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2022-06-01
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースと著作権」です。
メタバース空間では、アバターに身に着けさせるスキンとして、例えば服や靴などのデジタルグッズが販売されています。近時はアパレルブランドが本格的にスキンの販売に乗り出すなど、市場規模の拡大が見込まれています。
著作権法で保護されるためには、対象が「著作物」(同法第2条第1項第1号)である必要がありますが、服や装飾品といった実用品については、それが「著作物」に該当するのかの判断基準に議論があるのが実情です。いわゆる「応用美術の著作物性」と言われるもので、「応用美術」とは、「実用に供され、あるいは、産業上利用される美的な創作物」、すなわち美的な要素を備えた実用品をいうものとされています1。応用美術に著作物性があるか否かが争点になった近時の裁判例では、「実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性2を備えている部分を把握できるもの」か否か、などといった判断基準で、その著作物性の有無が判断されています(知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁〔ファッションショー事件控訴審判決〕等)。
メタバース空間で販売されているデジタルグッズの著作物性についても、基本的には実用品の一種として、上記の分離可能性や美的特性の有無という考え方での検討が無難だと筆者は考えます。
アバターに着用させるデジタルの服などにプリントされているイラストやキャラクター、写真などは、それ自体が独立して鑑賞対象として成立し得るものが多いと考えられ、当該イラストなどが美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていると判断されれば、著作物に該当すると考えられます3。
他方で、服などの形状それ自体やその立体的なフリルの付き方、柄の配置などについては、実用目的に必要な構成(アバターが着用するために必要となる形状など)と分離することが困難なものが多いと思われ、著作物性が認められにくいと考えます。
そうなると、アバターのスキンとして販売される服などのデジタルグッズの中で著作物として保護されるものは、限られた範囲にとどまるように思われます。もっとも、重力などの自然法則に囚われないデジタル空間での表現の多様性を考えると、現実空間では困難でもメタバース上では可能な表現によって著作物性が認められる、さまざまなグッズが登場する可能性も考えられるでしょう。
著作権法以外の法律として、意匠法と不正競争防止法による保護の可能性についても触れておきます。
まず、意匠法による保護ですが、同法では一定の範囲の「画像」も「意匠」として保護されますが(同法第2条第1項)、その保護の範囲は「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む」と限定されており、映画・ゲームなどのコンテンツは含まれないとされています(意匠審査基準令和3年3月31日第4部第1章3.1)。そのため、アバターの服などのデジタルグッズについても、意匠法による保護は及ばないと筆者は考えます。
また、不正競争防止法による保護としては、同法第2条第1項第3号(形態模倣商品の提供行為に係る不正競争)による保護が考えられます。もっとも、「商品」に無体物を含むか、無体物の「形状」は「形態」にあたるか、有体物の商品が無体物としてコピーされる事例(または、その逆の事例)が生じた場合に、当該コピーが「模倣」と言えるかなど、デジタルグッズについて同号の各要件がどのように判断されるのかについてはさまざまな議論があり得るところですので4、その議論の状況について注視していく必要があるでしょう。
1 著作権制度審議会答申説明書(昭和41年7月15日)8頁、中山信弘『著作権法(第3版)』193頁
2 応用美術に求められる美的特性については、通常よりも高い美的観賞性(創作性)を求める見解もありますが、少なくとも通常の著作物における創作性(何らかの意味で著作者の個性が現れていること)が必要でしょう。
3 現実のTシャツにプリントされた図案について著作物性を認めた事例として、東京地判昭和56年4月20日判例時報1007号91頁が挙げられる。
4 第16回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会の資料5「デジタル社会における不正競争防止法の将来課題に関する中間整理報告(案)」38~39頁等参照
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
長島 匡克
TMI総合法律事務所, 弁護士
高藤 真人
TMI総合法律事務所, 弁護士