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細胞治療が進展する中で、日系CDMO(医薬品開発製造受託)企業はどこに向かうのか。その未来を見据える対談の前編では、細胞治療の広がりや、臨床現場での変化などについて話を進めました。後編では、日系のCDMOプレイヤーに求められる戦い方、進むべき方向について帝人リジェネット社長補佐・事業開発グループ長の細山剛氏と、PwCアドバイザリー合同会社ディレクターの大川雄也、シニアマネージャーの山﨑順也が語り合います。
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長
帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付
細山 剛氏
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター
大川 雄也
PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー
山﨑 順也
(左から) 大川、細山氏、山﨑
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
大川:
前編では細胞治療の現状と今後の見通しについて細山さんにお聞きしてきました。次に細胞治療CDMO(医薬品開発製造受託)市場の今後と、その市場において日本のプレイヤーがとるべき戦い方などを中心に議論を進めていきます。
まず市場についてですが、基本となるのは「製薬会社が委託したいと思うか」というところになると考えます。過去には、製薬会社が医薬品製造(CMO)受託企業を買収したり、自社工場を建設して自社供給体制を拡大したりする動きがありました。一方で最近は、どんどん分業化を進めて自分たちのコア領域に投資をして、それ以外はアウトソースしようという流れもあります。そうした中で、この「細胞製剤の開発・製造を外部に委託する」というニーズについて、将来の見通しをどのように捉えていらっしゃいますか。
細山:
これから直面する問題ですね。今までお客さんはある程度限られており、CMOが多いのが現状でした。対象は、商用製造だと既に薬事承認された薬、治験薬だと製薬会社が開発中の薬になります。それを、CDMO企業が一斉に取りにいっています。なかなかタフなビジネスモデルです。
そこで大切になるのが、独自のシステムを開発することです。例えば、自社内で品質の高い薬を作れるとか、生産効率を上げるためのシステムがあるとか。これを他社にはないような形で構築できれば、製薬会社だけでなく、例えば同業他社にシステムを貸し出すというモデルもあり得ると考えています。
我々は、独自の製造プラットフォームを持っている米国のCDMO企業とパートナーシップを結んでおり、同社のプラットフォームで作った製品を日本で展開ことが可能となっています。マーケットインする時、海外のCDMO企業と同じプラットフォームを持っている会社が日本の受け皿になればテックトランスファーが容易ですよね。これは非常に大きなアドバンテージです。さらに、東南アジアだったり、中国だったり、欧州だったり、海外に向けてプラットフォームを切り売りしていくビジネスも、CDMOとして面白いビジネスになるのではないかと思っています。
山﨑:
いわゆるトラディショナルなBtoCといいますか、製薬会社向けのビジネスの事業も進めつつ、BtoB、つまり他のCDMOプレイヤーに対してプラットフォームの提供を行うという可能性もあるということですね。
細山:
そのとおりです。
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長 帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付 細山剛氏
細山:
今お話ししたのはCMOの部分ですが、医薬品開発受託(CDO)に関して、製薬会社はもちろんのこと、アカデミア、スタートアップの企業、CAR-Tの独自の技術を持つ会社などと一緒に研究開発をしていくというビジネスもありますね。
我々はCDOのビジネスも営んでいますが、国立がん研究センター東病院のパートナー企業であり、スタートアップやアカデミアのシーズを我々の方で受けて、同病院と連携して必要な臨床のデータを取ってPOC(開発中の薬の有用性が認められるエビデンス)を出すといったことも可能です。
また非常に強く感じるのは、海外の方々から見て、日本は少し特殊だということです。日本のマーケットは非常に魅力的ですが、一方でレギュレーションが諸外国と違って複雑で厳格な面があるので、医薬品医療機器総合機構(PMDA)や当局へ申請をして承認を得るハードルが高い。そして少なからず日本語での対応も求められる点が挙げられます。それらに対応しきれず、思うように参入を進められていない海外企業は少なくありません。
そこで、我々のような企業が病院との連携により正確なデータを取り、その正確なPOC(開発中の薬の有用性が認められるエビデンス)を用いて申請する。そうすれば承認の確度が上がりやすくなる。我々はこのような役割も果たすべきだと考えています。
山﨑:
細胞治療は、海外のバイオ企業や日本のスタートアップなど大企業由来ではないシーズがかなりの割合を占めています。臨床開発を進めるための人材やノウハウがなくて困っている会社も多いと認識しているので、今のお話は非常に共感するところです。
細山:
私も、この部分に興味を持たれる企業は多いと感じています。
私どものグループには製薬会社もありますし、再生医療等製品の製造販売会社もあります。後者ではこれまで5件、再生医療等製品の承認を得ており、最初に承認をとった製品は、再生医療等製品では国内で初めて承認を受けたものです(2007年に自家培養表皮で承認)。得意とする当局への申請対応など、海外向けの治験・臨床試験のコンサルテーションを今後も実施していきたいと考えています。
大川:
細胞製剤のCDMO事業をより成功に導くという点から考えた時、一般論として、小ロットで治験薬製造を多数受託するよりも、ある程度大型の商用生産を受注する方が利益につながります。日系CDMOプレイヤーも、最終的には商用生産まで広げることが欠かせないのか、あるいは、日系CDMOだからこそもう少しスモールスケールで、プロセス開発から治験薬製造でプラスαのコンサルテーションを行うなど、ある程度フォーカスして特化した戦い方があるのか、そのあたりはいかがでしょうか。
細山:
共通しているのは、多くの企業がCMOを取りたいということです。そのためには薬事承認が取れた薬を獲得するのが一番わかりやすく、各社しのぎを削っているところです。次のアプローチとしては、子どもを育てるように初期シーズの開発段階から伴走して育て上げてCMOにつなげるという具合に、全プロセスに伴走して導いていくというものでしょう。特に日本市場の場合は、これが多いケースのように思います。
大川:
D(Development:開発)からしっかり入り込んで、いずれはM(Manufacturing:製造)、さらに治験薬だけではなく、コマーシャルの部分まで機能として広げて、一貫体制でサービス提供できる形というのは、特に日本の製薬会社やバイオファーマから求められていますよね。
細山:
ワンストップという点でいうと、我々のグループには製薬会社と再生医療等製品を製造販売する会社があるので、お客様に届ける「販売」まで支援する可能性がある点です。
海外の製薬会社、特に遺伝子治療のお客さまと日本のCDMOについて話した時に、次のような意見を耳にしました。メガファーマの場合は日本にブランチオフィスがあるので販路を持っていますが、日本にまだブランチオフィスを構えていない企業にとっては、CDMO企業に製造だけでなく、その先まで受託してもらえたら良いサービスになるのではないかと。「CMO(製造)だけでなくCDO(開発)にも伴走し、最後に卒業した子たちを外に送り出す」ことができれば、大きな強みになり得ると思います。
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 大川雄也
帝人リジェネット株式会社 社長補佐 事業開発グループ長 帝人株式会社 コーポレート新事業本部 再生医療・埋込医療機器部門 部門長付 細山剛氏
大川:
細胞製剤のCDMO市場全体を見ると、幅広いモダリティ(治療手段)を取り扱っている大手のグローバルCDMOプレイヤーと、もう少し細胞製剤に特化している日系の中堅規模のCDMO企業に大きく分かれると思います。対象となる顧客についても、製薬会社の国や、最終的な販売エリアなどに違いがあります。
では日本のCDMO企業としては、どこまでがスコープに入るのでしょうか。先ほどのお話は日本市場に向けてのものでしたが、海外市場への供給に向けた委託需要を捉えていくという考え方はあるのでしょうか。あるいは、日本向けの委託需要をしっかり捉えていくことがメインとお考えでしょうか。
細山:
私も当社の社長(田中泰至氏)とよく議論しているのは、「日本からグローバルのCDMO企業としての展開が必要」だということです。日本市場のみを対象にしたビジネスでは、残念ながらペイできません。持続的に成長していくためには、欧米のメガファーマからの受託が肝になってきます。
大きなマーケットはやはり米国です。米国の企業との提携関係を利用して、取り扱っている製品を海外のマーケットに橋渡ししてもらうというのが1つ。あるいは、独自のCAR-Tのような細胞治療薬をグローバルに展開していくというのも1つの道です。
我々はアジア圏にも力を注いでいて、台湾にあるウイルスベクターのCDMO企業とも業務提携しています。CAR-Tは製造にウイルスベクターを使うので、製薬会社から受託する際に、細胞だけでなくそこで使うウイルスベクターも作れないかという要望を受けることも少なくありません。しかし残念ながら、日本ではウイルスベクターのCDMO企業はほぼ皆無という状況が続いています。国内でのこうしたニーズに対して、今までは、米国の企業を紹介することが多かったのですが、地理的にも非常に近いアジア圏でウイルスベクターを高い精度で作る会社があり、橋渡しを担うことができればより効率的です。
大川:
日系のプレイヤー間におけるポジショニングの違いやすみ分けは、今後どのように進むとお考えでしょうか。
細山:
オートメーション化が進むでしょう。スマートデバイスを利活用し、いかに人の手の介入を軽減していくか、というところが重要になるでしょう。今後は従来のCDMO、CMOの枠組みを超えて、さまざまな技術を持った企業との連携が各社で進んでいくと思われます。
また、日本のCDMO企業は特徴に乏しいと見られがちですが、決してそんなことはありません。多くの企業が独自の強みを有しています。今後は、各企業が互いの弱みを補い合うパートナーシップがいっそう活発化するものと予想しています。
一方、現在(2024年4月時点)の円安局面を逆手にとって、日本が世界の生産拠点となる可能性もゼロでありません。技術的には評価されているわけですから、安価で高品質の製品を生産する「世界の工場としての日本」との認知もアプローチの1つでしょう。
大川:
これまでCDMOはその名のとおり、D (Development: 開発) とM (Manufacturing: 製造) が中心でしたが、今後は、細胞治療そのものが進化していくからこそ、CDMO企業として担う役割も変わりながら広がっていくものだと強く実感しました。
細山:
培養液や試薬もそうですが、大切なのは「サービス」です。受託製造サービスだけではなくて、例えば、受託試験サービスを横展開で加えていく。だからこその「サービス会社」です。受託サービス会社が市場で存在感を増していけば、新たにカテゴリーとして認知されるでしょうし、私自身はそうした将来像を見据えています。
CDMOはあくまで入り口で、持続的に成長する過程で、ビジネスはどんどん変化していいし、ポートフォリオは拡大してもいい。数年後には、CDMO企業だった当初の姿とはまったく異なる業態で展開している可能性もあるわけです。我々も、帝人グループがもともと持っている繊維やポリマーの技術・事業などと融合させた、細胞に関わる新しいビジネスを生み出していきたいと思っています。
大川:
議論を通して、細胞治療とCDMOの未来が見えてきました。本日は、ありがとうございました。
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 大川雄也
山﨑 順也
シニアマネージャー, PwCアドバイザリー合同会社