深化するSX 第2回:サーキュラーエコノミーを加速させるシステミックトランスフォーメーション

  • 2024-09-17

連載コラム「深化するSX」の第1回「Scope3およびサーキュラーエコノミーへの挑戦」では、Scope3削減の実現に向けて、広域なサーキュラーエコノミーの実装が重要であることをお伝えしました。第2回「サーキュラーエコノミーを加速させるシステミックトランスフォーメーション」では、サーキュラーエコノミーを加速させる方法として、システミックトランスフォーメーションという考え方を解説します。

深化するSX―サーキュラーエコノミーを加速させるシステミックトランスフォーメーション―

皆さんは、「システミック投資」という言葉はご存じでしょうか。2024年のダボス会議でも話題になったキーワードで、PwCも注目している概念です。これまでも、財務リターンと環境社会課題解決を目指すものとしてインパクト投資がありましたが、これらは個社や個別のプロジェクトに対する分散投資を行うものでした。一方、本連載の第1回でも述べたように、環境社会課題を抜本的に解決するには、個社ではなく複数企業の協調的な動きが不可欠です。そのため、環境社会課題に関わるバリューチェーン全体を投資対象として捉えるシステミック投資という考え方が生まれるに至りました。

システミック投資では、まずバリューチェーンの構造と変革のメカニズムを「システム」として解明し、その中で1.具体的な打ち手としてのイノベーション2.サプライチェーンの組み直し3.マネタイズに向けたビジネスモデル4.スケール化の4つの要諦に合致する企業やプロジェクトを「変革の要所」として特定し、投資や開発活動を通じて変革を促します。その結果、システム全体の変革が促され、投資対象の経済合理化も進む、というものです。

経済合理化に向けたシステミックアプローチは2つ考えられます。1つは「空間的な広がり」を持つということです。システムを環境・社会課題起点で捉え、バリューチェーンを再定義し、新しい要素を加え、組み合わせることで、集合体として採算を得るというものです。もう1つは「段階的な広がり」を持つということです。市場萌芽期においては需要と供給のバランスが合わず、先行投資の回収が困難な局面があります。このような時、需要形成しやすい用途から段階を追って投資して、リスクマネーを動かすことで回収期間を調整するなど、適切な順番と時間を最適化することで動かします。

比較的わかりやすい例として、モビリティ業界のScope3およびサーキュラーエコノミーのシステムを簡素に描くと図表3のようになります。ポイントはScope3なので、素材、部品加工、完成品、利用、廃棄リサイクルを跨ぐサプライチェーン全体をシステムの外枠としていることと、それら各々のネットゼロを実現できる施策とマネタイズし得るビジネス要素を盛り込むことです。その理解をより深めるため、本稿では既に存在しているEVビジネスを例に解説します。

EVは、供給電力が再エネ化されることで、製品使用時のCO2排出量、すなわちカテゴリー11のネットゼロが可能となります。一方、日本では現時点において採算性などの問題で再エネの普及は限定的であり、また電池コストや充電インフラなど、消費者にとっての利便性という課題も抱えています。

そこで、空間的な広がりを持ち、EVの製造販売だけでなく、充電サービスや運輸サービス、さらには再エネ事業と組み合わせることで、協調投資による需要形成の加速と、採算性を高める相乗効果の創出が可能となります。海外では既に先行事例も存在しており、Scope3の削減も大きく進みます。

一方、再エネの普及にあたっては、系統電力の不安定性という別の問題があり、電池コストが高いという問題も未解決です。そこで、ビークル2グリッド、ビークル2ホームという形でEV電池を使って系統電力の平準化に貢献することで、使用済み電池を電力インフラ用途で再利用するビジネスと組み合わせることが考えられます。

その結果、モビリティとエネルギーの産業を跨いだ投資促進により諸課題が解決に向かい、EVの普及促進が期待できます。また消費者にとっても家庭用予備電源という新しい価値を生み、電池のリユースやリサイクルビジネスを生むことができます。

このように、システミックな考え方は、多様で広域的なサーキュラーエコノミーを生むための4つの要諦に対し、協調的に働きかける有効な手立てと言えます。システム視点でバリューチェーンを再定義し、鍵となる設備や技術に先行投資して需給バランスを動かす。そして産業を跨ぐマネタイズモデルを築き、その成功実績をもって後続企業を生むことで結果としてスケールさせ、環境社会課題を抜本的に解決する。私たちはこれをシステミックトランスフォーメーションと呼び、推進していきたいと考えています。

とはいえ、言うは易しで実行するには相応の力量が必要となります。第3回のコラムでは、システミックトランスフォーメーションを実行するために必要な企業変革について解説します。

執筆者

中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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上田 航大

シニアマネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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篠塚 嶺

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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井上 マリア

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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