まった状態とは、理想と現実が乖離し、現実を理解しない理想ばかりが先走っている状態であると考えられます。つまり、現実を知る=リテラシーを高めることで理想と現実の乖離を是正し、期待が過度に高まることを抑制することができるのです。
ではリテラシーを高めるために、何をすべきでしょうか。まずは知識として①生成AIはゼロベースで生成を実現しているのではなく、インプットされたデータのパターンや統計的な傾向に基づいて情報を生成しているため、完全な理解力を持っているわけではない点や②先述したハルシネーションと呼ばれる課題のように偽情報を作りうる点、③長期的な文脈把握が難しいといった今の技術的な限界などを抑える必要があります。そのうえで、実際に生成AIを体験し試行錯誤してみることで、生成AIには何ができて、何ができないのか、得意や不得意は何かといった生成AIの現実を知識だけではなく経験も伴った形で理解を促進することができます。
特に、実体験を伴うことによって知識だけでは把握することができない使い勝手や、理想ではない、活用方法のインスピレーションにつながります。
これによって、過度に期待の高まった生成AIの理想ではなく、生成AIの現実をベースに、活用の方法の検討ができ、技術の定着と安定的な生産性発揮の実現に近づくことができると考えます。
そのために、まず企業は、企業の価値を毀損しない生成AIの活用に対する方針を定め、従業員が安心して生成AIの利用を試みることができる環境を整備していくべきです。さらに、従業員から実際に使ってみた感触、感想のフィードバックを受けつつ、生成AIと人の役割分担を定義することで、今後生成AIが現在さまざまな場面で当たり前に活用されるオフィスアプリケーションと同様に汎用的に活用される世界になったときに、人が身に着けておくべき能力を明確にすることができ、生成AIをより効果的に利用できるようになるでしょう。
例えば、今後、企業価値を高めるために、従業員は生成AIに解決させる本質的な課題を見極める思考法を身に着けることが必要になると考えられますし、課題解決の思考方法もこれまでとは違い、テクノロジーの力を借りることを前提としたものになると想像します。
これまでは、人の思考力には限りがあるため、思考、分析する対象の選択と集中が必要でした。しかし、生成AIなどのテクノロジーは今まで人力では実現不可能だった大量の処理を可能にします。この、テクノロジーを前提とした思考法では、人にしかできない「ありたい姿」を決めることが大事になってきます。この際に、生成AIに対するリテラシーの高い人は処理段階で生成AIをうまく活用することを前提に、ありたい姿を定め、自らの力を超えた課題の解決を実現することができるのです。
今後企業は技術だけではなく、それを使う従業員のリテラシー向上に対しても大きく投資を行っていくことで、生成AIの定着に対する壁を低くし、さらに生成AI導入による効果を最大限に引き上げることができるのではないでしょうか。
とはいえ、試しに使ってみるにしても、取り組みの取っ掛かりのヒントとして業務における生成AIの活用方法の具体的なイメージがほしいという方も多くいらっしゃるかと思いますので、次回以降のコラムでは経理財務業務でどのように活用が検討されているかを説明していきたいと思います。
*1:AI Art at Christie’s Sells for $432,500
https://www.nytimes.com/2018/10/25/arts/design/ai-art-sold-christies.html
*2:MidJourney AI-generated artwork wins 1st prize at Colorado State Fair
https://www.actuia.com/english/midjourney-ai-generated-artwork-wins-1st-prize-at-colorado-state-fair/
*3:Artificial General Intelligence :汎用人工知能
*4:Bubeck, Sébastien, et al. "Sparks of Artificial General Intelligence: Early experiments with GPT-4." arXiv preprint arXiv:2303.12712 (2023).
*5:Planning for AGI and beyond , OpenAI, February 24, 2023
*6:Brown, Tom, et al. "Language models are few-shot learners." Advances in neural information processing systems 33 (2020): 1877-1901.
*7:米弁護士、生成AIで偽判例引用
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71483090R30C23A5EAF000/
*8:初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」の作成について(通知)
https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf?fbclid=IwAR2W0EKsyTjUkLNQwY-fkTmD9qlfmkbOp42kvfZc7yER0i6AHOVULd8-O3E
*9:生成AIに関する実態調査2023 秋
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023_autumn.html
*10:Gartner®, “What’s New in the 2023 Gartner Hype Cycle for Emerging Technologies”, Lori Perri, August 23, 2023
https://www.gartner.com/en/articles/what-s-new-in-the-2023-gartner-hype-cycle-for-emerging-technologies
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