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2022-12-13
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスへの利活用を検討する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられた質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、ともに考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースと支払い」です。
メタバース上で期待されるサービスの1つとして、メタバース上でのライブなど、エンターテインメント空間の提供が考えられます。「投げ銭」は、これまで主にインターネット上の配信活動をはじめとするパフォーマンスや演出に対し、パフォーマーに対する応援やサポートを目的に、金銭や有償のアイテムなど経済上の利益を提供するサービスとして存在してきました。メタバースにおいても、この「投げ銭」が普及していくことが想定されます。
では、メタバース空間を提供するプラットフォーマーが「投げ銭」の機能を実装する場合、どのような法規制を遵守する必要があるのでしょうか。本稿では、「投げ銭」に係る各種規制について解説します。
メタバースにおける「投げ銭」の態様としては、ライブやイベントの参加者がパフォーマーに行うケースのほか、アートギャラリーに展示されたデジタルアートやそのアーティストに対して行うケースなどが想定されます。
その中で最もシンプルなのは、資金移動業者として発行するコインなどをパフォーマーやアーティストなど(以下「パフォーマー」)への送金として使用するスキームでしょう。資金移動業者が「為替取引」に係る資金として発行するコインなどは、送金や換金が法的に可能ですので、パフォーマーが当該コインなどのアカウントを保有していなくても、投げ銭として受け取ったコインなどの相当額を資金移動業者であるプラットフォーマーを通じて換金し、金銭として受領することができます。
また、ステーブルコインを投げ銭として使用する方法も考えられます。プラットフォーマーがいったん投げ銭を受領して、パフォーマーに配布するという構成を採る場合、プラットフォーマーは、ステーブルコインを管理するものとして、電子決済手段等取引業の規制を受ける可能性があります。
これに対し、メタバースにおいて第三者が発行したステーブルコインを視聴者のウォレットから演出者のウォレットに直接送付する仕組みとするのであれば、プラットフォーマーがこれらのステーブルコインの規制を受けずに提供できる投げ銭サービスを検討することも可能と考えられます。ただこの場合、プラットフォーマーは、サービス利用料としての手数料を、投げ銭として送付されたステーブルコインから控除して取得することができないため、手数料の回収方法やマネタイズの手法を別途検討する必要があるとも考えられます。
そのほか、為替取引以外の構成により、パフォーマーが最終的に金銭で受け取ることのできる「投げ銭」を設計することも可能と考えられます。すなわち、視聴者とプラットフォーマー、プラットフォーマーとパフォーマーの権利義務関係をそれぞれ別のものとし、以下の異なる契約関係に基づく支払として整理する方法です。
(i)視聴者とプラットフォーマー間:視聴者がプラットフォーマーからデジタルアイテムを購入し、視聴者がメタバースにおいてデジタルアイテムを使用した際に、使用したデジタルアイテムに応じたエフェクトや演出といった一定のサービスの提供をプラットフォーマーから受けるという契約関係
(ii)プラットフォーマーとパフォーマー間:パフォーマーがパフォーマンスを行い、当該パフォーマンスによりプラットフォームの活性化やユーザーの消費に貢献したことなどへの対価ないし報酬をプラットフォーマーが支払うという契約関係
この場合、視聴者からプラットフォーマーに支払う金銭は、デジタルアイテムの購入代金であって、パフォーマーに対する送金資金ではありませんので、基本的には「為替取引」に該当しないと考えられます。ただし、当該スキームにおいても、実質的に視聴者がデジタルアイテムを購入してプラットフォーマーに支払った金銭がそのままプラットフォーマーからパフォーマーに対する報酬として交付されていると言える場合には、「為替取引」と解される可能性があります。そのため、当該デジタルアイテムによる「投げ銭」と、パフォーマーに交付される報酬が完全に連動しないようにするなど、視聴者のプラットフォーマーに対する「投げ銭」と、プラットフォーマーからパフォーマーへの支払が切り離されていると認められるような仕様を実装する必要があります。
「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 支払い編 Vol.1」第1項記載のとおり、前払式支払手段は譲渡することが可能ですので、譲渡可能な前払式支払手段を「投げ銭」に使用することも考えられます。
ただし、前払式支払手段の場合、払戻し禁止の原則により、これを受領したパフォーマーによる換金を想定した設計にすることはできません。視聴者から「投げ銭」として提供された前払式支払手段は、基本的にはプラットフォーマーや加盟店の提供する商品やサービスの代価の支払に使用することが想定されていますので、投げ銭として前払式支払手段を受領したパフォーマーがこれを消化するに足るだけのプラットフォーマーないし加盟店の商品・サービスがあることが前提になると考えられます。
「暗号資産」により「投げ銭」を行う場合、どのようなスキームが考えられるでしょうか。1つは、パフォーマーが自身のウォレットアドレスを公開し、当該ウォレットアドレス宛に「暗号資産」を送信してもらう方法が挙げられます。さまざまな種類の暗号資産を自由に送付できるようにすることもあり得るでしょう。このような、プラットフォーマーが暗号資産の交換や預託に関与しないPeer to Peer(P2P)の送付であれば、プラットフォーマーが暗号資産交換業者としての規制を受けずに行うことが可能と言えます※1 。ただ、ステーブルコインの場合と同様、手数料の回収方法やマネタイズの手法は別途検討する必要があると考えられます。また、暗号資産交換業者がプラットフォーマーである場合や暗号資産交換業者と提携する場合には、当該暗号資産交換業者に預託している暗号資産の授受により投げ銭を実現することも考えられるのではないでしょうか。
さらには、視聴者は暗号資産により「投げ銭」を行い、パフォーマーはプラットフォーマーから法定通貨を受領するというスキームも考えられます。もっとも、プラットフォーマーにおいて、「投げ銭」により得た「暗号資産」を法定通貨や別の暗号資産に交換した上で、「投げ銭」に相当する額をパフォーマーなどに交付する場合には、プラットフォーマーは「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」を行っているとして、「暗号資産交換業」の登録が必要になると考えられます。そのため、かかるスキームとする場合には、上記「『投げ銭』と為替取引」同様、視聴者とプラットフォーマー間の支払い、プラットフォーマーとパフォーマーなどの支払いがそれぞれ別の法律関係に基づくものであると言えるような仕様とする必要があると考えられます。
以上のように、メタバース上でのライブなど、仮想空間上でのエンターテインメントを盛り上げる要素として、「投げ銭」といった直接のインセンティブは、今後もプラットフォーマーやパフォーマーにとって魅力的なサービスになると考えられます。ただ、一口に「投げ銭」と言っても、さまざまなスキームが存在し、また近年の法改正を踏まえると、新しい論点が増えてきています。
複雑化する法規制の中で、適法にサービス提供を行うためにも、メタバース上での「投げ銭」を検討するにあたっては、専門家とも相談の上、実施するのが望ましいと言えるでしょう。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
土肥 里香
TMI総合法律事務所, 弁護士
落合 一樹
TMI総合法律事務所, 弁護士
※1 暗号資産を贈与(民法第549条)していると評価される場合には、贈与税の課税対象となるなど、別途税務上の問題が生じる可能性があります。