品質不正に対する平時の備え

品質不正を抑止するための組織風土醸成

  • 2024-04-08

サマリー

  • 品質不正が発生した多くの企業では、組織風土に歪みが生じていたことが指摘されています。優れた組織風土を持つ組織では、トップが「理念」を掲げ、コミュニケーションやルールを支える「体制」が存在し、「部門間・上下間のコミュニケーション」が円滑に行われています。組織風土改善にはこれら「理念浸透」「体制づくり」「コミュニケーション改善」が重要であると言えます。
  • 「理念浸透」:組織風土改善の土台として、理念の浸透により従業員共通の規範意識を形成する必要があります。実現にあたっては、従業員への理念の浸透度合いを見極め、「認知の向上」「共感の醸成」「実務への落とし込み」など、「浸透のステップ」の各段階において異なる打ち手を効果的に実施します。
  • 「体制づくり」:組織風土改善の施策を組織にピン止めし、逆戻りを防ぐためには、体制づくりが肝要です。改革チームを公式のものとして「権威付け」し、通常の業務指揮命令系統を用いて支援するだけではなく、改革チームの組成にあたっては組織全体を巻き込みながら課題を克服していきます。また、運用面の定着として、改革チームがフィードバックを受け取り、改善につなげる取り組みを継続的に実施することが重要です。
  • 「コミュニケーション改善」:ミスコミュニケーションの放置は長期的に組織内の「ものが言えない雰囲気」の醸成につながります。上下間でのコミュニケーションに対しては人事考課への360°評価の採用や、直接の上司以外への連絡ルートの確保を実施し、部門間でのコミュニケーションにおいては各部門の役割の意識付けなどにより部門間の「権力勾配」の緩和することが重要です。

1.はじめに

連載コラム「品質不正に対する平時の備え」の第2回は、品質不正を抑止する手段として、組織風土の醸成について解説します。不正を発生させるメカニズムとして不正のトライアングル(「動機」「機会」「正当化」の3つの要素が揃ったときに不正が発生するというもの)が有名ですが、そのうちの「動機」と「正当化」に作用し、不正行為を未然に防ぐという観点から、組織風土の醸成は非常に重要です。過度なプレッシャーを抑制し、仮に不正行為を働く動機やプレッシャーがあったとしても、倫理的な価値観を尊重し、また従業員が正しい行動を取ることを奨励し、不正行為の正当化を許さず正しい行動を個々の従業員から引き出すことができれば、不正行為を抑止することができると考えられます。

品質不正が発生した企業の多くは、組織風土に閉鎖性、過度なトップダウン、事なかれ主義、同質化傾向などのような歪みがあり、これらが複合的に絡み合っていたことが指摘されています。品質不正を抑止するために、組織はどうすれば歪みのない、健全な組織風土を作り上げることができるでしょうか。

優れた組織風土を持つ組織では、トップが「理念」を掲げ、コミュニケーションやルールを支える「体制」が存在し、「部門間・上下間のコミュニケーション」が円滑に行われています。本稿では組織風土改善の屋台骨として「理念浸透」「体制づくり」「コミュニケーション改善」の3つを取り上げ、さらにそれらを補強するためのセーフティネット施策として「内部通報制度」について解説します。

以下、組織風土に課題を感じる組織が「何に焦点をあて、どのような施策を講じるべきか」を考える際の具体的なポイントを解説します。

2.「理念」の浸透

2-1.理念浸透の意義

昨今、営利・非営利を問わず、多くの組織が「理念」を設定しています。一般に、理念には組織全体が共通して持つべき倫理観や社会的責任などが表現されており、理念が浸透することで個々の従業員が組織の倫理観に沿った行動をとることが期待できます。

品質不正が発生する組織では、仮に「安全第一、品質第二」のような理念を掲げていたとしても、それが形骸化し、「納期優先」のように、理念とかけ離れた意識が従業員の行動を支配することが少なくありません。このように組織として重要視することと個々の従業員が追求するものとが乖離している状態は、早急に改善すべきでしょう。そのため、平時の備えとしては、改めて自社の理念の再浸透を図り、共通の規範意識を形成し直すことが有用です。

2-2.浸透のステップ

それでは、理念の浸透はどのように実現できるでしょうか。それにはまず、従業員への理念浸透を図る度合いである「浸透のステップ」を見極めることが重要です。浸透のステップとは、従業員の理念に対する捉え方を、①「理念を認知していない状態」、②「認知しているが共感に至っていない状態」、③「共感しているが実務に落として込めていない状態」、④「共感しており実務にも落とし込めている状態」の4つに大きく分類したもので、①、②、③については、それぞれで講じる打ち手が異なります。

2-3.認知の向上

まず①「理念を認知していない状態」を考えます。このステップでは、従業員の多くは理念自体への認識が薄いため、まずとるべき施策は「周知」といえます。周知の施策として、まず欠かせないのがトップメッセージの発信です。年度の節目などの折に、トップが従業員向けに理念について発信することは広く行われています。その際は理念を掲げるだけではなく、将来、組織は社会的にどのような存在となるべきかなどの具体的なイメージをもって説くことにより、従業員は理念をストーリーの形で理解しやすくなります。もちろん、従業員の理念への意識が薄れないよう、継続的に発信することがポイントとなります。

また、理念を日常的に浸透させるためにオフィスや工場などの目に付く所に掲示することや、社員証や社内ポータル、社内報など、従業員にとって身近なものに掲載することも重要です。さらに、理念周知を人事上の施策として取り組むことも考えられます。例えば、経営理念を行動規範、階層ごとの期待役割などに結びつけ、人事評価における定性評価に反映させることや、表彰や社内報でのピックアップするといった施策が考えられます。

2-4.共感の醸成

次に②の「認知しているが共感に至っていない状態」についてです。特に品質不正は、理念の形骸化が進み、共感が薄れ、規範意識が低くなった組織に発生しがちです。さらに、外部環境の変化に伴い、社内の品質管理方針や管理基準も変化が求められることがあるかもしれません。そのような状況において理念への共感を得るためには、トップダウンの強力な施策によって組織を先導することが有用です。

その際にまず重要なのが「率先垂範」です。従業員はトップがどのような視点で判断を行うかを観察しており、トップの姿勢は従業員の業務オペレーションに強い影響を与えます。トップが理念に沿った判断を行っていることが従業員に伝わると、変化への必要性が伝播し、また理念に沿うような行動を始めるきっかけを作りやすくなります。

逆に、トップが理念と矛盾する言動や判断を繰り返すと、トップや組織への不信感が醸成されてしまいます。まずはトップから、理念と実践を言行一致させることが肝要です。また、オープン・ドア・ポリシーやManagement By Walking Around(MBWA:マネジメント層の現場巡視)を取り入れている組織もあります。これらは総じて、トップの言葉や理念を個々の従業員に直接届けるとともに、理念を実践するトップの姿勢を従業員に表現するという効果も期待されます。

さらに、理念は言葉を理解するだけでなく、なぜそれが重要なのかといった意義や理由まで含めて従業員が納得し、理念への共感を醸成することが有用です。これには職場会などの小集団活動やQC(Quality Control:品質管理)活動、ワークショップおよび対話の場の設定といった施策が挙げられます。これらの施策には、理念を組織から与えられたものではなく、自分自身のストーリーとして意味づけし、理念への共感を深めるという機能があります。これらの施策を通じて論理と感情の両面から共感の喚起を図り、変化への抵抗を乗り越えることが有用です。

2-5.実務への落とし込み

続いて③の「共感しているが実務に落として込めていない状態」についてです。理念自体は尊重すべきと思いつつ、目の前のKPI達成を優先してしまう、自身の業務との関係が希薄に感じるなどの理由で、肝心の実務に理念が反映されていないケースが散見されます。ステップ③を脱却するためには、理念を業務オペレーションに接続するということが重要です。

このためには、部課長などのミドルマネージャーの巻き込みが有用です。例えば、経営層や工場長がミドルマネージャーと理念の落とし込みについて座談会を行い、それぞれの部門が理念の項目に沿って実践の方法を考え、言語化するという取り組みが挙げられます。このような活動の中で、理念はミドルマネージャーを介してそれぞれの部門で実践されやすい形に“翻訳”され、現場の従業員にとって実践しやすい形で業務に取り込まれることが期待されます。ミドルマネージャーが自分の部下と面談の場で、理念の実践に関する行動実績やその際の課題感、今後の行動改善の目標などを話し合うことで、理念の実務への落とし込みがより深まることが期待されます。

ここまで、理念を浸透させるステップと打ち手の具体例を挙げました。実務においては、まず従業員アンケートやヒアリングなどを実施し、結果を分析することで、組織の現在地の見極めから始めることが必要です。自組織は理念の認知向上から始めるべきなのか、実務への落とし込みが必要なのかなど、自組織がどのステップにいるかを見極め、段階に合った施策を積み上げることが有用です。また実務への落とし込みが具体的に進むことにより、不正の兆候に対する感度が高まり、疑わしい事象がより早期に上司と部下の間で共有されやすいという副次的な効果も期待されます。

3.「体制」づくり

3-1.体制づくりの意義

昨今、組織風土改善に関する教育・社内啓発を行っているものの、変革したはずのプロセスが充分に組織に波及せず、やがて従前のプロセスへと回帰する“先祖返り”が起きてしまうケースが散見されます。変化が波及しない要因としては、例えば責任部署が明確でなく取り組みに一貫性がない、部門や権限の壁に阻まれ活動を組織全体に波及できない、活動の振り返りや追加施策が不足しているなど、さまざまです。このため、組織風土改革では、施策を組織に“ピン止め”しながら進めることが不可欠です。変化の“ピン止め”機能は、組織内の体制づくりによって支えられます。本稿では、体制づくりを①公式化/権威付け、②改革チームの組成、③運用面での定着と、段階を分けて解説します。

3-2.公式化/権威付け

まず、組織風土改善への取り組みの①公式化/権威付けについてです。実際の取り組みは改革チームを組成し活動することとなりますが、組織に波及しなければ効果が発揮されません。このため、組織は改革チームの活動を公式なものとして位置付け、権威を与え、支援することが必要です。例えば、改革チームが対話の場を設けても、実際に参加する人が少ない、参加姿勢が消極的といった場面は想像に難くありません。また、例えばマネジメント層にコミュニケーション改善を促すような取り組みを実行する場合も、改革チームが改善をアナウンスするだけでは、実効性が期待できない場合があります。このような場面では、公式な業務の指揮命令系統を用いて、各部署に参加・協力や連携、活動のルール設定を促すような取り組みが望まれます。

3-3.改革チームの組成

次に②改革チームの組成についてです。組織風土改革においては所管部署として改革チームを設けることが一般的ですが、改革そのものは必ずしも組織の一部署や担当のタスクの完了をもって完結するものではありません。変化の“ピン止め”を果たすためには、「担当者任せにせず、組織に改革を定着させる」ことが必要です。

トップメッセージや資源配分の面ではトップが協力し、他部署が関わるポイントでは連携を手助けするなど、改革チームだけでは乗り越えられない点を組織として解消する体制づくりが求められます。また、こうした体制は、改革を組織全体に波及させるために全社統括の部門とすることが望ましいですが、活動や人材の確保などに制約がある組織は、まずは事業部や拠点の中で活動を行い、着実に成果を積み上げる「スモールサクセス」から始め、取り組みの成熟を待ってから組織全体へ波及させることが考えられます。

3-4.運用面の定着

③運用面の定着を実現するためには、改革チームが施策効果のフィードバックを受け取り、改善に繋げる体制が必要です。組織風土改革の取り組みは一朝一夕で完結するものではないため、施策の手応えや改善余地を模索し、PDCAサイクルを回し続けることで施策の有効性を長期継続的に高めることが望まれます。

フィードバックを集める際には、従業員アンケートの形で行われることが一般的です。特に、定期的に同内容のアンケートを実施することを、脈拍を計ることになぞらえ「パルスサーベイ」と呼ぶことがあります。組織風土の課題を探るための初回アンケートを狭義の「アンケート」、施策の効果や指標の推移を把握するためのアンケートを「パルスサーベイ」と区別して継続実施し、結果の分析を通じて組織風土改革の各施策にフィードバックしていくことが重要です。

4.部門間・上下間のコミュニケーション改善

4-1.コミュニケーション改善の意義

コミュニケーションの重要性は言うまでもありませんが、言語、非言語の両面から成るコミュニケーションは定量化になじみにくい、理想の状態とのギャップを把握することが難しいといった理由から、可視化による管理が困難です。コミュニケーションの際には伝えられた言葉だけでなく、組織の経験や背景、当事者の立場や関係性など、黙示的要素を加味したさまざまな解釈がなされるため、情報が意図しない形に歪んで伝わってしまうということもあります。

このようなミスコミュニケーションは短期的にはミスの直接的原因となりうるばかりか、長期的には組織内に「ものが言えない雰囲気」が徐々に醸成されてしまいます。品質不正を経験した組織では、問題点を早期に共有できないまま放置し、問題が肥大化するという悪循環を招き、やがて手に負えなくなったら逃げ道として改ざんなどの不正に至ってしまうというパターンが多く見られます。これを防ぐためには改善が不可欠ですが、実際のコミュニケーションの問題は縦と横、すなわち上下間と部門間のコミュニケーションの問題が複合的に組み合わさっています。そこで本稿では改善を図るコミュニケーションの対象を、横と縦に要素分解して捉えます。

4-2.縦のコミュニケーション改善

縦の関係である上下間のコミュニケーションについてはどのように考えられるでしょうか。一般に上司は部下の評価権限を有するため、部下は上司の意思を忖度して察知し、行動するがあまり、結果として疑問に思っても口に出さないことがあります。また、上司が組織として受容しかねる行動や言動をとった場合でも、部下は上司に対して是正を求めづらい心理が働きます。これは、部下が「言っても自分が損をするのでは」という懸念から課題提起を躊躇し、ものが言えない雰囲気に起因するものと考えられます。

このような雰囲気を解消するための対応施策の1つとして、人事評価の考課に部下や同僚からの匿名の評価を反映させる360°評価を採用することが考えられます。また、部下の意見を引き出すという意味では、直接の上司以外への連絡ルートを確保するのも効果的です。例えば、部下が2階層上の上司に相談ルートを設ける、定期的な従業員アンケートや目安箱を設け、意見を述べる場を増やす、内部通報制度を充実させるなど複数の施策を用意しておくことが有用です(内部通報制度に関しては、「5.内部通報の実効性向上補助施策」で述べます)。

4-3.横のコミュニケーション改善

次に横、すなわち部門間の問題を考える上で重要なのが、「権力勾配」という考え方です。権力勾配の大意は、「部門間での権力(発言力など)の差の大小」です。権力勾配が大きいと、権力の小さい側は大きい側に対して課題提起に躊躇してしまう、部門間の連絡や連携に消極的になってしまうなどの影響をもたらします。

品質不正が発覚したある組織では、「製造一軍、品証二軍」というスラングが存在し、製造部が中核部門と位置付けられた結果、製造部が品質保証部よりも圧倒的に強い発言力を持ちました。その結果、品質保証部は製品不良を検出した際に、製造部にNGを示すことを躊躇するようになりました。やがて品質保証部は軽微な規格外れを黙認し始め、さらには検査成績書の改ざんや未検査出荷へと拡大していくこととなりました。

部門間の権力勾配を緩和するためには、意識付けの面と、権力補完の両面からの複眼的なアプローチが望まれます。まず意識付けの面からは、トップマネジメントが率先してそれぞれの部門の役割を改めて説くことが重要です。各々の部署が自部署の役割を再確認するとともに、他部署の役割を尊重する意識を醸成するためのアナウンスが求められます。また、権限補完の面からは、人材や予算などの資源配分の偏りを緩和することが必要です。先述の例の他にも、「役員人事に明確な序列がある」「チェック機能を担う部門の予算が乏しく最低限の活動しかできない」といった声は、不正が発生した組織以外からもよく聞かれます。

別の施策としては、部門間の交流を促進することも考えられます。部門横断的な課題、例えば歩留改善や出荷リードタイムの短縮の業務改善から、ウェルビーイングやSDGsなどの施策の検討、Speak upの機会の保障までテーマはさまざまですが、プロジェクトチームを組成し、平素から意見の出し合いが闊達に行われる場を設けておくことが考えられます。

5.内部通報の実効性向上

5-1.内部通報の実効性を向上させる意義

組織風土の改革に加え、従業員が自由に意見を発言できるセーフティネットとなる施策を併せて講じておくことが、不正の兆候を早期発見するために有効です。

内部通報は、2022年施行の改正公益通報者保護法において、「必要な体制の整備」(第十一条二項)などが義務化されたことを背景に、昨今多くの組織で導入されつつあります。しかしながら、通報者が特定され、報復行為などの不利益を被る恐れ、通報内容に関する事情聴取への協力に対する負担感、通報後の調査や処罰等の対応の不明瞭さなどへの懸念や不満から、いまだに利用実績の少ない組織が多くみられるのが実情です。内部通報の実効性向上にあたっては、①内部通報制度の認知・アクセスの向上、②秘密保持の厳守、③対応の見える化が重要です。なお、本項に関連して、2022年3月18日付の当チーム記事「内部通報制度について知っておきたいこと」をあわせてご参照ください。

5-2.内部通報制度の認知・アクセスの向上

まず①内部通報制度の認知・アクセスの向上についてです。内部通報制度は有事の事象やその疑い事例に用いられる性質上、平時には従業員の意識に上がることは多くないといえます。このため、コンプライアンス教育の一環としての周知や、社内ポータルサイトへの掲示などにより、制度の存在について認知を高めることが求められます。

5-3.秘密保持の厳守

次に②秘密保持の厳守についてです。先述の改正公益通報者保護法では、「公益通報者を特定させるもの」の守秘義務(第十二条)をはじめ、通報者の保護が図られています。しかし、内部通報制度が導入されていても、秘密保持のための対策や意識付けが充分でない組織も引き続き多く見られます。公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)では、通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為(範囲外共有)や通報者の探索を防止する必要があるとしています。通報情報に触れる人物を最低限かつ明確にする、通報者と事後対応の進め方を相談しながら進められる体制を整備する、通報者の探索行為を厳禁する旨の社内教育を施すなどの工夫を施し、秘密保持厳守の方針を組織内にアナウンスすることが有用です。

5-4.対応の見える化

続いて③対応の見える化についてです。通報者は組織が通報を受けた後にどのような対応をとるか、自分が事案にどのような関わり方をするかなどを予見しづらいと感じる場合、通報制度の利用を躊躇うことがあります。また、組織が有効な対策を講じなかったと感じた場合、通報者は通報制度自体に失望し、また不信感を抱き、次回からの制度の利用に消極的になったり、マスコミなどにリーク行為を行ったりする恐れがあります。これらを防ぐためには、事前に対応プロセスなどを周知することや、可能な限り通報内容と対応を事後的に公開するということが考えられます。対応プロセスの周知は、通報から対応までのステップや期間、対応に係る連絡フローや対応の内容などを通報制度と併せて周知するものであり、通報者にとって通報後の組織や事案、自身の関わり方への予見可能性を高めます。昨今グローバル企業を中心に海外拠点への制度導入が進められていますが、実効性のある制度を構築するためには、特に本社の主導の下で認知・アクセスの向上を図っていくことが望まれます。

6.おわりに

品質不正に対する平時の備えとして、全2回に分けて解説しました(前回:「製造・検査データ記録管理における対策」)。俯瞰すると、データ管理の面でも、組織風土改革の面でも、着手すべき課題は多岐にわたります。平時の備えを体系立てて行うには、組織ごとに取るべき施策の大項目を列挙し、中長期的な視点に立った計画づくりや、そのための資源配分から取り組むことが有用です。

特に、本稿で扱った組織風土改革には、万能の解はありません。そのため、問題把握と施策の立案、実行のサイクルを長期にわたって回し続ける必要があります。成果に結実するまでは容易ではありませんが、従業員から組織風土の改善へ向けての期待と信頼を得、コミットメントを引き出すことは、良い風土を組織全体に波及していくための重要なステップとなるといえます。読者の皆様が組織風土の改善という難題に立ち向かうための一助となれば幸甚です。

執筆者

那須 美帆子

パートナー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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上野 俊介

ディレクター, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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鈴木 孝浩

マネージャー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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グローバル経済犯罪実態調査2022 ―外部犯行者による不正の増加

本調査は、2022年に実施したグローバル経済犯罪実態調査の第1弾で、53の国および地域における1,296人からの回答結果を分析したレポートの翻訳版です。企業規模や業界別に見た発生率の高い不正、外部犯行者の種類、新たに台頭しつつある不正の兆候など、企業を取り巻く不正の現状について、さまざまな側面から分析しています。

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