企業のためのメタバースビジネスインサイト

パーソルマーケティングと語る、実際のサービス展開から見通すメタバースビジネスの未来【前編】

  • 2023-06-27

近年、メタバースのビジネス活用が加速しています。バーチャル空間でのセミナー開催といった一過性のイベントだけでなく、ビジネスコミュニケーションやコラボレーションのプラットフォームとしても注目されています。企業がメタバースに大きな関心を寄せる状況下、今後のメタバース市場はどのような動きを見せるのでしょうか。

メタバース空間で人材サービス事業を展開するパーソルマーケティング株式会社(以下、パーソルマーケティング)でメタバースデザイン事業部部長を務める川内浩司氏と、同事業を支援するPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)ディレクターの岩花修平が、実践者の立場からメタバースのビジネス活用の実情や、企業が取り組むうえで考慮すべき課題などについて語り合いました。

(本文敬称略)

対談者

パーソルマーケティング株式会社
メタバースデザイン事業部部長
川内 浩司 氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
岩花 修平

(左から)岩花 修平、川内 浩司 氏

(左から)岩花 修平、川内 浩司 氏

経営層のメタバース体験で見えてきた「事業の方向性」と「課せられた役割」

―― パーソルマーケティングは2022年1月にメタバースデザイン事業部を設立し、PwCコンサルティングと協業してメタバース市場における人材サービス事業へ参入しました。同事業部を設立した背景を教えてください。

川内:
2021年後半から米国を中心にメタバースへの注目度が高まりつつある中、以前からパーソルマーケティングでは、既存のビジネスにとらわれない新規事業の可能性について議論していました。そして、メタバースを「人間の行動領域と選択肢を拡張させる新たな働き場」と定義し、メタバース空間における雇用の創出や就業機会の拡大を目指し、新規事業を立ち上げたのです。

―― なぜPwCコンサルティングをパートナーに選んだのですか。

川内:
正直なところ、これまで自社だけで新規事業を立ち上げた経験が乏しく、さらにメタバースの市場動向や最新技術トレンド、ビジネスとしてどのような可能性があるのかといった情報や知見を得るには、専門家の支援が必要でした。そこで、2021年12月にメタバース等の先進技術に精通したコンサルティングサービスを展開されていたPwCコンサルティングに支援をお願いすることにしました。

岩花:
かねてからPwCコンサルティングは最新技術を社会実装する取り組みを進めており、XR(AR:拡張現実/VR:仮想現実/MR:複合現実)のビジネス導入支援をグローバルで展開しています。すでにPwC米国やPwC英国といったメンバーファームはメタバースを活用した新規事業計画の策定などを支援しており、ユースケースの蓄積も進んでいます。川内さんから「メタバース市場で人材サービス事業を展開するにあたり、どのような戦略を立案すればよいか」というご相談をいただいた際、最初に提案したのは「(パーソルマーケティングの)経営層の方々にメタバースの世界を体験していただく」ということでした。実際にPwCコンサルティングが保有する施設「Technology Laboratory」にお越しいただき、VRゴーグルを装着してメタバースの世界を体験したうえで、「自社のビジネスとしてどのようなユースケースが考え得るか」を社内で検討いただいたのです。

―― 川内さんも体験されたのですね。

川内:
はい。われわれはパーソルグループに登録されている求職者の方々に、メタバース空間を「新たな働きの場」として提供します。ですから、どのような環境で働くのかを自社の関係者さらには経営層が“身をもって”知ることは非常に重要な機会でした。実際にVRゴーグルを装着し、手を動かして初めて気付くこともありました。

例えば、VRゴーグルを装着して、視界がリアルの世界と遮断された状態になると、酔いや眼精疲労が発生します。また、VRゴーグルが密着する額からはすぐに汗がにじみ出るので、何度も拭いたくなります。こうしたことは机上で事業計画を立案しているだけでは分かりません。

―― PwCコンサルティングの「メタバース体験会」は、パーソルマーケティングのメタバース事業計画の立案にどのようなインパクトを与えましたか。

川内:
PwCコンサルティングに体験の場を設けてもらうまで、経営層が抱いていたのは「コントローラーの操作に慣れれば、メタバース空間で作業できる」くらいの認識でした。しかし、体験を機に「VRゴーグルを長時間付けて(スタッフの方々に)作業してもらうのは難しい」と認識を改め、「メタバース空間で働く場を提供するだけでは不十分だ。ストレスなく働いてもらうには求職者に対する事前のレクチャーやトレーニング、さらに育成環境の整備は不可欠である」との結論に至りました。

同時にメタバースビジネスを計画している企業の経営層の方々に対しても、私たちと同様にメタバースの世界を体験する機会を設けることが重要だと考えました。近年、「メタバース」はバズワードになっており、多くの企業が感心を寄せています。実際、メタバースデザイン事業部を設立した当初から「メタバースを活用して何かやりたい」という相談を複数のお客様からいただいています。

ただし、ほとんどのお客様――特に経営層の方々――はメタバースを体験したことがありません。ですからお客様には「知識を共有する」という観点からも、自らが体験することが何よりも大切だと考え、VRゴーグルや専用端末を取りそろえた「Meta Lab(メタラボ)」を自社内に開設し、メタバースを体験できるパッケージを立ち上げました。

パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部部長 川内 浩司 氏

パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部部長 川内 浩司 氏

メタバースビジネスに明確な解はない

―― これからメタバースビジネスに取り組む企業は、どのような点に留意すべきでしょうか。ビジネス開始から1年を経ての実感を聞かせてください。

岩花:
まずメタバースは「開発途上の技術である」と捉えることです。例えば、現在市場に出回っているVRゴーグルはコンシューマー対象に製造されており、「企業がビジネスで大規模に利用する」ことは想定されていません。ですから認証の仕組みやデバイスの一元管理といった機能は不十分です。さらに、VRゴーグルは視覚と聴覚に依存した体験になりますから、ユースケースも絞られてしまいます。

しかし、長期的な視点で見れば、ハプティクス(触覚提示技術)を活用したデバイスも次々と登場するでしょう。そうした技術の発展に伴ってメタバース空間での職種も増加するはずです。開発途上のテクノロジーを扱う事業においては、どうすればビジネスとして成り立たせられるか、ビジネスを拡大できるかに明確な解を出すのがとりわけ難しい。初めから「こうあるべき」と決め付けず、どの領域にビジネスの可能性があるのかを客観的に見極めながら、社会受容性の高まりとともに事業を広げていくことが重要だと考えます。

川内:
私たちも、メタバースを新規事業の柱として「雇用の創造」を目標に掲げたとき、「この領域には正解がない」と腹を括りました。「どのようなデータや情報を収集すればよいか」「収集したデータや情報をどのような軸で分析すべきか」「どのような知見を得て道筋を立てればよいか」といった問いに対し、今なお明確な答えはないのです。そのような状況の中、PwCコンサルティングに伴走いただいていることは非常に心強いです。

PwCコンサルティングとの協業ではお互いの役割分担が明確です。パーソルマーケティングはお客様先に伺い、現場の課題や何を目指したいかといった生の声を収集しています。一方、PwCコンサルティングはそうした声を元に、知見や分析力を活かしてビジネスモデルの構築や戦略の立案などの支援を担当しています。

付け加えると、PwCコンサルティングが作成するドキュメントやプレゼンテーション資料は理路整然としており、視覚的にも分かりやすいと好評です。答えのない領域でありながらも、一歩一歩確実に前進していると実感しています。

―― ありがとうございます。後編では、メタバース空間における労働市場に焦点を当て、今後のあるべきメタバース戦略やメタバースがキャズムを超えるために必要な要素など、多角的な視点からメタバース市場の将来像を展望します。

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主要メンバー

岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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