{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2021-09-16
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大初期において、証券業界は収益環境が急激に悪化したものの、大幅な金融緩和を追い風に市場環境は好転し、2020年度決算では多くの企業がリテール、ホールセールいずれの部門において過去最高益を更新しました。また、COVID-19環境下で出社や対面営業が制限される中、オンライン証券各社が口座数を大幅に伸ばすなど、デジタル化の重要性が従来以上に高まりを見せています。
一方、コロナ禍が収束するタイミングの予想の難しさ、少子高齢化と人生100年時代に向けての対応、証券離れが進む顧客のリテンションおよび取り込み対策、オンライン証券を中心に進む委託手数料無料化の流れ、2021年に複数の金融機関が損失を被ったアルケゴス・ショックに見られる内在リスクへの対応、サステナビリティへの関心の高まりなど、証券業界を取り巻く事業環境には難所が多いのも事実です。証券業界に携わる企業には、日常的に変革を続けられるよう取り組みが求められると考えられます。
「顧客の高齢化」が進むことで、現在60歳代半ばから後半にかけてのコア顧客が10年後には後期高齢者となり、現在の30歳から49歳のいわゆる「資産形成層」が将来のコア顧客となることが見込まれます。長寿化が進む中で、フィデューシャリーデューティー(受益者責任)を十分に考慮したシルバー金融の構築、資産承継を含めた既存顧客のリテンション、10年後のビジネスを支えることが期待される「資産形成層」の取り込みが重要となります。
ウェブサイトやSNSで情報を容易に入手できる現代において、リテラシーの高い顧客は自ら投資情報を収集し、分析しています。また、クラウドファンディングにより応援したい企業や取り組みに出資するなど、収益以外を目的とした投資行動も増加しており、その傾向は今後さらに強まることが予想されます。これらは特に「資産形成層」以下の世代で顕著です。
今後、次世代の収益基盤となる「資産形成層」を顧客にしていくために、証券業界はどのように信頼を獲得し、その投資行動に関わっていくかが鍵となります。
「資産形成層」は、働き盛りであると同時に、育児や介護に追われるケースもあり、時間的余裕の少ない世代と言われています。そのため、有意義な投資情報を分かりやすく、タイムリーに提供し、顧客が速やかに投資行動に移れるよう、非対面と対面を組み合わせた最適なサービスを提供することが望まれます。
世界保健機関(WHO)がCOVID-19のパンデミックを宣言した2020年3月当初、景気見通しは急激に悪化し、市場は一時的に大混乱に陥りました。各国において大幅な金融緩和が実施されたこともあり、市場は程なくして安定を取り戻しましたが、変異株によるさらなる感染拡大や、過剰な流動性の引き締めの影響、アルケゴス・ショックに見られる内在リスクの顕在化など、市場のストレス状態が急速に高まる要素は多く、継続したモニタリングが必要となります。
PwCが2021年3月に発表した「第24回世界CEO意識調査」によれば、多くの企業のCEOがデジタル技術を利活用したビジネスやコラボレーションの重要性を認識していますが、この流れはコロナ禍での変化を受けてさらに加速すると考えられます。
証券各社においても、デジタル化にむけてデータ利活用やオープンAPIによるフィンテック企業との連携が進んでおり、RPAやAIを活用した業務プロセスの効率化などが進展しています。しかし、収益ビジネスとして確立できた事例は少なく、失敗事例を参考にビジネスモデル自体を再検討が必要になる場合もあります。
また、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)を活用しての社債の発行、仮想通貨の取り扱いなどに取り組む事例もあり、デジタル証券への環境整備も注目されています。
金融機関の国際競争力強化と顧客の利便性向上の観点から、ファイアーウォール(FW)規制の緩和に向けた動きが進んでいます。利益相反管理や、銀行の優越的地位の濫用防止などが論点となっていますが、規制緩和後の業務・プロセスの見直し(顧客同意、情報管理、利益相反管理など)によって顧客目線に立ったサービス提供体制の構築が求められます。
機関投資家や個人投資家のサステナビリティへの関心が高まってきています。また、2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、エネルギー・産業部門の構造変革、大胆な投資によるイノベーションの創出など、産官あげての取り組みが推進されています。
今後起こり得る資金需要の変化、若年層におけるSDGsへの相対的な関心の高さなど、投資家の志向の変化を読み解いたサービスや商品の提供を行う必要があります。
変化が絶えない環境下を生き抜くためには、アジリティ(俊敏性)を高め、変化への対応力をより高めるべく、ビジネスの足腰を強化する必要があります。資金調達手段や投資対象の多様化が進む中、提供するサービスや商品、その提供手段や営業体制をどのように差別化し、顧客に寄り添っていくのかが、証券各社の創意工夫が試されるポイントとなるでしょう。その為には、テクノロジーを活用することでコスト競争力やサービスを強化し、変化に柔軟に対応することができる態勢を構築することが必要と考えます。
固定費を低減し、より成長領域に資源を集約していくことが基本戦略となっていくでしょう。店舗などの対面チャネルと非対面チャネルの最適化、グループ内でのコーポレート機能のシェアードサービス化、ホールセール領域でのシステムやオペレーションのグローバルでの共通化および集約化など、今までのビジネスオペレーションの在り方を見直し、コストを下げつつ効率化を目指す施策をより一層進めることが望まれます。
ビジネス領域や顧客セグメントごとに、コストリーダーシップ戦略を取る領域、商品やサービス、ターゲット顧客、営業態勢の在り方などの差別化を図る領域を明確にし、戦略的にリソース配分を行うことが望まれます。
顧客データの利活用による「個客」に応じたサービスの提供、銀行・信託などグループ連携による多様なサービスの提供、顧客セグメントに応じたチャネルやサービスレベルの見直し、オルタナティブ商品による差別化、フィンテック企業や地方銀行などとのアライアンスによるサービスの多様化といった、他社との差別化を図るための取り組みがより一層強まることが予想されます。
マーケティング、顧客管理、トレーディング、事務オペレーション、コンプライアンス、リスク管理など、証券業務の各領域でAI、クラウド、RPAなどのデジタルソリューションが活用されています。また、デジタルトランスフォーメーションを効果的に推進すべく、レガシーマイグレーションを推進している企業もあります。
テクノロジードリブン、データドリブンの取り組みはこれからさらに加速するでしょう。今後は、バックオフィスに近い領域において、さまざまなデジタルソリューションを組み合わせた最適なサービスをタイムリーに提供することが差別化要素になると考えられます。
デジタルやデータの利活用など従来にない専門性を持つと同時に、より高い専門性、コスト意識、創造力を持って業務を変革する能力が今後は求められるようになります。
証券業界は、金融機関の中でも特に高い専門性が求められる業界でしたが、より一層その傾向が強くなるものと思われます。ジョブ型人事、スキルや専門性による評価制度、デジタル人材の育成・採用などの人事制度変革に着手している企業も多く、差別化の源泉となるイノベーションを組織的に起こすべく、デジタル組織やイノベーション組織を立ち上げ、さまざまな取り組みを進めている企業もあります。ただ、いずれも、短期で成果を上げることが難しいため、明確なビジョンと強い意志を持って根気強く継続することが必要となります。
証券業界は、大きな変革が求められています。各社個別の取り組みにとどまらず、業界内外で成功事例を共有し、連携を深めながら変革を実現していくことが望まれます。