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2022-03-29
前回はメタバースの定義について整理し、メタバースを活用したプラットフォームビジネスを構築できた企業が巨大なビジネスチャンスを得られる可能性があることを紹介しました。今回は、企業がメタバースを活用する概況や、メタバースへの参入を検討する企業が検討すべきトピックについて考えます。
Oculus VRを所有するFacebook(現・Meta)は2021年、Ray-Banと提携したスマートグラスの新製品を発売し、自らがメタバース企業へと変革する計画を明らかにしました。その第一歩として、リモートワーカー向けのVRワークスペースを立ち上げることを発表しました。
彼らだけではありません。Microsoftは企業向けメタバースの開発に取り組んでいます。Fortniteを所有するEpic GamesやNVIDIAなどは、いずれも戦略をはっきりと打ち出してはいないにせよ、メタバースに大いに関心を寄せています。他にも「あつまれ動物の森」「Horizon Worlds」「Decentraland」など、テクノロジー企業やエンターテインメント企業がメタバース空間をすでに稼働させ、そこにはさまざまな業界の企業が参入しています。
日本においても建設会社によってビルのバーチャルツアーが企画されたり、メタバース空間において音楽イベントの開催やアパレルブランド、百貨店の出店が相次いだりと、メタバース活用は加速度的に進んでおり、この勢いはしばらく継続することが予想されます。メタバースがビジネスとして本格化すれば、生み出される潜在的価値は数兆米ドルに上るという推計も存在します。
今回は企業がメタバースに注目する背景と、今後ビジネス活用を進めるにあたって想定される論点を紹介します。
企業はなぜこれほどまでにメタバース活用を進めるようになったのでしょうか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による物理的な制約がオンラインでのコミュニケーションを促進したこと、5Gや安価なヘッドセットの登場などによりバーチャル空間をスムーズかつ気軽に利用できるようになったこと、空間設計の自由度が高まったこと、デジタル権利の管理技術(NFT)が発達したこと、国家と切り離された通貨(仮想通貨)の利用が拡大したこと……。私たちの行動様式の変化とテクノロジーの目覚ましい発達が、企業のメタバース活用を推し進めていると考えられます。
その中でも特にNFTは、デジタルデータの価値を担保し得るという点で、企業のメタバース活用を勢いづける存在と言えるのではないでしょうか。バーチャル・スニーカー・ブランドのRTFKTは、NFTのスニーカー600足を7分間で完売しました*1。日本財団は子どものアート作品をオークションにかけて売上を寄付する試みを始めており、寄付総額は2021年末の時点で6億円を超えています*2。NFT最大のマーケットであるOpen Seaの月間売上は数千億円となっており、急成長を続けています*3。
メタバース空間内の不動産も成長著しい分野です。メタバース空間の1つであるThe Sandboxでは2021年に65,000件の土地取引があり、その売上は400億円近くに達しました*4。また、複数の新興企業がメタバース不動産向けローンの提供を開始するといった動きも見受けられます*5。今後は土地に限らず、メタバース空間上のあらゆるものがNFT化され、販売されるようになると考えられます。
ある試算によると、2020年に約50兆円だったメタバース市場は、2024年には80兆円に達すると予測されています*6。メタバース空間への広告出稿や、リアルとバーチャル両方での商品展開、メタバース空間の不動産や商品への投資は今後、当たり前のことになるのではないでしょうか。
メタバースは今後、さまざまな企業や組織に新たなビジネスチャンスを提供することが予想されます。参入する企業がメタバースを通じて売上拡大や新事業創出といった果実をつかむためには、主に以下のようなトピックへの留意が必要になってくるでしょう(各トピックについては、今後の連載で深掘りしていきます)。
先述の通り、現時点ではゲームやコンサートといったエンターテインメント業界での活用が先行するメタバースですが、これからは広告、不動産、食品、金融、教育、ヘルスケア、自動車、旅行など、あらゆる産業がメタバース空間でのサービスを開始するでしょう。競合の動向をはじめ、自社が参考にできる事例を常に収集し、迅速にアクションにつなげる組織作りが求められます。
すでにメタバースの陣取り合戦は始まっており、多くの企業が先を競ってビジネスを展開しています。当面注意すべきは商標登録と買収の動向でしょう。有名ブランドを展開する企業は、いずれもメタバースでの商品化に先んじて商標登録を行っています。これには事業の準備だけでなく、自社の権利を先に保護しておくという意味合いもあります。
足がかりになるメタバース関連企業の買収も進んでいます。例えばナイキによるRTFKTの買収*7、メタバース不動産会社Tokens.comによる世界初のバーチャル不動産企業Metaverse Groupの買収*8などが挙げられます。魅力的な商標を他の企業に抑えられることや、カギとなる技術や顧客を握っている企業を同業他社に買収されることは、メタバースに参入する際の障害となり得るからです。
メタバース上には、膨大な個人情報とアセットが存在します。これまで以上にセキュリティは重要な要素となるでしょう。もし脆弱性を突かれてしまうと、ユーザーの生活習慣から人間関係まで、さまざまな情報が漏えいしてしまうリスクがあります。すでに、メタバースで使用するヘッドマウントディスプレイから個人が特定される脆弱性が見つかったことも確認されています*9。メタバースには従来のインターネットサービスに比べ、より膨大な情報が集積されるため、攻撃方法もこれまで以上に多岐にわたり、危険度が増すことが予想されます。
国家戦略としてメタバースに取り組む国が今後続々と出てくることが予想されます。例えば韓国は「デジタル新大陸、メタバースに躍進する大韓民国」を掲げ、市場のシェア5位、専門家4万人の養成、専門企業220社の育成などを目指しています*10。
中国の動きも見逃せません。2021年10月、中国の通信関連企業の業界団体CMCA(中国移動通信連合会)傘下に、メタバース産業委員会が発足しました*11。中国はメタバースにおける技術的優位、経済的優位を目指しており、国家が管理するデジタル通貨であるデジタル元もリリースする予定です*12。
メタバースが社会や政治に大きな影響を与え、国家にも等しい存在、すなわち「地政学上のアクター」になる可能性についても検討しておく必要があります。すでに社会のプラットフォームとなったFacebookやGoogleは、多くの国の選挙に影響を与え得る存在と言われます。
今後の広がり方次第ですが、メタバースが安全保障上の要請を受ける可能性も考えられます。そのため、企業はあらかじめメタバース活用の際に負うべき責任と、問題への対処方法を考えておく必要があるでしょう。
本連載では上記の内容を含め、今後以下のトピックを取り上げる予定です。
次回は「メタバースを取り巻くプレイヤー」を特集します。「メタバースとは何なのか」もぜひご覧ください。
メタバースは新しい市場であるため、規制も法律も十分に整備されていないのが実情です。一定のリスクを許容でき、将来を見据えてポートフォリオを組み、新規事業領域を探索・開拓できる企業は参入を検討するに値するでしょう。一方、そうではない企業においては、市場参入のための情報がそろうまでは参入を控えるということも、十分に考え得る戦略と言えます。しかしながら、市場規模が指し示す通り、そこには巨大なビジネスチャンスが眠っていると考えられます。メタバースを自社でどのように活用できるかを考え、アジャイルにアクションを積み重ねていくことで、可能性は大いに広がります。例えば組織横断型のグループを設置して戦略を立てたり、必要な人材を採用したり、外部パートナーと連携したりするなど、メタバース活用に向けて歩を進める企業は確実に増えてきています。そのため、後塵を拝さないためにも、「まずやってみる」という姿勢が重要になると考えます。
次回は、前述のとおり、メタバースのビジネス活用を本格的に検討する上で押さえておきたい、メタバースを構成するプレイヤーについて取り上げます。
*1 JPG File Sells for $69 Million, as ‘NFT Mania’ Gathers Pace
“Everydays — The First 5000 Days,” by the artist known as Beeple, set a record for a digital artwork in a sale at Christie’s.、The New York Times、2021年3月11日
https://www.nytimes.com/2021/03/11/arts/design/nft-auction-christies-beeple.html
*2 子どもたちの作品をNFTとして販売。新しい寄付のカタチがメタバースではじまる、日本財団、2021年11.月24日
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/activity/64857
*3 Dune Analytics, Opensea Data
https://dune.xyz/pancakephd/Opensea-volume
*4 The Coming Boom In Metaverse Lending For Banks、Forbes、2022年2月14日
https://www.forbes.com/sites/ronshevlin/2022/02/14/the-coming-boom-in-metaverse-lending-for-banks/
*5 Compare BlockFi vs. Celsius Network vs. Unchained Capital
https://slashdot.org/software/comparison/BlockFi-vs-Celsius-Network-vs-Unchained-Capital/
*6 Metaverse may be $800 billion market, next tech platform、Forbes、2021年12月1日
https://www.bloomberg.com/professional/blog/metaverse-may-be-800-billion-market-next-tech-platform/
*7 Walmart is quietly preparing to enter the metaverse、CNBC、s2021年5月13日
https://www.cnbc.com/2022/01/16/walmart-is-quietly-preparing-to-enter-the-metaverse.html
*8 Investors Snap Up Metaverse Real Estate in a Virtual Land Boom、The New York Times、2021年11月30日
https://www.nytimes.com/2021/11/30/business/metaverse-real-estate.html
*9 Face-Mic: inferring live speech and speaker identity via subtle facial dynamics captured by AR/VR motion sensors
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3447993.3483272
*10 메타버스 신산업 선도전략、2022年1月20日、대한민국 정책브리핑
https://www.korea.kr/common/download.do?fileId=196685636
*11 勃興する中国のメタバース 技術覇権と国家安全保障、クラウドWatch、2022年1月11日
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/1379390.html
*12 China’s tech giants push toward an $8 trillion metaverse opportunity — one that will be highly regulated
https://www.cnbc.com/2022/02/14/china-metaverse-tech-giants-latest-moves-regulatory-action.html