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11月5日に投票日を迎える米国の大統領選挙まで2か月を切りました。本稿では、2023年11月公開の「徹底解説 2024年米国大統領選挙」を踏まえつつ、執筆時点(2024年8月29日)の情報に基づき、選挙戦の動向、選挙結果が米国の外交・内政に与える影響、それを踏まえた企業への影響や求められる対応を考察します。
直近の2か月において、選挙戦は大きく動いています(図表1)。6月27日の大統領候補者討論会におけるバイデン氏の低調なパフォーマンス以降、トランプ氏が世論調査でリードを広げ、民主党内でバイデン氏の選挙戦撤退を求める声が急速に広がりました。7月21日にはバイデン氏が撤退を発表し、8月1~5日に行われた民主党代議員の投票によってハリス副大統領が新たな候補者に指名されました。11月の投票日まで3か月ほどしかないなかでの候補者変更は前例がなく、今回の選挙戦の特異さを表しています。加えて、8月23日には無党派候補者のロバート・ケネディ・ジュニア氏が選挙戦を撤退し、その後トランプ氏への支持を表明しており、選挙戦への影響が注目を集めています。
図表1:大統領選挙をめぐる最近の主な出来事と今後の日程
年度 |
日付 |
主なイベント |
2024年 |
6月27日 |
大統領候補者討論会(バイデン氏対トランプ氏) |
7月13日 |
トランプ氏の暗殺未遂事件 |
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7月15~18日 |
共和党全国大会 |
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7月21日 |
バイデン大統領による選挙戦撤退の発表 |
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8月1~5日 |
民主党代議員によるハリス氏の候補者指名 |
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8月19~22日 |
民主党全国大会 |
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8月23日 |
無党派候補者のロバート・ケネディ・ジュニア氏による選挙戦撤退の発表 |
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9月6日 |
一部の州における郵送投票の開始 |
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9月10日 |
大統領候補者討論会(ハリス氏対トランプ氏) |
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9月16日 |
一部の州における期日前投票の開始 |
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10月1日 |
副大統領候補者討論会(ウォルズ氏対バンス氏) |
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11月5日 |
本選挙投票日(538人の選挙人のうち270人以上を獲得した大統領候補者が勝利) |
|
2025年 |
1月20日 |
大統領就任式 |
高齢不安が指摘されたバイデン氏が撤退し、ジャマイカ出身の父とインド出身の母を持つエネルギッシュな女性のハリス氏が民主党候補となったことで、形勢が逆転しています。バイデン氏撤退以前は、全米の世論調査でトランプ氏がバイデン氏を3ポイントほどリードしていました。選挙結果を左右するとされる激戦7州(「ラストベルト」と称されるミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州、「サンベルト」と称されるアリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナの4州)全てにおいて、トランプ氏が2~7ポイント優勢の状況でした。バイデン氏が再選を果たすためには、トランプ氏との差が比較的小さく、「民主党の牙城(ブルーウォール)」と称されるラストベルト3州全てで勝利するほかありませんでした(図表2)。
バイデン氏撤退以降は民主党陣営が勢いづいており、全米世論調査でハリス氏がトランプ氏に対して3ポイント強のリードを見せています。比較的民主党有利とされるラストベルト3州では2~3ポイント優勢、共和党有利とされるサンベルト4州では拮抗という状況です(図表3参照)。ハリス氏躍進の背景には、バイデン氏支持に躊躇していた無党派層や、若者、女性、有色人種などの民主党支持基盤、バイデン氏・トランプ氏の両氏を忌避していた「ダブルヘイター」と呼ばれる有権者からの支持獲得があります。無党派候補者のケネディ氏が撤退しトランプ氏への支持を表明していますが、トランプ氏の支持率に大きな変化は見られず、ケネディ氏の撤退が選挙戦に与える影響は限定的と考えられます。
情勢の変化を受けて、専門家の選挙結果予想も大きく変わっています。バイデン氏撤退以前は、選挙専門サイトFiveThirtyEight創設者のネイト・シルバー氏*1やエコノミスト誌*2はトランプ氏勝利の確率を7割強、バイデン氏の確率を2割強と見ていました。撤退以降はシルバー氏、エコノミスト誌ともハリス氏勝利の確率を5割強、トランプ氏の確率を4割強と予想しています。トランプ氏優勢から五分五分の接戦に状況が変わったと言っていいでしょう。今後、ハリス氏の陣営が勢いを維持できるのか、トランプ氏の陣営が巻き返しを図れるのかに注目が集まります。
大統領選挙と同様に重要なのが連邦議会選挙です。どちらの党が上下院で多数派を握るかで政府予算や重要法案の成立の見通しが左右されるため、議会選挙も注視が必要です。
全100議席中34議席が改選される上院では共和党が優勢です。選挙専門サイト270toWinがまとめた専門家予想の平均値によると、共和党は選挙後に50議席、民主党は48議席となる見込みで、残り2議席(モンタナ州、オハイオ州)が接戦となっています*3。トランプ氏が当選した場合、共和党は接戦になっている2議席を獲得せずとも事実上の上院多数派を確保できますが、ハリス氏が当選した場合でも、民主党は2議席両方を獲得しないと多数派を確保できない状況です*4。
全435議席が改選される下院では、共和党有利が209議席、民主党有利が205議席、接戦が21議席と、情勢は拮抗しています*5。歴史的に見ると、下院接戦選挙区の結果と大統領選挙の結果には正の相関関係があるため、大統領選挙に勝利した政党が下院における多数派となる公算が大きいと考えられます。
*1 Nate Silver and Eli McKnown-Dawson, “Silver Bulletin 2024 presidential election forecast,” August 20, 2024,
https://www.natesilver.net/p/nate-silver-2024-president-election-polls-model
*2 The Economist, “Kamala Harris Has Put the Democrats Back in the Race,” August 21, 2024,
https://www.economist.com/interactive/us-2024-election/prediction-model/president
*3 270toWin, “2024 Senate Elections: Consensus Forecast,”
https://www.270towin.com/2024-senate-election/consensus-2024-senate-forecast
*4 副大統領が上院議長を務め、タイブレークの投票を行うため、共和党50議席、民主党50議席と同数の場合、大統領府を握る政党が多数派となる。
*5 270toWin, “2024 House Election: Consensus Forecast,”
https://www.270towin.com/2024-house-election/consensus-2024-house-forecast
南 大祐
マネージャー, PwC Japan合同会社