{{item.title}}
{{item.text}}
Download PDF - {{item.damSize}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-07-26
特商法11条に基づく広告表示に関しては、条文上、「(通信販売する商品等の販売条件について)広告するときは・・・当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。」と規定されています(特商法11条柱書)。そして、広告とは、事業者が通信手段により申し込みを受けて商品の販売などを行うことを意図していると認められるものを言い、その媒体は何でも良いとされています。
上記を踏まえると、メタバース内で販売するデジタルグッズについては、メタバース内での特商法11条に基づく広告表示を行う場合、具体的には以下のように行うことが考えられます。
想定ケース1 |
特商法11条に基づく広告表示 |
---|---|
メタバース内に表示されるデジタルグッズの「購入ボタン」などを押すと、別途ブラウザ上の商品ページに遷移し、遷移後は一般的なECサイトと同様に購入を行うケース。 |
|
想定ケース1では、通信販売に係る取引の勧誘部分はメタバース上で行われるものの、実際にデジタルグッズを購入するにあたっては、別途ブラウザ上に用意された商品ページに遷移することになり、特商法11条に係る「広告」は当該商品ページにおいて行われているものと解されます。
したがって、一般的なECサイトと同様の建付けと考えられ、特商法11条に基づく広告表示も当該商品ページにおいて行うのがスムーズでしょう。また、商品ページとは別に「特定商取引法上の表示」のページが用意されている場合には、当該既存の「特定商取引法上の表示」へのリンクを商品ページに埋め込み、そこに遷移させることも可能と解されます1。
1もっとも、「URLが見つかりにくい場所に表示されていたり、当該箇所がリンクであるかどうかが不明瞭な場合等、本文とリンク先の一体性が確保されていないと認められる場合は、本条の規定による表示義務が満たされていない」とされていることに留意が必要です(消費者庁「特定商取引に関する法律・解説(令和4年6月1日版)」の第2章第3節<74頁>)。
前編(特商法編Vol.1)Q1(2)において解説したとおり、特商法上の「通信販売」に該当する場合には、広告などの一定の場面において、特商法に基づいた表示が必要となります。そのため、メタバース上でデジタルグッズを販売する場合には、パソコン通信やインターネットなどを通じて申し込みが行われるものとして、「通信販売」に該当すると考えられます。
したがって、現行の特商法によれば、メタバース上でデジタルグッズを販売する場合には、一定の例外を除いて、特商法に基づいた広告表示が必要となります。
通信販売は隔地者間による取引であるため、消費者は実際の商品などを購入時に確認することができず、販売業者などが記載する広告に基づく情報のみに基づいて購入するか否かを判断しなければなりません。これを踏まえ、販売業者などに対して必要な情報の提供を義務付けるという点が、通信販売において特商法上の広告表示が必要とされている趣旨になります。
この点、メタバースにおけるアバター用の服や靴、帽子、装飾品などについては、メタバース内でのみ販売されているデジタルグッズであり、当該メタバース内で表示されている映像が、購入する商品(厳密には、Vol.1で述べたとおり、デジタルグッズの販売は、商品の販売ではなく、役務の提供と考えていますが、以下では便宜上、デジタルグッズも含めて「商品」という言葉を使います)そのものであると言えます。特に、ヘッドマウントディスプレイなどのVR機器を利用してメタバース内のアバターを操作し、購入しようとする商品を手で取って見たり、実際にアバターが商品を試着したりできる場合には、現実世界の実店舗における買い物と変わるところはなく、「実際の商品を確認できない」とは言えず、もはや隔地者間による取引ではないとも考えられます。また、アバターを通じて販売者に対して不明点をその場で確認できる場合には、販売業者があらかじめ用意する広告において網羅的に法定表示事項を表示させる必要性は限定的であると思われます。
これらを踏まえれば、UI/UXが一定以上に発展したメタバースにおいては、当該メタバース上のアバター用の服や靴、帽子、装飾品などのデジタルグッズを購入しようとしているユーザーは、当該商品を説明した「広告」を見て購入を検討しているのではなく、現実世界における実店舗での買い物と同様に、商品が存在する空間内において、「当該商品そのもの」を見たり、不明点があれば逐次販売者に確認したりしながら購入を検討していると評価できる場合もあり得ると筆者は考えます。
上記1に加え、上記のとおりUI/UXが一定以上に発展したメタバースにおいては、例えばVR機器を用いて、メタバース内に設置されたバーチャル店舗に来店し、アバターの目線から商品を見て当該商品の購入を決定し、その場で決済を完了できるようなケースが想定できます。その場合、「どのような方法で、どのような場所に特商法上の広告表示をすれば良いのか」「わざわざECサイトのような特商法上の表示ページに遷移させるのはUI/UXを害しかねず、メタバースの発展に逆行するのではないか」という課題が生じるように思われます。
以上を踏まえると、「実際に購入する商品」と「購入前に確認できる商品や販売条件等の契約に関する情報」との間に不一致がない場合には、立法論として、少なくとも特商法11条の表示に関する表示を不要とすることも、今後は考えられるのではないでしょうか。
法律の趣旨やUI/UXの観点からは立法論として上記のように考えることも可能と思われますが、現在の法律を前提とすると、Q2のような場合であっても特商法11条に基づく広告表示が必要と考えられます。そして、Q2のようなケースで特商法11条に基づく広告表示を行う場合、具体的には以下のように行うことが考えられます。
想定ケース2 |
特商法11条に基づく広告表示 |
---|---|
VR機器を用いて、メタバース内に設置されたバーチャル店舗に来店し、アバターの目線から商品を見て当該商品の購入を決定し、その場で決済を完了できるようなケース。 |
<パターンA>
<パターンB>
|
想定ケース2においても、システム設計上、バーチャル店舗内に外部リンクを貼ることが可能なのであれば、想定ケース1の場合と同様、メタバース上に既存の「特定商取引法上の表示」へのリンクを埋め込むという対応もあり得るところです。しかしながら、リンクを埋め込む場合には、利便性や没入感が損なわれることが予想されます。また、別の方法として、バーチャルの店舗内で特商法11条に基づく広告表示を全て行うという方法も考えられますが、各表示事項についての視認性の確保が問題となり得ます。
今後、メタバースがさらに発展し、メタバース上の取引がより現実に近い形で行われるようになった場合に備え、メタバース上の取引が阻害されることのないよう、法改正など立法による解決を図ることや、広告表示に関するガイドラインの策定その他の方法により、適切な対応がなされるべきと筆者は考えます。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
中山 祥
TMI総合法律事務所, 弁護士
丸山 駿
TMI総合法律事務所, 弁護士