法人クレジットカードビジネス強化に求められるデータ利活用

2022-06-16

スマートフォンの普及拡大などを背景にキャッシュレス決済市場が急成長しています。一方、クレジットカード発行枚数は飽和・高止まりしており、クレジットカード会社は新たな成長戦略の検討を迫られていると言えるのではないでしょうか。

競争が激化するキャッシュレス決済市場において、未だ成長余地を見込めるのが法人クレジットカード決済領域です。今回はその成長余地と課題の考察を基に、差別化に向けた新たなアイディアを検討していきます。

法人クレジットカードビジネスのポテンシャル

日本国内のクレジットカード発行枚数は2021年末時点で約3億枚に達し、過去5年間の年平均成長率は2%程度*1で、飽和状態にあります。

また、クレジットカードと比較して加入のハードルが低いことなどを背景に、コード決済が近年急成長しています。個人を中心とする決済市場においてクレジットカード会社の脅威となりつつあります。

決済手段別 取扱高推移

出典:日本クレジット協会「クレジット関連統計」、日本銀行「決済動向」、キャッシュレス推進協議会「コード決済利用動向調査」 よりPwCコンサルティング作成

法人決済は約1,000兆円と個人決済の3倍超の市場規模がありながら、法人カードの発行枚数は個人カードの約30分の1に留まっています。

クレジットカード発行枚数 調査結果

出典:消費者庁「令和3年版消費者白書」、経済産業省「電子商取引に関する市場調査」、日本クレジット協会「クレジットカード発行枚数調査結果」よりPwCコンサルティング作成

海外主要国と比較すると、法人カード保有率、中小企業の事業利用におけるカード決済比率ともに日本は約半分かそれ以下であり、成長余地があると言えるでしょう。

中小企業の事業間決済における キャッシュレス化・デジタル化の推進

出典:ビザ・ワールドワイド・ジャパン「中小企業の事業間決済におけるキャッシュレス化・デジタル化の推進」よりPwCコンサルティング作成

新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワーク推進や、電子帳簿保存法の改正*2に伴い、経費精算業務の電子化ニーズが高まっています。これらの背景が、法人決済におけるキャッシュレス利用の拡大を後押しすると考えられます。

*1 日本クレジット協会「クレジットカード発行枚数調査結果

*2 国税に関する帳簿(仕訳帳など)や書類(決算関係書類、請求書など)を対象に、電子取引データの電子保存義務化など、大幅な見直しが行われました(2022年1月1日より施行)
参考:PwC Japan「企業活動のDX化を後押しするための令和3年電子帳簿保存法改正への対応

法人クレジットカードビジネスの現状・課題

成長余地のある法人クレジットカードビジネスですが、今後クレジットカード会社がビジネスを拡大させるには乗り越えるべきハードルがあります。

まず、現在のクレジットカード会社の法人決済ビジネス・サービスを整理しましょう。各社差別化に向けたサービス拡充を進めている一方で、ビジネスカード、パーチェシングカード、経費精算サービス連携が中心となっており、差別化できているとは言い切れない状況です。

クレジットカード会社の 法人向けサービス比較

出典:各社HPよりPwCコンサルティング作成

また、クレジットカード会社に加え、近年、フィンテック企業を中心とした事業者が、法人向けサービスに参入し始めています。

例えば、ある経費精算・会計領域ソリューションを提供するフィンテック企業は、スタートアップ・スモールビジネス向けにプリペイドカードを発行し、経費精算サービスとの連携により会社属性のみに依拠しない行動・購買データを活用した与信供与を行うなど、独自の強みを活かしたサービスを展開しています。

新規参入者との競争に直面し、改めて法人クレジットカードの本質的な価値提供に原点回帰することがクレジットカード会社に求められるのではないでしょうか。

法人クレジットカードの本質的な提供価値は、主に(1)健全な商取引の拡大(2)経費関連業務の効率化にあると考えます。

  1. 法人クレジットカードがあることで、売り手は個社の与信審査をせずとも掛売りが可能となり、未収リスクをヘッジしたうえで現金以外の商取引機会の拡大を図ることが可能です。このような商取引創出への貢献が法人クレジットカードに求められます。
  2. 法人クレジットカードの利用データを会員企業に提供することで、経費申請・承認業務の効率化が可能です。経費精算ベンダーとの連携により効率化が促進されていますが、さらなるサービスの向上により完全自動化を実現することが顧客提供価値の向上・差別化に繋がるのではないでしょうか。

法人決済ビジネスにおける差別化のアイディア(本質的な提供価値の強化)

1. 経費・購買内容見直しのレコメンデーション

近年、パンデミックの発生や地政学的リスクの顕在化といった構造変化が押し寄せる中で、企業は事業継続力を強化していく必要があり、これまで以上にコスト削減が求められています。

調達や購買を含めて法人カードに統一し、利用履歴を可視化・分析するサービスを提供することで、企業の調達の最適化・コスト削減に役立てることができます。

例えば、カード会員企業の経費・購買を分析し、加盟店企業の商材や単価と比較することで加盟店からより有利なオファーを提供するなど、カード会員企業のコスト削減や加盟店側の売り上げ拡大に貢献できると考えます。もちろん、このサービスの提供には、各カード会社が進める経費精算ベンダーとのさらなる連携強化・データ相互利用がカギとなることは言うまでもありません。

カード会員企業の経費・購買を分析し、 加盟店企業の商材や単価と比較

これにより、クレジットカードが単なる決済手段としてだけではなく、健全な商取引拡大に資するものとして法人カードにさらなる価値が付加されることになるでしょう。

PwCでは独自の分析ツールを用い、膨大なデータを分析することでコストを可視化し、網羅性をもって診断を行うことが可能です。カード決済データだけでなく、経費申請データや購買データなど、多様なデータを分析することでクレジットカード会社の提供価値向上・差別化に資するサービス提供が可能です。

クレジットカード会社の 提供価値向上・差別化に資するサービス提供が可能

2. 経費不正利用検知による経費申請業務自動化

企業で発生する代表的なコンプライアンス違反として、経費の私的流用が挙げられます。そのリスクを高める要因の一つに、膨大な量の経費精算処理を手作業で行うことで不正の見落としが発生しやすくなっていることがあります。

足元はCOVID-19の感染拡大による経済活動の停滞により経費利用も減少傾向にありますが、今後経済活動の回復と経費利用の増加に比例して、不正利用も増える懸念があります。

法人カードの利用により経費精算処理を効率化させることで不正検知の確率が高まることはもちろんですが、クレジットカード会社が高度な分析技術を用いて幅広い不正パターンから検知をしたり、不正を予測するサービスを提供したりすることで、企業は経費申請内容の点検の手間を削減し、経費申請業務全体を一貫して自動化することができると考えます。

経費精算処理を効率化させることで 不正検知の確率が高まる

PwCコンサルティングでは、利用者の行動を基にした不正検知に加え、過去に不正事例に関係した利用者属性を加味した不正予測のソリューションを提供しています。

大手サービス会社に対して不正検知と予測モデルを提供した結果、約40万件の経費申請の中から不正疑義の高い申請を約400件検知しました。また、従業員の属性と不正申請の相関をAIで分析・リスクスコア付けを行いました。スコア下位者と比較してスコア上位者のリスクは約12倍と算出され、ハイリスクな従業員に対して抑止策を講じています。(個社別のカスタマイズが必要)

当ソリューションを活用することで、経費申請が限りなく不正のないものであることを担保でき、経費申請プロセスの完全自動化に資することが可能と考えます。

経費申請プロセスの 完全自動化

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執筆者

津留崎 数馬

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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橋本 大

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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近岡 由紀子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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