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一部のがんをはじめとする難治性疾患の治療法として、再生医療、中でも細胞治療への注目が高まっています。技術の進化は著しく、市場は破竹の勢いといえるペースで成長している中、日本においても製薬企業から医薬品の開発・製造を受託し、細胞治療の根幹を支えている医薬品開発製造受託(CDMO)企業が存在感を増しています。
その一方で、海外のCDMO企業と比較すると上市につながるような実績が積み上がっていないという課題もあります。再生医療はこれからどう発展し、日系CDMO企業はどのような方向に進んでいくのでしょうか。長年にわたり細胞治療の第一線で活躍する帝人リジェネット社長補佐・事業開発グループ長の細山剛氏をお招きし、医薬品産業の発展に向けた取り組みを推進しているPwCアドバイザリー合同会社ディレクターの大川雄也、シニアマネージャーの山﨑順也がその未来について語り合いました。
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長
帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付
細山 剛氏
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター
大川 雄也
PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー
山﨑 順也
(左から) 大川、細山氏、山﨑
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
大川:
再生医療の中でも成長著しい細胞治療CDMO(医薬品開発製造受託)事業と、その市場環境、特に日系CDMO企業として今後どのように戦っていくべきかというテーマを中心に議論を進めていきたいと思います。
2019年に血液がん向けのCAR-T細胞療法※1が日本で承認されて以来、細胞治療は新しい選択肢として幅広く認知されるようになっています。
細山さんは日系大手製薬会社、バイオベンチャー、海外企業など数社で活躍された後、帝人リジェネットでCDMO事業に関わっていらっしゃいます。一貫して細胞治療の領域に関わってこられましたが、昨今の細胞治療に対する注目度の高まりや変化について、どのようにお感じになっていますか。
細山:
注目されている背景として、細胞の遺伝子改変が急速に発達したことで、今までコントロールできなかったようなリンパ球をコントロールできるようになってきたことが大きいと思います。特に、CRISPR-Cas9※2という、狙ったゲノムの場所を簡単に改変できる技術が登場したことのインパクトは大きかったですね。簡単なうえに誰でも容易にゲノム編集ができるようになったので一気に広がりました。
もう1つは、比較的作り方がシンプルというか、それほど製品によってトリッキーなところがない点でしょうか。普遍的なものが多いので、製法がある程度共通しているところが、広がっているもう1つの要因でしょう。
新しいフロンティアとしての細胞医薬品。この領域への期待の大きさは私も非常に肌で感じていますし、これからますます大きくなる市場として、特に製薬会社の方々は注目されていると思います。
山﨑:
細胞治療への期待は非常に大きいですが、現時点でその対象は一握りの疾患のみという状態で、例えばがん領域においては一部の難治性の白血病・リンパ腫が再発した患者さんに限られています。他の治療でどうにもならない、なかなか改善が見込めない患者さんに対する最終手段のような位置付けで使われていることが多いと思います。そういった状況の中で、今後技術的にどう進化していくのか、結果として細胞治療の位置付け、貢献余地がどう変わっていくのか、といった点に関しては、どのように捉えていらっしゃいますか。
細山:
確かに現時点では、不応性、再発性の疾患が対象になっています。
今は研究も進んでいて、急性骨髄性白血病などを対象にしたCAR-Tが開発され始めています。今後はこのように白血病の中でもより間口を広げた疾患を対象とした治療に役立っていくのではないかと考えています。もちろん、“本丸”として固形がんも対象です。
大川:
対象疾患として、これまで血液系のがんが中心だったのが、固形がんに広がるというのも可能性として高いということですね。そうした横への広がりに加えて、がん以外の領域においても、より治療が難しい疾患への効果も期待できそうですね。
細山:
はい、おっしゃるとおりです。また、最近よく言われ始めたのは、自己免疫疾患にCAR-Tが使えそうだということです。さまざまな論文でエビデンスとして出てきています。自己免疫疾患も幅広いですが、例えばその一種であるリウマチなどの疾患にも応用できるようになれば、非常に裾野が広がります。
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長 帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付 細山剛氏
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 大川雄也
山﨑:
使う細胞の種類ですが、これまでは患者さん自身の細胞を使う自家細胞移植が主に注目されていましたが、患者さん以外の細胞を使う他家細胞移植のオプションも増えてきました。他家にシフトすることによって、より細胞治療が身近になるなど、位置付けが変わってくることは考えられるでしょうか。
細山:
そうしたことはあるかもしれません。私は自家、他家はどちらも必要であり、どちらかがなくなるということはないと考えています。他家が広がってくれば集約化(Centralized)という形が中心になってくるでしょう。
大川:
製造拠点の観点から集約化が進むということですか。
細山:
はい、エリアごとに大きな製造拠点を配置すれば、ある程度生産効率を高められます。
自家の場合は、より患者さんに距離的に近い場所で実施する。だから個別型(Decentralized)のアプローチが、親和性が高い。やはり自家での細胞治療は患者さんのそばでできるのが理想です。堅固な細胞培養加工施設(CPC)がなくても、密封性が保たれているところであれば病院の輸血部のCPCなどでデバイスを置いて実施できますから。ただ、治療の選択肢を広げる観点などからも集約化は必要と考えていますし、共存できると思っています。
大川:
これまでの方向性としては、なるべく集約化して効率化していくという発想があったかと思いますが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大をきっかけに“地産地消型”へとトレンドが変わりつつあるようにも受け止めています。この点については、いかがでしょうか。
細山:
今までは、日本の患者さん向けのCAR-Tは地産地消型でした。日本で採取して、日本で製造して、日本の患者さんに使うというスタイルです。一方で、病院で採取したサンプルを凍結させて、例えば米国の生産拠点に持っていき、そこで操作を施して日本に戻すというサイクルができてきています。ただ、凍結して融解したサンプルの効果への懸念もあり、地産地消に回帰した方がいいのではないかという声もかなり聞こえてきます。
技術が発達したとはいえ、凍結・融解というプロセスへの一定の抵抗感があるということは私自身も理解できますので、国内では地産地消という形に戻ると見ています。さらに潮流としては、凍結を回避するということにとどまらず、「人の体の中でCAR-Tを育てて治す」というアプローチも出始めています。
大川:
一方で、細胞が自家から他家へと広がることによって、これまでのロジスティクス面、輸送・保管における凍結の課題が軽減されうるとも考えられます。とすると、地産地消に対するモチベーションの低下も懸念されるかと思いますが、そうした可能性もあるでしょうか。
細山:
そうですね、やはり他家と自家は切り分けて考えなければならないと思っています。
大川:
他家は集約型で、自家に関しては各病院において個別型で作っていくといった考え方もあるということですね。
細胞製剤の特徴に合わせた製造拠点の置き方がありますが、個別型にした場合、一番の問題は標準化だと思います。そこで注目されるのが、自動細胞製造装置です。人の手から機械に置き換わることで品質が一定になったり、プロセスが標準化できたりするなど期待が高まります。新しい自動細胞製造装置が普及していくことによって、CDMO企業に求められる役割はどう変化していくか、イメージはありますでしょうか。
細山:
おっしゃるとおり、自動デバイスがあるからこそ、個別型の対応が実現できてくるはずです。機器間の差もなくなるし、施設間の差もなくなっていくので、標準化を実現できます。
集約化でスマートデバイスを使うことのメリットは、スペース効率が稼げることと、何よりもコストリダクションができること。これらは避けて通れない問題なので、集約化でこそスマートデバイスを使う方向になるでしょう。
大川:
CDMOの事業の広がりという意味では、例えば他家ができたらセルバンクが必要になるといった話や、いろいろな細胞種の治療が出てくるとそれに合わせた培地や成長因子が必要になってくるという話など、新しい可能性が生じてくると考えます。
細山:
それはあり得るでしょうね。私も面白いビジネスだと思っています。
ところで、他家では、例えばCAR-NK(T細胞ではなくNK細胞を使った細胞療法)が出てきています。すでにグローバルでは、他家のCAR(細胞療法)はあくまでエフェクターの機能、つまり、メインの治療があって、補助的な2発目のミサイルとして使うのが最も機能するのではないかといった話もよく出るようになっています。
臨床の現場ではCARの使い方についての認識もだいぶ変わってきていて、単剤で効く患者さんには効くけど、効かない患者さんも結構おられる。それなら単剤ではなく併用していけばいいのではないかという流れが出ています。例えば、まず化学療法でがんをたたいて、そのあとにCAR、そして移植、といったアプローチです。ようやくCAR-Tが認知されるようになり、患者さんごとに治療法を検討する方向に変わってきていると実感しています。
大川:
他家というオプションが生まれたことによって、治療計画への組み込み方のバリエーションが広がったり、他の治療と組み合わせたりという変化が起きていくということですね。
PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー 山﨑順也
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長 帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付 細山剛氏
細山:
現在はいろいろなCAR-Tが出てきていますし、それを選択して製造するということはできており、ニーズが広がってきています。それに伴い、これまでの「人海戦術のCDMOで細胞を製造する」というところから「効率的に製造する」という方向へとシフトし始めています。
ご存じのように、米国の会社が開発したCD19標的CAR-T療法治療薬は、すでにブロックバスター(年間の売上高が10億米ドル以上の製品)になりました。2022年のことで、CAR-Tで初めてです。これも1つの表れでしょう。
この製品がターゲットとしているのは、CD19というがん細胞の表面にあるタンパク質ですが、CD20やCD38、CD7など、対象が増えています。そういったものがどんどん横展開され、さらには組み合わせた縦展開で広がっていくと、それに応じたアプローチの仕方が出てきます。
山﨑:
用いる細胞の種類によっては、細胞治療の課題として品質のばらつきや製造上のコストの高さがよく挙げられますが、そういった課題についてはどのようにお考えでしょうか。
細山:
ご指摘のとおりです。患者さんの細胞はもともと弱っている状態であることも多く、そこに遺伝子を入れてお尻をたたいて増やすわけです。そうなると、中にはさらに弱ってしまい、“ヘロヘロ”の細胞もいるわけです。このような状態の細胞のままファイナル産物として治療に使っても「治療効果に貢献できない」という課題が今、臨床の現場で出ています。ある細胞治療薬の場合、奏効率のチャンピオンデータだと80%程度と伝えられていたものが、実際の臨床では、そこまでではなかったという例もあります。
こうした課題がある中で、CDMO企業として何ができるのか。例えば、製造プロセスの中で細胞の品質を正確にモニターし、その優劣を区別するのも対応策の1つです。もちろん、状態が悪い細胞をレスキューする手立てがあるのかを吟味することも必要です。CDMO企業にとっては、こうした具体策を検討し、より良い治療法に貢献できるチャンスだと認識しています。
大川:
ありがとうございます。ここまで細胞治療の広がりや、臨床現場での変化などについて議論を進めてきました。後編で、日系のCDMOプレイヤーとしての戦い方、進むべき方向について検討します。
※1 腫瘍関連抗原(TAA)を特異的に標的とする合成受容体を形質導入した患者自身のT細胞を再注入する治療方法
※2 この技術を開発したEmmanuelle Charpentier氏とJennifer Doudna氏は2020年にノーベル化学賞を受賞
山﨑 順也
シニアマネージャー, PwCアドバイザリー合同会社