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2022-06-08
近年、高い注目を集めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきことは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意・遵守すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問を基に、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。前回に引き続き、「メタバースと著作権」を取り上げます。
メタバース空間では、ユーザーが自身で創作した動画等のコンテンツを投稿したり、販売したりする場合があります。そのコンテンツの中で、ユーザーが他人の楽曲を利用してメタバース上において利用できるようにする場合、その行為は一般的には著作権法上の「複製」(同法第2条第1項第15号)、「公衆送信」・「送信可能化」(同項第7号の2・第9号の5)に該当し、原則として、当該楽曲の著作権者などから許諾を得る必要があります1 。例外的に、当該楽曲の著作権などの保護期間が満了している場合や著作権法上の権利制限規定(著作権者などの許諾なく利用できる場合を定めた規定)に該当する場合2には、著作権者などの許諾を得ることなく利用することが可能ですが、これらの例外に該当しない場合は、原則通り、著作権者などから許諾を得なければなりません。著作権者などの許諾が必要であるにも関わらず、ユーザーが楽曲を無断利用した場合、ユーザーは著作権侵害の責任を負うことになります。一方、サービス提供者が当該著作権侵害行為に関与していなければ、その責任を負わないのが原則です。ただ、サービス提供者が当該著作権侵害行為を幇助した場合や、侵害行為を認識しつつ放置したといった事情があり、サービス提供者自身において著作権侵害行為を行っていると評価されるような場合は、その法的責任を負う可能性があります。
上記のとおり、ユーザーにおいて楽曲の無断利用がなされる場合、サービス提供者としても無関係ではいられないため、一定の対応をとる必要があると考えられます。例えば、その利用規約などでコンテンツを投稿するユーザーに、当該投稿に当たって必要となる権利処理を義務付けたり、また、侵害があった場合の対応として、例えば米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)や日本の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)などの適用ある法令に基づく権利者からの削除要請などへの適切な対応がとれる体制を整える必要があるでしょう。
音楽利用が想定されるメタバース空間の場合には、さらに進んで、ユーザーに代わってサービス提供者側で権利処理を行うことも考えられます。動画投稿サイトをはじめとするコンテンツ投稿型のプラットフォームサービスでは、同サービスの提供者が音楽著作権を取り扱う著作権等管理事業者との間で、その管理楽曲の利用について、ユーザーによる利用も含めて包括利用許諾契約を締結している場合もあります。そのため、メタバース空間内でユーザーにコンテンツを投稿させるようなサービスを展開する場合には、同様にサービス提供者側において著作権等管理事業者との間で包括利用許諾契約を締結するのも一考です。
1 具体的には、楽曲の著作権者の許諾が必要ですが、既存の音源を使う場合は、さらに当該音源に係る原盤権者(当該原盤に係るレコード製作者の権利を有する者+必要に応じて当該原盤に収録された実演に係る実演家の権利を有する者)の許諾も必要になります。
2 メタバース空間内のユーザーによる音楽利用において適用される可能性のある権利制限規定としては、著作権法第30条の2(付随対象著作物の利用)、同法第32条(引用)などが考えられます。他方で、同法第38条第1項(営利を目的としない上演等)については、対象となる行為に「公衆送信」や「送信可能化」が含まれていませんので、たとえ非営利目的であったとしても、メタバース空間内での利用については適用されません。
著作権侵害行為が行われた場合にどの国の法律が適用されるか(以下、適用すべき国の法律を「準拠法」という)については、当該侵害行為を理由とする差止請求であれば、ベルヌ条約第5条第2項の「保護が要求される国の法」(具体的には著作物の利用行為地法。以下、保護国法)が準拠法になります。一方で、損害賠償請求の場合は、法の適用に関する通則法第17条(不法行為の準拠法に関する規定)により、原則として著作権侵害の結果が発生した地を管轄する法律(結果発生地法)が準拠法になりますが、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであった時は、加害行為地法が準拠法になると解されています。この保護国法と結果発生地法は通常、同じ国を指すと考えられます。インターネットを介して著作権侵害行為が行われた場合の保護国法や結果発生地法についてはさまざまな見解があり3、現時点において定まった見解があるわけではありませんが、著作権侵害となるコンテンツを受信した国の法律(受信国法)を保護国法や結果発生地法と考える見解が有力とされています4。
他方、裁判例では、この点について一般的な基準を示したものは見当たりません。被告が日本法人であること、被告のサイトなどが日本語で記述されていること、送受信のほとんど大部分が日本国内で行われていること、サーバーが海外に存在するとしても当該サービスに関するその稼動・停止などは被告が決定できるものであることから、著作権侵害行為は実質的に日本国内で行われたものということができるとして、日本法を適用した裁判例があります5。
メタバース空間もインターネットを介したサービスですので、その中で著作権侵害行為がなされた場合も、上記の考え方により判断すべきと筆者は考えます。インターネットを介して著作権侵害行為が行われた場合の準拠法に関しては、現在定まった見解があるわけではありませんが、上記で示した有力な見解に従えば、基本的にはメタバースのサービス提供先の全ての国の法律(受信国法)が適用される可能性があると考えてサービスの開発・運用をする必要があるでしょう。
他方、上記で挙げた裁判例を踏まえると、対応言語が日本語のみであるといった、日本国内向けにサービス提供していることが明らかであって、送受信行為のほとんど大部分が日本国内で行われているなどといった事情があれば、仮に日本国外からもアクセス可能な状態であったとしても、日本法が適用される可能性があると考えられます。
なお、以上は日本で裁判が行われた場合における準拠法決定のルール(法の適用に関する通則法等)に従ったものであり、国外で裁判がなされる場合のように、当該国におけるルールに従って準拠法が決定される場合には、上記の議論がそのまま当てはまるわけではありませんので注意が必要です。
3 議論状況は、髙部眞規子『実務詳説 著作権訴訟(第2版)』417-419頁(一般社団法人金融財政事情研究会、2019)など参照
4 「山口敦子「インターネットを介した著作権侵害と国際私法」(https://jsil.jp/archives/expert/2020-2)、種村佑介「韓国テレビ番組のネット配信と著作権侵害訴訟の国際裁判管轄・準拠法」新・判例解説Watch(法学セミナー増刊)(16)339頁(2015)
5 東京高判平成17年3月31日裁判所ウェブサイト〔ファイルローグ事件控訴審判決〕
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
長島 匡克
TMI総合法律事務所, 弁護士
高藤 真人
TMI総合法律事務所, 弁護士