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2024年4月に医師の時間外労働の上限規制(医師の働き方改革)が施行されました。施工前から病院の働き方改革には注目が集まっています。ただし、一般的な病院の医業利益率はマイナスに転じており*1、新たな人員を雇用する余力に乏しい病院の方が多いのが実情です。そもそも生産年齢人口の減少に伴い、募集しても人が集まらない地域も増えてきています。これまでと同じようなやり方で業務を続けている病院が今後生き残っていくことは容易ではなく、全国的にも病院の現場における業務改善の機運がより一層高まっています。
「これからの病院経営を考える」第7回「改革が進む病院に見られる人材・組織の共通点」では、改革が進む病院の共通点や事務部門と医療職の連携の重要性について述べました。本稿では、「現場レベル」に焦点を当て、PwCコンサルティングが支援してきた複数の病院の事例をもとに、現場で業務改善が進む病院の特徴を考察します。
冒頭にて言及したように昨今の医療環境の変化は、医療現場における業務改善の必要性を高めています。業務効率化の余地が明確となっており、具体的な改善案が存在するものの、思うように進まない場合、何が起こっているのでしょうか。業務改善の着手前後で整理すると、以下のようなケースが共通して多いと言えます。
特に医療安全という側面が重要視される病院においては、より一層「何かあったらどうするのか」という問いに対しては反論しづらく、効率性を追求可能な余地が多いにもかかわらず(皆が理解しているにもかかわらず)、業務改善の優先度が劣後してしまい、結果的に現場が疲弊するという状態を多く目にします。そうなると、業務改善は一向に進まず、マネジメントに対する「人員増」という形での改善要望につながり、不協和音を生みやすくなるだけでなく、病院経営的にも厳しくなってくるという負のスパイラルに陥る可能性が高いと言えるでしょう。
一方で、業務改善が進む病院の特徴はどのようなものがあるのでしょうか。こちらも業務改善の着手前後で整理すると、以下のような特徴が共通して見られます。
業務改善が進む病院は、上記のような事例が見られますが、そういった病院は現場リーダー(例:病棟師長や主任クラス)のリーダーシップや職員の業務改善意識が根付いており、成功体験が次の成功を生むような好循環が生まれています。業務改善の機運が高い病院は、同様に経営面での改善意識も高い病院が多く、相互にポジティブな影響がみられます。次節以降では、PwCコンサルティングが支援してきた事例をもとに、広く参考になると思われる重要な考え方や進め方について考察してみます。
業務改善に着手する場合、「改善により浮いた時間を何に活用するのか」という点がよく議論されます。多くの病院では、より多くの患者さんを診るための時間を創出する、記録などの間接業務ではなく患者さんを直接ケアする時間に充てる、チーム医療を推進し新たな診療報酬上の加算を狙う、教育研修の時間に充てるといった時間の使い方が挙げられることが多いと言えるでしょう。ただ、改善したとしても業務負担の総量が変わらないことが分かっている中では、現場において取り組みのスイッチが入りにくいと言えます。医療者自身のwell-beingの実現が重視される昨今「まずは自分たちを楽にする」ことを現場における第一の目的として、業務改善に着手するのも有用なのではないでしょうか。実際に、PwCコンサルティングが支援している病院の中にも、そのような考えで病棟看護業務の改善を進めている病院があり、現場の業務改善に対するモチベーション向上や業務改善意識の醸成、さらなる業務改善活動につながっています。
前述したように病院では医療安全の観点からの検討が不可欠です。ただし、健全な病院経営なくしては医療そのものが提供できなくなることも忘れてはいけません。「何かあったらどうするのか」という考え方に囚われすぎると、何重にもチェックする、必要以上に記録に残すという事態を招きかねません。効率化余地を病院全体の年間削減可能時間に換算すると、病院によっては数万時間に上ることも珍しくありません。事業環境の大きな変化が生じているにもかかわらず「何かあったらどうするのか」を理由に、現状のやり方を踏襲し続けることで、思考停止に陥ってはいないでしょうか。限られた資源の中で、リスクに応じた対応をきちんと「思考する」ことが大切だと考えます。私たちの経験上、業務改善が進んでいる病院では、不思議と「何かあったらどうするのか」というワードは聞いたことがありません。
心理学や行動経済学の分野において、ヒトは新しい取り組みにはストレスを感じるものであり、元に戻ろうとする力が強く働くと言われています(現状維持バイアス)。現場リーダーの動き方として、業務改善の着手前から現場を巻き込み、着手後も適切なタイミングで現場に状況を確認し、進捗や問題点を確認するという行動は理にかなっていると言えるでしょう。実際に「病棟をまわる都度、現場に状況を確認することで現場担当者にも改善意識が芽生えてくる」「上手くいっていないのであれば、なぜ上手くいっていないのかを確認する」「状況に応じてやり方を変えることを提案してみる」「新たな取り組みも現場に合わないと判断したら無理に継続させない」といった声を耳にすることが多く、継続的な改善には、着手後のフォローやそのタイミングなどにも気を配ることが重要と言えます。
本稿では、「現場レベル」での改善活動に焦点を当て、業務改善が「進む」病院の考え方などを考察しましたが、現場担当者がリーダーに対して率直に意見を伝えられる環境、いわゆる風通しの良い組織風土とは表裏一体と言えます。こういった組織風土は現場リーダーが率先して醸成していくものであり、現場リーダーにはその責務があると考えます。現場リーダーの育成は一朝一夕には難しいからこそ、業務改善を短期的な成果を求めるものとしてだけ捉えるのではなく、中長期的なリーダー人材を発掘するという人材育成の観点を有しながら取り組むこともまた、重要と言えるでしょう。
本稿が、病院における現場の業務改善を進めるうえでの一助となれば幸いです。
*1:福祉医療機構「2022年度 病院の経営状況について」
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240308_No.014.pdf