{{item.title}}
{{item.text}}
Download PDF - {{item.damSize}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2023-02-15
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースとディープフェイク」です。
一般に、メタバースのユーザーは、自らの分身としてのアバターを設定し、アバターを通じてメタバース内で各種活動を行います。アバターの外観には多種多様なものがありますが、将来的には情報処理能力の向上により、ユーザーの現実世界における外貌と瓜二つの外観を持ったアバターを使用できるメタバースが登場する可能性があります。そのようなメタバースにおいて、自分と瓜二つの顔のアバターが他人に無断で使用されていた場合、そのアバターの使用を止めさせることができるかが問題となり得ます。
肖像権とは、人が、その肖像・容貌・姿態を肖像本人の意に反して、みだりに撮影されたり、描かれたり、彫刻されたり、またその撮影された写真・スケッチ・胸像などをみだりに公表されたりしない権利をいいます1。判例でも、みだりに自己の容貌などを撮影されないことや、自己の容貌などを描写したイラストをみだりに公表されたりしないことが「法律上保護されるべき人格的利益」2として認められています。
しかし、本人の承諾を得ない肖像・容貌・姿態のあらゆる利用が肖像権を侵害するわけではありません。裁判所は肖像権をめぐる訴訟の判決において、「当該個人の社会的地位、活動内容、肖像利用の目的、態様、必要性等を総合考慮して、当該個人の人格的利益の侵害の程度が社会通念上受忍の限度を超える場合には、当該個人の肖像の利用は、肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となる」との判断を示しています3。すなわち、他人の肖像の利用が肖像権を侵害するかどうかは、実際の肖像の利用に係る具体的事情を総合的に考慮し、社会通念上受忍の限度を超えるか否かにより判断されます。
例えば、政治家や著名人といった社会的影響力のある人物について公益上の目的で報道する際に、その肖像を必要最小限の範囲で使用する場合には、社会通念上受忍の限度を超えず、肖像権の侵害には当たらないという場合も多くなると考えられます。
もっとも、メタバースにおいて他人と瓜二つのアバターをその他人に無断で使用するという事例において、その肖像使用の正当性を基礎付ける事実は通常考えにいと言えるでしょう。また、メタバース空間内の不特定多数のユーザーの目に一定期間にわたって触れることによる本人の不利益は比較的大きいと考えられます。これらのことから、かかるアバターにおける肖像の使用は、社会通念上受忍の限度を超える人格的利益の侵害を肖像の本人に生じさせ、肖像権侵害が認められる場合が多いと考えられます。
また、肖像権の侵害に当たらない場合であっても、他人と瓜二つのアバターを使用して、メタバース内においてその他人になりすます行為が「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」(いわゆる「アイデンティティ権」)4を侵害する可能性があると考えられます。さらに、他人と瓜二つのアバターを使用して他人になりすました上で、メタバース内で社会的非難を受けるべき言動を行ったり、卑猥な言動5を行ったりした場合には、その他人がこれらの言動を行うような人物であるという印象を不特定多数人に抱かせかねないため、名誉毀損や侮辱(名誉感情侵害)6が成立する可能性もあると考えられます7。
肖像権などの人格権および人格的利益を侵害された者は、それを侵害する行為の差し止めを請求することができます。したがって、自己の肖像権などの権利を侵害する態様で自分と瓜二つのアバターが無断使用されている場合、当該アバターの使用中止や削除を請求することができます。なお、このようなアバターの使用差し止めは、アバターの使用者本人に対して請求することができることはもちろんですが、メタバースの運営者に対して請求することも考えられます。そのため、メタバースの運営者としては、そのような請求にスムーズに対応できるよう、利用規約の中でそのような行為の禁止を明示したり、権利侵害申請フォームを設置したり、苦情窓口の対応人員を確保したりすることが重要となります。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
松岡 亮
TMI総合法律事務所, 弁護士
1 大家茂夫『肖像権〔改定新版〕』7頁
2 最判平成17年11月10日民集59巻9号385頁
3 東京地判令和3年12月23日・令和3年(ワ)第21024号等
4 大阪地判平成28年2月8日判時2313号73頁等
5 裁判例においては、ポルノ映像における性行為を行っている俳優の顔を他人の顔と精巧に差し替えて、あたかもその他人が性行為を行っているかのような映像を製作・配信した者について、民事上の不法行為(肖像権侵害や名誉毀損等)のみならず、名誉毀損罪(刑法第230条第1項)の成立による刑事責任が認められている例もあります:東京地判令和2年12月18日・令和2年(特わ)第2557号等。
6 東京地判平成28年6月7日・平成28年(ワ)第1485号等
7 その他、肖像を無断利用された者が芸能人をはじめとする著名人であり、その肖像に顧客吸引力が認められる場合には、パブリシティ権の侵害の可能性も考えられます。