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2023-03-14
近年、注目度がますます高まるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、ともに考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースとハラスメント」をテーマに、特にセクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)に焦点をあてて解説します。
メタバース空間内でのハラスメントが話題になっています。2022年11月8日に公開された調査レポート「メタバースでのハラスメント」1(以下、「本レポート」)では、ハラスメントを受けた経験(地域・セクシャリティ・サービス別)や実態(種類・強度・理由)などに関する種々のアンケート結果を踏まえ、
といった形で結論付けています。
具体的にどのような行為が法的にハラスメントに該当するかは議論の余地があるところですが、メタバース空間内でのハラスメントとしては「性的ハラスメントが最も多い」ということで、本稿では、メタバース空間内で実際に生じうるセクハラ事例を設定した上で、セクハラ該当性に関する判断基準を紹介し、プラットフォーマーやメタバース空間への参加企業の法的責任の有無についても検討します。
メタバース内のセクハラの有無が問題となり得るケースとして、以下のような事例が考えられます。
プラットフォーマーZが運営するメタバース空間内にアパレル企業Aが出店していたところ、この店舗の常連であるユーザーB(アバター)がその店舗の店員C(アバター)に対して、「今度2人でホテルに行こうよ」といった言葉を投げかけたり、ボディタッチをしたりするということがありました。もっとも、この店員Cは、ユーザーBがこの店舗の常連であったこともあり、そういったユーザーBの言動について特に嫌がるそぶりを見せていませんでした。このような場合、 (1)ユーザーBの言動はセクハラに該当するでしょうか。 (2)プラットフォーマーZには何らかの法的責任が生じるでしょうか。 (3)アパレル企業Aには何らかの法的責任が生じるでしょうか。 |
そもそもセクハラの概念は、一般的にリアル空間内での言動を想定していると考えられ、その言動について、相手の「意に反する」ものであることが必要になります。すなわち、セクハラでは、(セクハラに該当し得るような一定の客観的な行為があることは前提としつつ)相手の主観を一定程度重視するのが、後で紹介するパワハラとは異なる特徴です。
では、相手が明示的に嫌がっていなければ、相手の「意に反する」ことにはならないでしょうか。近年では、セクハラ被害があった際に声を上げる被害者が増えつつありますが、それでもまだ被害者の意にそぐわない性的言動があったとしても、その被害者は、加害者に対する抗議や被害申告を控えたりするケースが少なくありません。
この点に関し、近時の最高裁判決の中には、被害者がある性的言動を、明示的に嫌がり拒否する姿勢を見せていなかったことについて、加害者に有利に斟酌していた高裁の判断を覆した事例があります2。そのため、ある性的言動について被害者が明示的に嫌がることがなかったり、拒否する姿勢を見せていなかったりしても、実際はその「意に反する」として、セクハラに該当する場合があります。
この事例はメタバース空間内での出来事ではありますが、上述のリアル空間内におけるセクハラ該当性の考え方と同じ枠組みで検討することができるでしょう。すなわち、ユーザーBがA企業の店舗の常連であったという事情からすると、店員Cとしては、ユーザーBの言動に関して抗議をしにくい状況であったと言えます。そのため、店員CがユーザーBの言動について、特に嫌がるそぶりを見せていなかったとしても、相手の「意に反する」として、セクハラに該当する可能性は十分あると言えます。
まず、メタバース空間の運営元であるプラットフォーマーは、当該メタバース空間の利用者による取引や行動の場を提供するにとどまることが一般的であるため、ユーザーBの言動について、ただちに何らかの法的責任を負うということはないと考えられます。
もっとも、インターネットオークションサイトの運営者が出品者による詐欺行為について責任を負うかが争われた過去の裁判例においては、プラットフォーマーである運営者について「本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では、利用者が詐欺等の被害に遭わないように、・・・相応の注意喚起の措置をとるべき義務があった」と判示されています3。そのため、この事例においても例えばプラットフォーマーZが運営するメタバース空間内において、アバターに対するセクハラが横行しているなどの事態が生じており、被害の通報がプラットフォーマーZに複数寄せられているといった事情がある場合には、プラットフォーマーZにおいて何らかの注意喚起を行うべき義務があると判断され、(当該義務に違反しているとして)損害賠償責任を負う可能性があることは否定できないと考えます。
リアル空間内における企業は、一般的に安全配慮義務の一環として、店員の職場環境が害されないように配慮すべき義務(以下、「職場環境配慮義務」)があると考えられています4。確かに、リアル空間とメタバース空間の差異を考慮する必要はありますが、職場環境配慮義務がメタバース空間上では生じないとする合理的根拠は見出しがたく、基本的にはメタバース空間でもこのような義務は生じうると考えます。
そのため、この事例において、例えばユーザーBが店員Cに対するセクハラ行為を継続的に行っていることを認識しながらアパレル企業Aがそれを放置した結果、店員Cに精神的または財産的損害が発生しているなどの事情がある場合には、店員Cへの職場環境配慮義務違反があるとして、損害賠償責任を負う可能性があると考えます。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
那須 勇太
TMI総合法律事務所, 弁護士
1 https://note.com/nemchan_nel/n/n60fd28b43b3a
2 最判平成27年2月26日労判1109号5頁
3 名古屋地判平成20年3月28日判例タ1293号172頁。また、上級審である名古屋高判平成20年11月11日、最決平成21年10月27日も同旨。なお、いずれもプラットフォーマーによる相応の注意喚起措置を肯定しています。
4 労働契約法5条参照