リース業界における環境変化に伴う経営管理のありかた

2023-03-31

リース業界における動向と課題認識

低金利かつ低成長の国内経済環境下において、リース業界ではリース料収入以外の収入を企図した事業領域への拡大や、成長性のある事業展開地域の拡大により、ポートフォリオの多様化が進んでいます。

図1 リース会社の事業ポートフォリオ拡大の動き

ビジネスモデルの変革のために新規事業への参入、出資、買収を進める企業が増加する一方で、限りある経営資源をどうアロケーションしていくかの方針が不明確である、あるいは与信以外のリスク管理が発展途上にあるといった場合が多く、事業ポートフォリオの管理に関連する課題として対応が検討されています。

この事業ポートフォリオ管理に関連する課題を整理すると大きく以下の3つに整理されます。これらは相互に密に連携するテーマであり、必要な対応について企画・財務・投資管理・リスク管理などの本社関連部署が協力して推進していくことが重要になります。

事業ポートフォリオ拡大に伴う事業ポートフォリオ管理に関する主要課題

  1. 事業ポートフォリオマネジメントの枠組み見直し:多様化する事業を共通の尺度で評価し、戦略の策定や経営資源の配分を行うための枠組みを整備
  2. 投資評価管理の枠組み見直し:事業領域と地域の拡大に伴うリスクプロファイルの変化に対応した投資のライフサイクル(投資意思決定・モニタリング・撤退)を管理する枠組みを整備
  3. リスク管理の枠組み見直し:気候変動リスクや人権リスクなどへの対応要請、事業領域と地域の拡大に伴う非財務リスク管理の複雑化に対応するための統合リスクを管理する態勢を整備

1. 事業ポートフォリオマネジメントの枠組み見直し

リース事業を営むグループ本社(以下、「リース事業体」)は、保有する種々の事業の特性を踏まえ、将来の目指すべき姿とその実現に向けて経営資源を配分することが必要になります。そのためには、ポートフォリオを可視化し、目標水準と経営資源配分を設定するための枠組み(事業ポートフォリオマネジメント)を整備する必要があります。

ポートフォリオの可視化とは、全社および各事業部門による戦略立案、分析を行うための土台として、ポートフォリオを共通の尺度や指標を用いて可視化すること指します。この可視化にあたっては、事業を相互に比較したり、他社の事業と比較したりすることを可能とするための共通の尺度や指標を定義し、運用することが重要になります。共通の指標を定義するにあたっては、戦略実現の要件および、それを測るための要件を整理し、当該要件を実現するKPIとして目標値を設定していくことが重要です。さらには、事業領域の拡大に伴い、異なる事業を横並びで評価することができるような指標を設計することが重要となります。

図1 共通尺度の決定と適用イメージ

また、複数の事業を比較した後は、個別事業部門内でカスケードダウンできるように、KPIツリー体系を整理することが必要になります。このKPIツリーを整理する際には、事業部門から各部・各課・各個人といった各レイヤーでの目標達成が全社の財務目標の達成につながるように整合性を持たせる一方で、各レイヤーにおいてはKPIの達成に必要な権限および責任を適切に設定することが求められます。

図2 KPIツリーのイメージ

設定した目標水準を達成するためには、経営資源の配分を最適化する必要があります。そのためにはシナリオを用いたリスク選好の検証を行い、経営資源配分の計画を立て、計画に基づく事業運営の結果として共通指標の目標水準を設定し、その最低水準を満たすかどうかの検証を繰り返し実施するプロセスを組み込むことが重要になります。

2. 投資評価管理の枠組み見直し

コラム「金融機関における事業投資管理の高度化」に記載のとおり、リース事業体も他金融機関と同様に、投資のライフサイクル(投資意思決定・モニタリング・撤退)に応じて、適切に投資評価管理を行うことが不可欠です。これを怠ると投資の期待効果が得られないどころか、減損や企業としての信用力の低下といった損失を被る可能性もあります。事業投資を促進していくと、自社の事業領域の拡大に伴いリスクプロファイルが変化します。これまで実施してきた信用リスクや市場リスク、流動性リスクの管理に加え、事業リスクをどのように管理していくのかがポイントとなります。さらに、国内・海外のグループ会社が増加することに伴い、ガバナンス態勢の構築も必要となります。また、事業投資推進のための経営資源(人材、リスク、外貨など)が顕在化しており、金融機関としての健全性を確保しながら、リスクリターンを最大化させる最適なポートフォリオを実現するための投資評価の枠組みも必要となってきます。

特にリース事業体においては、他金融機関と比較して対象事業セグメントや出資形態が多様である場合が多く、このような投資取引分類に応じた投資評価管理の枠組み(運営プロセスや定量指標等)を設定していくことがポイントになります。

図3 投資取引分類例

3. リスク管理の枠組み見直し

経営環境の激しい変化に伴い、金融機関が対応すべきリスクの範囲は大幅に広がってきています。このような外部環境の変化に加えて、リース事業体による事業セグメントの多様化や事業展開地域のグローバル化により、リース事業体が対処すべきリスクは多様化と複雑化が進んでいます。特に、昨今は気候変動リスクや人権リスクへの対応要請が高まっており、事業展開する領域および地域を拡大することは、リスク管理の複雑さを高めることにつながります。また、非財務リスクとしてのコンダクトリスクや評判リスクなどについても、新規事業であるがゆえの認識の難しさとリスクが顕在化した時のインパクトの大きさを考慮すると、これまで以上に多くの管理リソースを配分せざるを得ない状況となっています。

図4 金融機関に求められるリスクの範囲の拡大

リスク管理部門はこれまで財務リスクの管理・測定に注力してきましたが、今後はそれにとどまらず、自社の競争優位性の源泉やその持続可能性に係るより多様なリスクを認識し、「取るべきリスク」と「避けるべきリスク」を峻別したうえで経営判断を支える、すなわち「Risk Management」から「Risk Advantage」に資する体制へと変革する必要があると考えます。そのための統合リスク管理の枠組みとして、改めて全体像を見直す局面にあるのではないかと考えます。

図5 事業ポートフォリオを管理する統合リスク管理の全体像イメージ

まとめ

昨今の不確実性の高い環境下において、リース会社は継続的・安定的な成長を実現するために、リース料収入以外の収入を企図した事業領域の拡大や、成長性のある事業展開地域の拡大に向け、投資取引を今後も増加させるものと考えられます。一方で、新規事業のような「攻め」の施策を展開すると同時に、ポートフォリオ管理・投資評価管理・リスク管理といった「守り」の施策を強化し、その内容を株主のみならず社会・従業員を含む多くのステークホルダーに説明することが不可欠です。「攻め」と「守り」の両輪をバランスよく計画・推進していくことが持続的成長には重要となります。

PwCではリース事業に係るビジネス理解、事業ポートフォリオマネジメント、投資評価管理、リスク管理といった複数のケイパビリティを総合的に保有しており、内外環境が激しく変化するリース業界のクライアントに対し、経営管理の構想からシステムインプリテーションまで一貫した支援を提供することが可能です。

執筆者

三村 知昭

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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松本 智明

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川上 悟志

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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