連載コラム 地政学リスクの今を読み解く

徹底解説 2024年米国大統領選挙(更新版 前編)

  • 2024-09-09

<本稿のポイント>

  • バイデン氏の選挙戦撤退以前はトランプ氏優勢だったが、ハリス氏の下で民主党は勢いづいており、米国大統領選挙は接戦状態。
  • ハリス氏勝利の場合、民主党が下院、共和党が上院で多数派を握り気候変動など主要イシューでの大型法案成立が困難となる一方、トランプ氏勝利の場合、共和党が僅差で議会両院における多数派となり政策が実行しやすくなる見込み。
  • 総じて、ハリス氏当選の場合はバイデン政権の路線が継続されるが、トランプ氏再選の場合は貿易戦争の再発、環境政策の後退、移民排除に伴う労働市場の混乱、利下げペースの変化などが想定される。
  • 日本企業は選挙動向の把握に加えて、選挙結果に伴う政策変更の分析、それらを踏まえた事業への影響の把握と事業戦略の検討、ロビイング活動の強化などに注力すべき。

11月5日に投票日を迎える米国の大統領選挙まで2か月を切りました。本稿では、2023年11月公開の「徹底解説 2024年米国大統領選挙」を踏まえつつ、執筆時点(2024年8月29日)の情報に基づき、選挙戦の動向、選挙結果が米国の外交・内政に与える影響、それを踏まえた企業への影響や求められる対応を考察します。

選挙戦の動向

直近の2か月において、選挙戦は大きく動いています(図表1)。6月27日の大統領候補者討論会におけるバイデン氏の低調なパフォーマンス以降、トランプ氏が世論調査でリードを広げ、民主党内でバイデン氏の選挙戦撤退を求める声が急速に広がりました。7月21日にはバイデン氏が撤退を発表し、8月1~5日に行われた民主党代議員の投票によってハリス副大統領が新たな候補者に指名されました。11月の投票日まで3か月ほどしかないなかでの候補者変更は前例がなく、今回の選挙戦の特異さを表しています。加えて、8月23日には無党派候補者のロバート・ケネディ・ジュニア氏が選挙戦を撤退し、その後トランプ氏への支持を表明しており、選挙戦への影響が注目を集めています。

図表1:大統領選挙をめぐる最近の主な出来事と今後の日程

年度

日付

主なイベント

2024年

6月27日

大統領候補者討論会(バイデン氏対トランプ氏)

7月13日

トランプ氏の暗殺未遂事件

7月15~18日

共和党全国大会

7月21日

バイデン大統領による選挙戦撤退の発表

8月1~5日

民主党代議員によるハリス氏の候補者指名

8月19~22日

民主党全国大会

8月23日

無党派候補者のロバート・ケネディ・ジュニア氏による選挙戦撤退の発表

9月6日

一部の州における郵送投票の開始

9月10日

大統領候補者討論会(ハリス氏対トランプ氏)

9月16日

一部の州における期日前投票の開始

10月1日

副大統領候補者討論会(ウォルズ氏対バンス氏)

11月5日

本選挙投票日(538人の選挙人のうち270人以上を獲得した大統領候補者が勝利)

2025年

1月20日

大統領就任式

大統領選挙の動向

高齢不安が指摘されたバイデン氏が撤退し、ジャマイカ出身の父とインド出身の母を持つエネルギッシュな女性のハリス氏が民主党候補となったことで、形勢が逆転しています。バイデン氏撤退以前は、全米の世論調査でトランプ氏がバイデン氏を3ポイントほどリードしていました。選挙結果を左右するとされる激戦7州(「ラストベルト」と称されるミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州、「サンベルト」と称されるアリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナの4州)全てにおいて、トランプ氏が2~7ポイント優勢の状況でした。バイデン氏が再選を果たすためには、トランプ氏との差が比較的小さく、「民主党の牙城(ブルーウォール)」と称されるラストベルト3州全てで勝利するほかありませんでした(図表2)。

図表2 大統領選挙の世論調査(バイデン氏対トランプ氏、2024年7月21日時点)

バイデン氏撤退以降は民主党陣営が勢いづいており、全米世論調査でハリス氏がトランプ氏に対して3ポイント強のリードを見せています。比較的民主党有利とされるラストベルト3州では2~3ポイント優勢、共和党有利とされるサンベルト4州では拮抗という状況です(図表3参照)。ハリス氏躍進の背景には、バイデン氏支持に躊躇していた無党派層や、若者、女性、有色人種などの民主党支持基盤、バイデン氏・トランプ氏の両氏を忌避していた「ダブルヘイター」と呼ばれる有権者からの支持獲得があります。無党派候補者のケネディ氏が撤退しトランプ氏への支持を表明していますが、トランプ氏の支持率に大きな変化は見られず、ケネディ氏の撤退が選挙戦に与える影響は限定的と考えられます。

図表3 大統領選挙の世論調査(ハリス氏対トランプ氏、2024年8月28日時点)

情勢の変化を受けて、専門家の選挙結果予想も大きく変わっています。バイデン氏撤退以前は、選挙専門サイトFiveThirtyEight創設者のネイト・シルバー氏*1やエコノミスト誌*2はトランプ氏勝利の確率を7割強、バイデン氏の確率を2割強と見ていました。撤退以降はシルバー氏、エコノミスト誌ともハリス氏勝利の確率を5割強、トランプ氏の確率を4割強と予想しています。トランプ氏優勢から五分五分の接戦に状況が変わったと言っていいでしょう。今後、ハリス氏の陣営が勢いを維持できるのか、トランプ氏の陣営が巻き返しを図れるのかに注目が集まります。

議会選挙の動向

大統領選挙と同様に重要なのが連邦議会選挙です。どちらの党が上下院で多数派を握るかで政府予算や重要法案の成立の見通しが左右されるため、議会選挙も注視が必要です。

全100議席中34議席が改選される上院では共和党が優勢です。選挙専門サイト270toWinがまとめた専門家予想の平均値によると、共和党は選挙後に50議席、民主党は48議席となる見込みで、残り2議席(モンタナ州、オハイオ州)が接戦となっています*3。トランプ氏が当選した場合、共和党は接戦になっている2議席を獲得せずとも事実上の上院多数派を確保できますが、ハリス氏が当選した場合でも、民主党は2議席両方を獲得しないと多数派を確保できない状況です*4

全435議席が改選される下院では、共和党有利が209議席、民主党有利が205議席、接戦が21議席と、情勢は拮抗しています*5。歴史的に見ると、下院接戦選挙区の結果と大統領選挙の結果には正の相関関係があるため、大統領選挙に勝利した政党が下院における多数派となる公算が大きいと考えられます。

*1 Nate Silver and Eli McKnown-Dawson, “Silver Bulletin 2024 presidential election forecast,” August 20, 2024,
https://www.natesilver.net/p/nate-silver-2024-president-election-polls-model

*2 The Economist, “Kamala Harris Has Put the Democrats Back in the Race,” August 21, 2024,
https://www.economist.com/interactive/us-2024-election/prediction-model/president

*3 270toWin, “2024 Senate Elections: Consensus Forecast,”
https://www.270towin.com/2024-senate-election/consensus-2024-senate-forecast

*4 副大統領が上院議長を務め、タイブレークの投票を行うため、共和党50議席、民主党50議席と同数の場合、大統領府を握る政党が多数派となる。

*5 270toWin, “2024 House Election: Consensus Forecast,”
https://www.270towin.com/2024-house-election/consensus-2024-house-forecast

徹底解説 2024年米国大統領選挙(更新版)

執筆者

南 大祐

マネージャー, PwC Japan合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ