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2022-07-01
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースと特商法」です。
(1)現実世界で食べる食料品(現実世界の実店舗でも販売されている商品を、メタバース内でも販売するような場合)
(2)メタバース上のアバターに着せる服(メタバース上でしか使用できない商品を、メタバース内で販売するような場合)
(3)メタバース内でのみ使用できるサービス内通貨
※具体的な表示方法についてはVol.2を参照
オンライン上の仮想空間において現実世界と同様の体験を提供することができるメタバースは、現実世界の実店舗とインターネット上のECサイトの中間的な存在として活用され、その空間内ではさまざまな商品が販売されています。実店舗でも見かけるような商品であれ、メタバース内でしか使用できない商品であれ、メタバースのプラットフォームを通じて商品を販売する場合に、特商法に基づく表示は必要になるのでしょうか。
特商法とは、消費者トラブルが生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールなどを定めた法律であり、当該取引類型の1つとして、「通信販売」におけるルールを定めています。
特商法によれば、「通信販売」に該当する場合に、広告などの一定の場面において、法定事項の表示が必要となり得ます。そして、以下の要件を全て満たす場合には「通信販売」に該当します(特商法2条2項)1。
a (販売主体) 販売業者又は役務提供事業者が
b (販売対象) 商品、特定権利2又は役務を
c (申込方法) 郵便その他の主務省令で定める方法により申込みを受けて
d (販売行為) 販売又は提供する
通信販売該当性の要件のうち、aの「販売業者又は役務提供事業者」とは、販売や役務提供を業として営む者という意味です。「業として営む」とは、営利の意思を持って反復継続して取引を行うことを言い、営利の意思は客観的に判断するものとされます3。したがって、「業として営む」とは言えない場合4には、法定事項の表示義務は課せられません。また、c記載の要件である申込方法については、パソコン通信やインターネットなどを通じた申込方法も「通信販売」の適用対象と解されています5。
このように、インターネットなどを通じて契約の申込みが行われる場合において、「業として営む」と言えるような取引が行われているのであれば、「通信販売」に該当するものと解されます。
上述のとおり、特商法上の「通信販売」に該当する場合、一定の場面において法定事項の表示が必要となります。その際にはまず、販売業者などが通信手段により申込みを受けて商品の販売などを行うことを意図していると認められる広告を行う場合に、法定事項の表示が必要となります(特商法11条)6。
したがって、現実世界の実店舗でのみ販売されている商品(インターネット上では販売していない商品)をインターネット上で宣伝広告するに過ぎない場合には、通信手段により申込みを受ける意図がないため、当該特商法11条に基づく表示義務は課されません。
また、通信販売により、商品、特定権利または役務を販売・提供する際は、その注文確定直前の最終確認画面で、以下の各事項を表示する必要があります(特商法12条の6)7。
ⅰ. 商品等の分量(商品の数量、役務の提供回数等)
ⅱ. 販売価格
ⅲ. 支払時期、支払方法
ⅳ. 引渡時期、提供時期
ⅴ. 申込みの撤回、解除に関する事項
ⅵ. 申込期間
以上を踏まえ、Q1の小問(1)~(3)について、それぞれ確認していきます。
「通信販売」に該当するか否かを判断するにあたっての主な要件は、上記2記載の要件a~dです。まず、食料品を販売することを「業として営む」と言える場合には、「販売業者」に該当します。他方で、例えば、あくまで個人が単発的な販売行為を行ったに過ぎず、反復継続して販売を行っているとは言えない場合には「業として営む」とは言えず、「販売業者」には該当しないものと解されます(要件a)。また、食料品は「商品」と言えます(要件b)。
次に、申込方法(要件c)に関し、メタバースには、多種多様なプラットフォームが想定され、商品を販売する際の申込方法もさまざまなものが想定されます。しかし、少なくともパソコン通信やインターネットなどを通じてサービスが提供されていると言えるので、当該メタバース上で販売される商品や役務の提供は、パソコン通信やインターネットなどを通じて申込みが行われるものとして、要件cも充足すると考えられます。そして、食料品の「販売」を行っているため、要件dも充足しています。
したがって、「販売業者」に当たる者が、メタバースのプラットフォームを通じて、現実世界で消費する食料品を販売する場合には、「通信販売」に該当するものとして、特商法11条および12条の6に定める事項の表示が必要となります。
まず、要件a、cおよびdは、上記(1)と同様に解釈することができます。他方で、要件bにあるとおり、特商法上の「通信販売」における販売の客体は、「商品」「特定権利」または「役務」のいずれかになりますが、アバター用の服は単なるデータに過ぎず、これを販売することは当該データの利用を許諾しているに過ぎないと考えることも可能です。
しかし、特商法は原則として全ての商品と役務に対して適用されるものと解されており、例外的に、特商法26条1項に定める適用除外に該当する取引だけが適用を除外される建付けとなっています。そして、アバター用の服を含むデジタルグッズは、かかる適用除外には該当していません。また、消費者庁の「特定商取引に関する法律・解説(令和4年6月1日版)」(以下「消費者庁解説」)の第2章第1節(11頁)においては、「携帯電話端末やパソコン端末などを通じてインターネット上で提供されるゲームの中で使用することができるアイテム等を入手するために課金等が行われている場合もあるが、このような役務提供契約は通常、通信販売に該当すると考えられる。」と解説されており、ゲーム内で課金により使用できるアイテムなどの提供については役務提供にあたるものとして、「通信販売」に該当すると考えられます。
したがって、現在の法律を前提とする限り、販売する商品がメタバース上のアバターに着せる服などのデジタルグッズであっても、上記(1)と異なるところはなく、「通信販売」に該当するものとして、特商法11条および12条の6に定める事項の表示が必要と考えて対応を採るべきと考えます。
もっとも、特商法上の通信販売の規制の趣旨に照らし、メタバース内における商品などの販売態様などに照らして一定の条件を満たす場合には、通信販売としての規制を及ぼすべきではないケースもあるのではないかと考えられます。この点は、後編において詳述します。
メタバース上で販売する商品が、当該メタバース上でのみ使用できるサービス内通貨である場合、上記(1)(2)と何か違いはあるのでしょうか8。
この点、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」)上の「前払式支払手段」(同法3条1項)に該当するものは、特商法上の規制の適用除外とされています(特商法26条1項8号ニ、特商法施行令5条および別表2の49)。そして、基本的には、オンラインサービスにおける独自の通貨(サービス内通貨を含む)は、その有効期間が6カ月以内に限定されているものを除き(資金決済法4条2号、資金決済法施行令4条2項)、前払式支払手段に該当すると解されています。
したがって、サービス内通貨を販売する場合には、その有効期間が6カ月以内に限定されているものを除き、前払式支払手段に該当するものとして、特商法の適用はありませんが、資金決済法が適用される点に留意が必要です。
他方で、当該サービス内通貨は、あくまでも当該サービス内のアイテム(アバター用の服など)を購入するために用意されたものであるため、①サービス内通貨の売買取引の次の段階として、②サービス内のアイテムの売買取引が当然に想定されます。そうだとすれば、仮に①の段階で販売するサービス内通貨が前払式支払手段に該当するとして、特商法の適用を受けない場合であっても、②の段階では、そこで販売するアイテムの取引に関し、特商法が適用される点に留意が必要です。
1 a~dの要件を満たす場合であっても、電話勧誘販売に該当する場合には「通信販売」には該当しません(特商法2条2項)。また、特商法26条に列挙された適用除外に該当する場合には、「通信販売」に関する規制が適用されないこととなります。
2 特定権利とは、以下の権利を言います(特商法2条4項)。
3 消費者庁通達の別添2「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」
4 例:個人が、反復継続することなく、持っていた本やCDなどを販売したに過ぎない場合
5 電話機、ファクシミリ装置その他の通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法」(特商法施行規則2条2号)に該当するとされている(消費者庁通達4頁)。
6 消費者庁通達22頁
7 これは、2022年6月1日に施行された法改正によって導入された規制だが、申込み段階における表示についての解釈および具体例は、2022年2月9日付け消費者庁通達「特定商取引に関する法律等の施行について」(以下「消費者庁通達」)の別添7「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」に記載されている。
8 なお、特にアプリゲームなどにおいては当該ゲーム内でのみ使用できる独自の通貨が販売されている場合があり、ユーザーは当該独自の通貨をいったん購入した上で、当該独自の通貨を対価として、当該ゲーム内のアイテムなどを購入するという建付けが広く用いられています。このような独自の通貨が、資金決済法上の「暗号資産」(同法2条5号)に該当する場合も考えられますが、本検討においては、論点整理のため、資金決済法上の暗号資産には該当しないことを前提として検討しています。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
中山 祥
TMI総合法律事務所, 弁護士
丸山 駿
TMI総合法律事務所, 弁護士