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2023-03-22
近年、注目度がますます高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、ともに考えていきましょう。今回は「メタバースとハラスメント」をテーマに、特にパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)に焦点をあてて解説します。
メタバース空間内でのハラスメントが話題になっています。一方で、具体的にどのような行為が法的にハラスメントに該当するかは議論の余地があるところです。そこで、本稿では、メタバース空間内で実際に生じうるパワハラ事例を設定した上で、パワハラ該当性に関する判断基準を紹介し、プラットフォーマーやメタバース空間への参加企業の法的責任の有無についても検討します。その上で、メタバース空間内でのハラスメント行為への対策について解説していきます。
メタバース内のパワハラの有無が問題となり得るケースとして、以下のような事例が考えられます。
プラットフォーマーZが運営するメタバース空間内の飲食店Aでは、仕事を覚えるのが遅い大学生のバイト店員B(アバター)が上司C(アバター)から他の店員の前で毎日のように怒られ、以下のような言葉を浴びせられています。
このような場合、 (1)バイト店員Bに対する上司Cのこのような言動はパワハラに該当するでしょうか。 (2)プラットフォーマーZや飲食店Aには何らかの法的責任が生じるでしょうか。 |
まず、リアル空間におけるパワハラは、職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものを指します1。
このパワハラ該当性の判断にあたっては、「法の観点から見るメタバース ハラスメント編 Vol.1」で取り上げたセクハラとは異なり、被害者の主観に左右されないことがポイントです。つまり、被害者がパワハラを主張したとしても、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導であれば、パワハラに該当しません。
一方で、このパワハラに該当すると考えられる類型と具体例として、次の内容が挙げられます。精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
(ⅰ)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(ⅱ)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
(ⅲ)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(ⅳ)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(ⅴ)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(ⅵ)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
この事例では、このうち「(ⅱ)精神的な攻撃」が問題となり得るところですが、その具体例として厚生労働省は以下の内容を挙げています2。
また、過去の裁判例では、リーダーYが高卒1年目の社員Xに対して、約10カ月間、この事例と同様の発言を行っていたことについて、「典型的なパワハラと言わざるをえない」などと認定し、(当該事案はXが自殺したことから)7,261万2,557円の損害賠償を認めた事案もあります3。
以上の点を考慮すると、今回の事例におけるバイト店員Bに対する上司Cの言動は、(その継続性などにもよりますが)バイト店員Bの人格を否定する言動も含まれていることから、たとえメタバース空間内の出来事であったとしても、パワハラに該当する可能性は十分あると言えます。
プラットフォーマーZや飲食店Aの法的責任については、「法の観点から見るメタバース ハラスメント編 Vol.1」で取り上げた事例と同様に考えられますが、直接的加害者ではないZやAによる権利侵害行為の有無や、負担すべき損害の算定に当たっては、パワハラ防止措置をどこまで採り得るかという点も含めて、リアル空間にはないメタバース空間固有の事情を考慮する必要があるでしょう。
本稿執筆時には、メタバース空間内でのハラスメントを一律に規制する法律やガイドラインが制定されてはいません。そのため、メタバース空間内でのハラスメント行為への対策として、法律やガイドラインを策定することが考えられます。しかし、ハラスメントの問題に限らず、メタバース空間内で生じるあらゆる行動や取引などにまつわる権利関係の処理が十分整備しきれていない現状からすれば、メタバース空間内でのハラスメントのみに対応した法律やガイドラインをすぐに制定することは現実的とは言えません。また、プラットフォーマーが各メタバース空間の実情に応じた取り決めをした方が、よりそのメタバース空間を利用するユーザーのニーズに、きめ細かく対応し得るというメリットもあります。
そこで、プラットフォーマーとしては、ハラスメント行為が行われた際の対応やペナルティについて規約に定めるとともに、ユーザーに寄り添った形でのプラットフォーム運営を行うことが望まれます。2022年11月8日に公開された調査レポート「メタバースでのハラスメント」でも、プラットフォームへの要望として、
などが挙げられており、これらをどのように実践していくかが今後の検討課題といえます。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士
那須 勇太
TMI総合法律事務所, 弁護士
1 パワハラ防止法30条の2第1項
2 職場におけるハラスメント関係指針
3 福井地判平成26年11月28日労判1110号34頁