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半導体産業の未来展望-市場動向と日本の針路-
PwCコンサルティングの半導体領域のプロフェッショナルが、日本の半導体企業が取るべき針路と、その持続的成長をサポートするコンサルティングファームの役割について意見を交わしました。
PwC Japanグループ サステナビリティCoEのパートナー 中島崇文とPwC Intelligenceのマネージャー 相川高信が、2024年のCOP29などの内容をまじえ、サーキュラーエコノミーをめぐる最新の世界動向を紹介します。
気候変動に向き合う経営課題として、Scope3に基づくサプライチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出削減の重要度が高まっています。その対応の鍵となる経済モデルが、サーキュラーエコノミーです。国際社会では今、「サーキュラーエコノミーをどう定義するか」の共通認識の確定と関連プロトコルの策定が進み、循環型経済の実現を加速させる方法論「システミックアプローチ」も注目されています。そこで今回は、PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス(サステナビリティCoE)のパートナー 中島崇文と、PwCコンサルティング PwC Intelligenceのマネージャー 相川高信が、「Climate Week NYC」(2024年9月)と「国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)」(同11月)への参加報告をまじえ、サーキュラーエコノミーをめぐる最新の世界動向を紹介します。
(左から)相川 高信、中島 崇文
参加者
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence マネージャー
相川高信
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス パートナー
中島崇文
相川:
アゼルバイジャンで開かれたCOP29で印象的だったのは、ネイチャー分野に関する話題が以前よりも増えたことです。COPではこれまで、化石燃料由来のCO₂排出削減がエネルギー分野の主課題として議論されてきました。しかし化石燃料からの脱却に加えて、エネルギー利用の効率化や森林減少の抑制など、あらゆる策を統合的に組み合わせなければ気候変動には対応できません。サーキュラーエコノミーはその重要なピースの1つです。
データが事実を示しています。「国連気候変動サミット2019」(2019年9月)に合わせて発表されたレポートによると、再生可能エネルギーとエネルギー利用効率化は、排出されるGHG全体のうち55%に対する取り組みにすぎず、残りの45%は製品の製造・消費・土地利用の変化などに関わる排出だとされます。そしてこの残り45%の部分を、サーキュラーエコノミーに取り組むことでほぼ半減できると試算しているのです。
中島さんはサステナビリティ分野のエキスパートとしてClimate Week NYC*1に参加されました。現地での見聞も踏まえて、まずはサーキュラーエコノミーとは何か、をめぐる最新の議論を紹介してもらえますでしょうか。本来、極めて広範な概念ですが、国際社会はどのような定義を目指して動いているのでしょう。
中島:
サーキュラーエコノミーにはこれまで、明確な定義がありませんでした。そのため誰が何をどう推進するべきかの議論が噛み合わず、取り組みが進展しにくかったのです。そこで目下、国際的な共通認識としての定義の確定が急がれています。
世界の主要企業が参加する「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」では、サーキュラーエコノミーを「資源の利用を最適化して消費を最少に抑えること。それによって、気候変動・環境汚染・水資源の枯渇・生物多様性の喪失といった多様な環境問題を、経済成長とデカップリングすること」という方向で定義付けしようとしています。ポイントは資源に焦点を当てている点です。資源の種類は、バイオマス、化石、鉄・銅・アルミニウムなどの金属、非金属のミネラルに大別されます。これらは、採掘・生成や、消費・廃棄に伴い、CO₂排出や水質汚染などのさまざまな環境負荷を生じます。そこで、資源消費を環境問題の根本原因ととらえ、資源をなるべく消費せずに経済活動とウェルビーイングの両立を継続させようという考え方です。
なおPwCでは、サーキュラーエコノミーを「自然界からの採取と拡散を最小化し、物質を循環させることで、サステナビリティ課題の解決と経済の両立をはかるもの」と定義しています。環境問題の根源となる採取と拡散を極小化するため、経済活動を循環構造に変えていくことがサーキュラーエコノミーである、という整理です。
*1:気候変動対策を考究する最大級の国際イベント。国際機関や各国の公共部門に加えてビジネス部門も議論に参加し、2009年から開催されている。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス パートナー 中島崇文
相川:
企業の具体的な行動規範になる指針の1つが、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言です。この提言では、気候変動が事業に及ぼす財務上の影響に焦点が当てられ、気候変動に伴うリスク、その対策、戦略計画などを企業が検討・開示する枠組みが示されています。2022年には東証プライム市場上場企業がTCFD提言に沿った開示を求められることになり、投資判断の際の重要な情報と見なされています。
また、自然資本と生物多様性に関するリスクや対応などを評価・開示するための国際イニシアチブ「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が提唱する枠組みも、重要な経営指標です。さらに、企業がGHGの排出量を算定・報告する際の国際的な基準に「GHGプロトコル*2」があります。GHGプロトコルでは、自社の工場やオフィスが排出するCO₂のみならず、原料調達から物流・販売・消費・廃棄まで全てのサプライチェーンを通じたCO₂排出量の削減指標、すなわちScope3に基づく削減が求められます。こうした評価・開示の枠組みの構築やルールづくりが、現在、サーキュラーエコノミーについても進められています。
中島:
WBCSDと国連環境計画(UNEP)がリードする「グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)」ですね。金融市場・投資市場に働きかけ得る企業行動開示のガイドラインを整え、循環ビジネスモデルの確立と運用をグローバルな規模で加速させることがその目的です。
GCPの策定には、大きく4つのワークストリームが含まれます。
1つ目は、Circular Transition Impact Analysis。気候変動や生物多様性に対し、サーキュラーエコノミーが及ぼすインパクトを分析的にシミュレーションして、プロトコル策定の意義、サーキュラーエコノミー推進の意義を明らかにするものです。2つ目は、Corporate Performance and Accountability System(CPAS)for Circularity。資源消費を減らすため、計測の仕組みをデザインし、それが企業のパフォーマンスにどう影響するかも関連付けて説明するためのフレームワークをつくろうという動きです。これはTCFDやTNFDのような評価・開示の枠組みに通じる部分です。3つ目は、Policy Framework for Circularity。税制・法制・各種規制など、政府が実施する関連政策の基礎となる部分です。4つ目は、Science-informed targets for circularity。科学に基づくサーキュラーエコノミーの目標を設定します。
相川:
TCFD・TNFDへの対応と同様、企業は近い将来、サーキュラーエコノミーに向けた自社の取り組みを評価し、開示することを迫られることにもなりますね。
中島:
GCPは、2025年に開催されるClimate Week NYCで策定の進捗が共有され、次いでブラジルで開かれるCOP30で発表される予定です。今後の動向を引き続き注視していく必要があるでしょう。
*2:企業が排出するGHGの量を算定するための国際基準
相川:
サーキュラーエコノミーの考え方は、GHGのみならず気候変動や天然資源の問題とも密接に関わるだけに、企業は複雑な対応を求められますね。
中島:
まさに、気候・自然資本・サーキュラーエコノミーの3分野を統合した取り組みがすでに始まっています。一例が、Science Based Targets(SBT)*3が2022年に公開したFLAG(森林・土地・農業)セクターのガイダンスです。SBTが算定するGHG排出量にはそれまで、FLAGの分野が考慮されていませんでした。それが現在ではFLAGを含む排出量で算定されるため、SBT認定を目指す企業には、自然資本との関わり方を考慮した企業活動が求められるのです。私が所属するサステナビリティCoEがクライアントのSBT認定取得を支援するケースでも、気候変動と自然資本の両チームを組み合わせたクロスファンクショナルなチームを組成し、サポートしています。
また、欧州(EU)で2023年1月に発効した法規制「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」の開示項目は、気候変動・生物多様性・サーキュラーエコノミー・従業員・顧客・事業活動など、多岐にわたります。さらにEUでは、人権・環境リスクを洗い出すデューディリジェンスを企業に求める「コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」案も検討されており、ESGの全てに対して開示が求められる流れが強まっています。
このように複雑化・多様化する諸課題に対応するコストや工数を考えると、経済合理性の観点からも、サプライチェーン全体で統合的に対応する必要が今後はいっそう高まることでしょう。
*3:GHGの排出削減に関し、パリ協定で合意された目標の達成を目指す国際的イニシアチブ。事務局は、一定水準の削減目標を策定した企業を、申請に基づき審査し、認定する
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence マネージャー 相川高信
相川:
気候変動に対する一部の企業の取り組みについて、形式が先行して実効性がおろそかになっていると厳しい目が向けられることもあります。企業の取り組みを最前線で支援する中島さんの目に、実態はどう映っていますか。
中島:
熱心な企業とそうでない企業とに分極化しており、日本ではその傾向が特に顕著です。積極的な企業は業界最高水準の目標を立てたうえで、実績(達成数値)にこだわります。他方、消極的な企業は策定する目標の水準が低く、達成率も低いままです。では両者を分かつのは、いったい何なのか。それが、企業に通底する「経営思想」です。
積極的な企業は、リスクテイクして競争上のリーディングポジションを取ろうとする。また、経営トップが持続可能性への高い意識をもともとお持ちで、サステナビリティ対応が現在のように一般化する前から率先して取り組んできた企業も少なくない。そんな特徴が見られます。
対して、目先のコストと投資効果を天秤にかけて経営判断する企業もまた、少なくはありません。例えば「炭素税などと比べてペイするのならば投資する」といった考えですね。ただしその結果、エネルギー調達コストの節減や当面の省エネといった個別最適は得られても、抜本的な解決につながる全体最適には至らない状況が生まれます。これはサーキュラーエコノミーが直面する課題でもあります。
相川:
そうした個別最適の実態から抜け出して全体最適へと脱皮し、サーキュラーエコノミーを環境問題の本質的な解決に迫る仕組みに変えていくには、何が必要でしょうか。
中島:
サーキュラーエコノミーの実装状況は一様ではありません。再生アルミや建築用電炉鉄のように、すでに社会に定着しQCD(品質・コスト・納期)が確立されている事例もあります。また、範囲限定のサーキュラーエコノミーを企業が構築している例もあります。例えば、コーヒーマシンのプラスチック製カップを使用後に回収し、リサイクルしてボールペンに再生、ブランディングに利用するといった、コーヒーマシンメーカー、コーヒーメーカー、プラスチックリサイクラーの3者だけで実現できる、小さく閉じたサーキュラーエコノミーです。先行する好事例はヒントにはなりますが、サーキュラーエコノミーで社会課題を解決するには、QCDが未確立の領域にまで循環の範囲を広げること、全てのステークホルダーを含むサプライチェーン全体が関与する大きな循環の輪を築くことが不可欠です。
そこで重要になるのが「システミックな変革」「システミックアプローチ」という考え方です。大掴みに言うと、多種多様なステークホルダーたちを1つのエコシステムに取り込んだうえで、ビジネス全体を再構築するための方法論です。
システミックアプローチではまず、ビジネスのバリューチェーン全体を1つのシステムとして解析します。そのうえで、①バリューチェーンの組み直し(再定義)、②イノベーションへの先行投資(変革を促す具体策)、③マネタイズに向けたビジネスモデル化(産業をまたぐ投資回収)、④スケール化(波及効果)の4要素を変革の要諦として重視します。これらに関わる企業活動やプロジェクトを通してシステム全体の変革を加速し、サーキュラーエコノミーの経済的な合理性を高めよう、という手法です。
システミックアプローチはClimate Week NYCの会期中にもしばしば耳にしたキーワードでした。日本のサーキュラーエコノミーにとっても、今後、重要な概念になっていくでしょう。
相川:
システミックアプローチでサーキュラーエコノミーの構築が進み、中堅・中小企業まで含むバリューチェーンの全企業がその輪に加わるようになれば、必然的にScope3のGHG削減につながりますね。ただその一方で、サーキュラーエコノミーがエンドユーザーの負担増につながることを懸念する向きもあります。この点についてはどう考えますか。
中島:
まずインフラを整えて消費者を説得することです。例えば、日本では容器包装リサイクル法の施行・改正*4を機に静脈物流がインフラとして確立され、消費者はゴミ廃棄の際の行動変容を迫られました。分別回収の徹底はかなりの負担増ではありましたが、消費者はインフラ整備の進展に伴ってその趣旨に納得し、受け入れました。
教育もまた、行動変容や意識変革の前提として大切な要素です。サステナビリティ教育で育った今の若い世代には、環境・社会にとって良い行動を選ぶことを負担と思わない人が多いと感じます。
相川:
ペットボトルの回収にポイントを付与するなどのソーシャルイノベーションにも期待したいですね。最後にまとめとして、PwCがサステナビリティにどう貢献できるか、Climate Week NYCの印象を踏まえてお願いします。
中島:
Climate Week NYCの議論に滲んでいたのは、難しさを痛感しているといった後ろ向きの姿勢ではなく、困難を克服するには世界をどう変えるべきかという前進への情熱でした。
たしかに、サーキュラーエコノミーは儲けにならないと考える人はいます。とはいえ、議論のなかではマネタイズと両立させている好事例も複数示されていました。PwC JapanグループのサステナビリティCoEとしては、建設的な議論をリードし、企業の取り組みを後押しすること、現地の事情に通じたPwCグローバルネットワークとも連携しながら、評価と開示、ルール策定をサポートすることに努め、オーガナイザーとしての役割を果たしていく考えです。
相川:
同様の熱量の高さは、COP29の会場でも感じました。PwC Intelligenceが擁する多分野のスペシャリストの知見を結集した統合知を武器に、環境社会問題の解決に寄与していこうとの思いを改めて強くしました。
*4:1995年制定。1997年一部施行、2000年完全施行。2006年改正、2007年改正法施行
PwCコンサルティングの半導体領域のプロフェッショナルが、日本の半導体企業が取るべき針路と、その持続的成長をサポートするコンサルティングファームの役割について意見を交わしました。
PwC Japanグループ サステナビリティCoEのパートナー 中島崇文とPwC Intelligenceのマネージャー 相川高信が、2024年のCOP29などの内容をまじえ、サーキュラーエコノミーをめぐる最新の世界動向を紹介します。
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