これからの病院経営を考える

第21回 リフィル処方箋の現状とこれから

  • 2024-05-09

令和4年(2022年)度診療報酬改定により施行されたリフィル処方箋は、医師の処方および、医師と薬剤師の適切な連携の下、症状の安定している患者が一定期間内に処方箋を反復利用できる制度です。リフィル処方箋の活用により再診の効率化や医療費の削減が期待されますが、現時点では十分に活用されているとは言えない状況です。

令和6年(2024年)度の診療報酬改定において、かかりつけ医機能の評価である地域包括診療料等の要件にリフィル処方箋に関する対応と掲示が追加され、医療費抑制や医師の業務負荷軽減の効果が期待されるリフィル処方箋の活用推進には国として今後も力を入れていくことが分かりますが、リフィル処方箋の活用においては患者・医療機関がこの制度を十分に理解する必要があります。そこで本稿ではリフィル処方箋の現状と活用に向けた課題について解説します。

リフィル処方箋とは何か

リフィル処方箋とは、医師の処方と医師および薬剤師の適切な連携の下、症状が安定している患者が一定期間内に処方箋を上限3回まで反復利用できる制度です。対象となる医薬品は制度の定義上、明確なリストとしては存在していませんが、令和4年度診療報酬改定の通知では「保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)において、投与量に限度が定められている医薬品及び湿布薬については、リフィル処方箋による調剤を行うことはできない」*4と記載されており、投与量に限度が定められてる湿布薬や新薬、向精神薬、麻薬などは対象外となります。

また投薬期間については「医師が患者の病状等を踏まえて個別に医学的に適切と判断した期間」とされていますが、1回あたりの処方日数上限は90日までと定められているため、90日のリフィル処方箋を3回使用することで理論上は270日分となり、約1年に1回の医療機関受診とすることが可能となります(ただし、投与期間が30日以上となるため処方箋料は100分の40に減算)。現状、リフィル処方箋を利用する患者の3割程度が90日のリフィル処方箋を3回利用する形でリフィル処方箋を活用しており、受診頻度が少なくなるため、患者の症状変化を見過ごさないような医療機関と薬局間の情報共有や、薬局薬剤師による受診勧奨が重要となります*5

リフィル処方箋の導入背景と活用状況

そもそも、リフィル処方箋の制度はどのような経緯で設立されたのでしょうか。2010年に厚生労働省は「チーム医療の推進に関する検討会」の中で、薬剤師の業務範囲・役割の拡大として繰り返し使用可能な処方箋(リフィル処方箋)の導入検討が必要である旨について言及しました*1。その後2022年に、症状が安定している患者が処方箋を一定期間内に反復利用することによる再診の効率化を目的として、リフィル処方箋は診療報酬に組み込まれました。全国的な高齢化に伴う慢性疾患の増加などの影響により、31日以上の処方割合が経年で増加していることから、リフィル処方箋の対象(症状が安定している慢性疾患を有する患者等)は年々増加していると考えられます。

しかし、厚生労働省の2023年度調査によるとリフィル処方箋の発行実績がある医療機関は約4割でした。2022年度調査と比較して発行実績は増加しているものの、半分以上の医療機関でリフィル処方箋は依然活用されていない状況です。リフィル処方箋を医療機関が発行した主な理由としては「症状が安定していたから」「患者からの希望があったから」であり、制度の目的に沿った利用がされています。また、リフィル処方箋を医療機関が発行しなかった主な理由としては「患者からの求めがないから」「長期処方で対応が可能だったから」の2つが挙げられており、患者と医療機関の認知向上が必要であることが分かります*3

リフィル処方箋活用のメリットとデメリット

リフィル処方箋の活用には患者と医療機関それぞれにメリットとデメリットが存在します。

患者側のメリットとしては、受診回数の減少による身体的な負担軽減や医療費の抑制、受診による感染リスクの軽減が挙げられます。また、医療機関側のメリットとしては収支改善と医師の負担軽減、医療機関と薬局の連携強化があります。コラム「少子高齢化が地域の基幹病院に与える影響と打ち手」で述べたとおり、地方の基幹病院では周辺診療所の減少などにより外来業務が逼迫しており、医師の病棟業務に影響を及ぼしています。地域の基幹となる急性期病院では、外来患者に占める単価2,000円未満の患者が全体の約3割程度を占めているものの、外来収益に占める割合は5%未満にとどまるような例も往々にして存在します。

厚生労働省の調査ではリフィル処方の活用有無で外来患者数を比較すると、既に活用している病院は約2倍の外来患者が受診していることが判明しており、外来患者の多い病院でのリフィル処方の需要が高いことが分かります*3。対象の患者にリフィル処方箋を発行し、外来診療に費やしていた時間を入院患者の診察や手術などに配分することで、収支改善だけでなく医師の働き方改革の面でメリットがあると考えます。

しかし、リフィル処方箋を行う上では「患者の症状の変化にどのように気付くか」という点を十分に考慮しなければいけません。リフィル処方箋の利用にあたっては、病状の悪化が見過ごされるリスクや、医師と患者の関係性が希薄化するリスクなどが存在します。リフィル処方箋の活用に消極的な医療機関の約半数が「医師が患者の症状の変化に気付きにくくなるから」「薬を処方する際には医師の判断が毎回必須と考えるから」との理由を挙げている調査結果もあるように、医療機関だけでなく薬局も含めたフォローアップが必要であり、リフィル処方箋を活用する際の1つのハードルとなっています*3

リフィル処方箋のさらなる活用に向けて

前述したように、リフィル処方箋の対象は増加傾向にありますが、現場では普及が進んでいません。2024年4月のデジタル行財政改革課題発掘対話(第8回)では、リフィル処方箋の処方箋料の算定回数は処方箋料全体の0.05%(2023年11月時点)と低く、リフィル処方という言葉自体が全く認知されていないことを課題認識している旨の指摘がされています*6。既にリフィル処方箋と類似する制度が存在している英国、フランス、オーストラリアなどの諸外国では、医療機関に受診する際の医療費が日本より高いなど、各国の医療制度がリフィル処方箋の普及を促進した一因であると理解しています。日本の医療制度は他国と異なるため、制度を導入するだけでは普及には足りず、まずはリフィル処方箋を患者・医療機関ともに理解することが普及に向けての第一歩と考えます。

メリットとして記載したとおり、リフィル処方箋の活用は患者の身体的・金銭的負担を軽減させ、医療機関の収支改善や働き方改革を推進する1つの手段です。医療機関でリフィル処方箋の活用を進めるにあたっては、具体的に「外来患者構成の把握」「薬局との情報連携強化」「患者への認知度向上」に3つの観点が重要になります。

①外来患者構成の把握

自院の外来患者の単価構成を把握することで、リフィル処方箋活用によるインパクトがどの程度存在するのかを理解することが重要です。対象者について明確なリストは存在しないですが、厚生労働省が開示している主傷病名別のリフィル処方箋の発行回数に関するデータによると、糖尿病や高血圧性疾患、アレルギー性鼻炎、脂質異常症などの疾患に対してリフィル処方箋を発行している実績があるため、公的データと自院データ、医学的所見を組合わせて対象患者を絞り込むことが可能です*3。外来業務の負荷を軽減したいと考えている医療機関は、どの診療科のどの患者であればリフィル処方箋を利用可能なのかを事前に確認することが、活用に向けた第一歩となります。

②薬局との情報連携強化

薬局との情報連携は特に重要です。診療間隔が空くことにより病状の悪化を見過ごすことがないよう、薬局との連携強化は必須になります。具体的には服薬情報提供書(トレーシングレポート)による薬局からの情報提供や、2023年12月にリフィル処方箋対応となった電子処方箋の活用による迅速な情報共有など、患者の病状に変化があった場合には速やかに対処できるような準備が重要です。

③患者の認知度向上

厚生労働省の2023年度調査において、リフィル処方箋の制度の内容まで知っている人の割合は約3割と、リフィル処方箋の認知度は低いのが現状です。また、リフィル処方箋が交付されなかった人のうち約5割が「制度を知らなかったこと」を理由に挙げています*3。まずは医療機関側でどの患者が対象となるのかを事前に把握し、対象の医薬品を使用する際には患者側からも希望が出せるよう、医師から丁寧な説明を行い、患者の認知度を向上させることが重要です。

本稿では、リフィル処方箋のメリット・デメリットや、活用に向けた課題を検討しました。リフィル処方箋を活用するうえでの懸念事項は存在しますが、患者・医療機関ともにメリットがあることも事実です。リフィル処方箋を効果的に活用することで、提供する医療の質を維持しつつ、病院経営や医療職の働き方を改善することができる考えています。

本稿が、医療機関におけるリフィル処方の活用を検討する際の一助になれば幸いです。

執筆者

増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小田原 正和

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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髙山 柾

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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