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2024年4月から医師の時間外労働規制が始まることを受け、各医療機関では医師の働き方改革についての検討が進んでいます。国の調査結果によれば、特に効果がある医師の負担軽減策として、医師事務作業補助者の配置が挙げられています。しかしながら、多くの医療機関では、医師事務作業補助者の活用や処遇に課題があるのが実情です。本稿では医師事務作業補助者のさらなる活躍に向けて、特に大きな課題となっている公立病院に対してのPwCコンサルティングの支援事例を踏まえ、現状の問題点や改善に向けた取り組みについて考察します。
医師事務作業補助者とは、医師の指示で事務作業の補助を行う業務に従事する者で、医療機関によって「医療クラーク」「メディカルアシスタント(MA)」「ドクターズアシスタント(DA)」「臨床支援士」などと呼ばれており、主に診断書の作成や診療記録の代行入力など、医師の事務業務を分担する役割を担っています。2008年度の診療報酬改定で「医師事務作業補助体制加算」が新設されてから全国に普及し、その効果は医師の負担軽減策として上位に位置付けられています(図表1参照)。
また、診療報酬を経年で比較すると医師事務作業補助者の有用性と期待がよく分かります。国は医師の事務負担軽減を目的に診療報酬で医師事務作業補助者の活用を後押ししており、今後より一層、医師事務作業補助者の獲得競争が進むと考えられます(図表2参照)。
2024年に施行される医師の時間外労働規制に向けて働き方改革が推進される中、医師事務作業補助者の配置・活用は医師の負担軽減策の本丸とも位置付けられていると言えます。しかし同時に、非常勤採用を前提とした不安定な雇用やキャリアパスの未整備から採用や定着がままならないといった事象が顕在化しており、医師事務作業補助者の処遇に関する対応が喫緊の課題となっています。
医師事務作業補助者の役割は年々高まっていると言えますが、特に公立病院においてはその処遇に大きな課題があります。地方公営企業法の適用を受ける多くの公立病院では職員定数の問題や常勤化へのハードルが高く、「採用」「教育」「評価」の各プロセスにおいて、医師事務作業補助者の処遇に関する理想と現状の間に大きなギャップがあります(図表3参照)。
教育制度やキャリアパスが形成されていないことや、頑張っても頑張らなくても評価や給与がほぼ変わらないことからモチベーションの低下につながりやすく、中核として活躍してほしい経験ある優秀な人材の離職が続きやすい状態にあると言えます。その結果、病院を支える医師事務作業補助者が育ちにくいのです。
また、一度改善の機運が高まったとしても、それまで担当していた医事課職員がローテーションにより2~3年の頻度で配置が変わってしまうことが多く、新たに着任した担当者がそもそもの医事業務の習得に時間を要してしまいます。期間が経過することで、改善に向けた院内の熱量も低下、現場任せとなりがちになり、結局何も変わらないまま時間が過ぎていくというのも公立病院においてよくある課題として挙げられます。そのため、公立病院において、医師事務作業補助者のさらなる活躍を実現するには、ある程度短い期間で、かつ複数の部署にて集中して取り組む環境を作ることが極めて重要と言えます。
それでは、医師事務作業補助者の処遇に関する課題改善にはどのように取り組んで行けば良いのでしょうか。当社では見直しに向けたアプローチとして、以下のステップで進めていくのが良いと考えています。
医師事務作業補助者の処遇改善に着手するにあたっては、医師事務作業補助者の現在の処遇を正確に理解し、現状業務を整理する必要があります。一般的に、医師事務作業補助者は診療科医師の専属で業務を実施していることが多く、個人によって業務内容がさまざまであることが多いためです。
また、看護補助者などとの役割分担が曖昧となっていることが多く、現在実施している業務の可視化が出発点となります。現状把握のためには、医師事務作業補助者へのヒアリングを重ね、今現在どのような業務を実施し、それは他職種でも実施可能か否かを合わせて確認していくことが今後のステップを検討するうえで重要です。
次のステップでは、医師事務作業補助者の標準業務を明確化します。医師事務作業補助者は同じ職種であっても、蓋を開けてみると診療科や個々人によって、実施している業務の範囲には相当な幅があります。そもそも業務の範囲や難易度が定まっていなければ、個々のスキルやレベルを可視化できません。処遇を見直すためには、診療科問わず共通する作業と、特定の診療科固有の作業とに区分し、医療機関が医師事務作業補助者に期待する標準的な業務をある程度定め、個々の能力やパフォーマンスを段階的に評価していくことが必要になります。
現状分析の結果を踏まえ、業務の網羅性の観点から最も広範な業務を手掛けている医師事務作業補助者の業務を軸に検討すると、その後の取捨選択がしやすく、標準業務の明確化が進めやすくなります。この土台となる標準業務を前提に新たに加えるべき業務、そして医師事務作業補助者自身の業務負荷が過大とならないよう新たに減らすべき業務の双方を踏まえ、標準義務を明確化していくことが望ましいでしょう(図表4参照)。
標準業務の検討に際しては、医師の負担軽減という観点から新たに実施すべき業務がないか、医師へのインタビューやアンケートなどを通じて確認することが効果的です。同時に、医師事務作業補助者自身の視点で標準化すべきと考える業務を提案することも有用と言えるでしょう。当社の支援事例においては、医師事務作業補助者であれば皆が実施できるようにすべき業務として、「紹介状・返書の代行作成」「パスの入力」「類似診療科内でのローテーション」などが挙げられました。
なお、言わずもがなですが、医師事務作業補助者への期待が増加し、タスクシフト、タスクシェアが進んでいくことを見据えると、コンプライアンスの観点からは医師が対応すべき業務と、医師事務作業補助者として対応可能な業務をしっかりと区別するリスクマネジメントが非常に重要となります。医師が負うべきリスクと責任を医師事務作業補助者が負わないよう管理者が配慮することや、医師を教育することも非常に重要となってくると言えます。
処遇の見直しに際しては、個人のスキルを伸ばし、モチベーションを向上させるためのキャリアパスの設計が軸となりますが、まずは現行制度下で何をどこまで実施可能なのかを正確に理解する必要があります。特に公立病院においては、公務員制度の中での給与の見直し、勤務形態(非常勤勤務から常勤勤務など)の見直しに加え、これらを実行するためのハードルは何かなど、事前にキャリアパス設計後を見据えた前提条件に対する課題を洗い出し、対応可能な部分とそうでない部分を明確化しておくことが肝要になります。
また、厚生労働省が公開している医師事務作業補助者のキャリアパスモデルは自院で検討する際の参考となるでしょう*1。キャリアパスの設計に際して重要なのは「求める人材像に対してどのような行動規範を期待するのか」との考え方であると言えます。また、必ずしも1つのキャリアパスのみで運用するのではなく、複数のキャリアパスを示すなど、自院の医師事務作業補助者の環境に合った形で検討していくのが良いでしょう。この他、評価軸の設定や評価者を選定、他職種における制度設計、人件費への影響などを考慮しながら検討を重ねていくことになります。
実効性のあるキャリアパスを継続的に運用させるためには、教育体制の充実が鍵と言えます。「医師事務作業補助体制加算」の施設基準上は「入職後に業務を遂行する上での基礎的な知識を身に付けること」を主眼として、6カ月間のOJT研修と、医療関連法規や診療記録の管理・記載・代行入力方法などを学ぶ32時間以上の基礎研修が必要となります。しかし、キャリアパスと整合性を持った形で「入職後に継続してスキルアップすること」を支援するためには、教育体制の整備が重要となるでしょう。キャリアパスの設計と合わせた教育制度を充実させることは、個人のスキルを伸ばし、モチベーションを継続させるために必須の仕掛けと言えます。
「強い病院」というのは、往々にして医療職のみならず「事務」も強い病院と言えます。医療職の働き方改革を進めるうえでも、医師事務作業補助者には今後のますますの活躍が期待されています。本稿が医師事務作業補助者の処遇を見直し、さらなる活躍を推進するための一助となれば幸いです。
また、当社では、総合コンサルティングファームの強みを活かして人事系コンサルティングを専門とする部門と連携を図りながら、医療機関全体の組織人事・チェンジマネジメントに係る戦略の策定から、最新テクノロジーの導入、制度設計、各種施策の実行まで一貫して支援しています*2。医療機関における人事領域に関しても何かお困りごとがありましたらご連絡をいただければ幸甚です。
*1:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第503回)」個別事項(その8)について
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000863565.pdf
*2:PwCコンサルティングサービス紹介「組織人事・チェンジマネジメント」
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/people-change-management.html