企業のためのメタバースビジネスインサイト

パーソルマーケティングと語る、実際のサービス展開から見通すメタバースビジネスの未来【後編】

  • 2023-06-28

メタバース市場で人材サービス事業を展開するパーソルマーケティング株式会社(以下、パーソルマーケティング)でメタバースデザイン事業部部長を務める川内浩司氏と、同事業を支援するPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)ディレクターの岩花修平がメタバースビジネスについて語り合う本対談。両社の協業内容とともに、メタバース人材育成の重要性について掘り下げた前編に続き、後編ではメタバース空間における労働市場に焦点を当てます。今後のあるべきメタバース戦略や、メタバースがキャズムを超えるために必要な要素など、メタバース市場の将来像を多角的な視点から展望しました。

(本文敬称略)

対談者

パーソルマーケティング株式会社
メタバースデザイン事業部部長
川内 浩司 氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
岩花 修平

(左から)岩花 修平、川内 浩司 氏

(左から)岩花 修平、川内 浩司 氏

「打ち上げ花火」の終焉、これからは長期的視点でメタバースを捉える時代に

―― パーソルマーケティングがメタバース市場に参入してから約1年が経ちました。この間、メタバース市場にはどのような変化がありましたか。

川内:
2022年の中ごろまでは、メタバースは一過性のイベントを開催する場でした。岩花さんの言葉を借りるなら、「打ち上げ花火」のようなイベントを仕掛けるエンターテインメント企業がほとんどでした。そうした案件の場合、メタバース空間には数名の案内スタッフが必要になるものの、雇用契約を締結して継続的に人材を派遣するまでには至りませんでした。

しかし、2022年後半からメタバース市場に変化が起き始めました。同じようなイベントが増えてメディアの注目度が下がり、イベントの開催数が少なくなったのです。それまでは「メタバースを使って何かやる」というだけでニュースになりましたが、今やその種の話題は生成AI(人工知能)に置き換わってしまっている。また、一過性のイベントの場合、開催初日だけは盛り上がりますが、翌日はガラガラになるなど、集客やマネタイズも難しいことが分かってきました。

岩花:
当初はPwCコンサルティングでも、メタバースに関心を寄せる企業は、エンターテインメント企業が中心になると予想していました。しかし実際には全ての産業、特に成熟産業と言われる製造業やエネルギー、地方自治体が、新規事業としてメタバースに取り組む意欲を持つケースのほうが多かった。こうした企業や自治体は、メタバースを一過性のトレンドとしてではなく長期的な視点での市場と捉え、メタバースを活用して自らの業務を効率化したり、新規事業を立ち上げたりしたいという明確なビジョンを持っていることが特徴です。

イベントの減少とともに、メタバースも下火になりつつあるという印象をお持ちの方は少なくないかもしれませんが、ビジネス活用に向けた動きは、そこかしこで着実に進みつつあります。「打ち上げ花火」は終わり、メタバースの社会実装がより本格的に検討される時代に入った、と言えるかもしれません。

―― そのような変化の中、メタバース空間における労働市場をどのように捉えていらっしゃいますか。

川内:
パーソルマーケティングではメタバース事業の理念に「多様な人材活用と新たな雇用の創造」を掲げています。これまで物理的にオフィスまで通勤することが困難だった高齢者や、身体的なハンディキャップをお持ちの方々などにお仕事をご案内し、働く機会を創出することを目標とした理念です。

現在は少子高齢化による労働人口減少を背景に、多様な働き方に対する門戸は広がっています。特にコロナ禍でリモートワークは社会に広く認知され、在宅勤務も普及しました。老若男女問わず、デジタル空間で業務に従事する機会も増加しています。そうした社会の潮流に鑑みると、これまでの労働環境では制約があり、就労のチャンスが限られていた方々も、メタバース空間では制約を乗り越えて就労できます。今後はメタバース空間での労働需要はもちろん、周辺の関連事業も拡大していくでしょう。

パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部部長 川内 浩司 氏

パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部部長 川内 浩司 氏

メタバースがキャズムを超えるには

―― 今後、メタバースが社会に広く認知され、そこで働くことが当たり前になるためには、どのような課題を克服する必要があると考えますか。

岩花:
現在、メタバースは「アーリーアダプター」と呼ばれる、新しいものに興味がある人にしか受け入れられていない印象です。キャズムを超えるには「メタバースは安全で便利な空間であり、有益でより豊かな生活や働き方を実現するためのツール」であるということを、より多くの人に理解してもらう必要があります。現在のインターネットやスマートフォンがそうであるように、世の中になくてはならないインフラの1つとして認知されるようになるということです。

現在のメタバースに対して、ゲームの延長であるとか、NFT(非代替性トークン)のような投機目的の技術であるといったネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。まずはそうした誤解を払拭することも大切だと考えます。

川内:
「メタバースに参加しませんか」と企業が呼び掛けている段階では、キャズムは越えていません。これを乗り越えるためには、まだ利用していない人たちに「メタバース空間で何かしたい」と思わせる動機付けが必要です。

例えば、SNSのトレンドはこの10~20年でかなり移行しました。もし、次のトレンドが仮想空間上でのコミュニケーションであり、そのプラットフォームがメタバースになれば、ユーザー数は増加し、あらゆる企業が参画して市場が形成されるでしょう。

正直に言うと、2022年4月にサービスを開始した当初は、メタバース市場が急拡大し、求人需要が爆発するのでは、という淡い期待がありました。残念ながら現時点ではそうなっていませんが、メタバース空間で当たり前のように働くという世界は必ず到来します。その時のために今から準備することは、決して時期尚早ではありません。

岩花:
もう1つ、メタバース空間でのビジネス活動が当たり前になるには、ルールやガイドラインの策定、ガバナンスの強化といった制度面を整備する必要があります。前編で指摘したとおり、メタバースは開発途上の技術ですから、前のめりで技術を実装すると、セキュリティや法規制への対応が後手に回るなど、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。そうならないよう、人々が安心して働ける安全な環境を構築することが、パーソルマーケティングとPwCコンサルティングの使命であり目標なのです。

―― 最後に今後の展望を教えてください。

川内:
前編でも説明したとおり、パーソルマーケティングがメタバース事業に参入した理由は、「働く場を提供することで社会貢献をしたい」という理念があるからです。

パーソルグループのビジョンは「はたらいて、笑おう」です。私たちはこのビジョンを具現化する手段の1つとして、メタバースを捉えています。説明したとおり、メタバース空間ではこれまで働けなかった方々にも仕事の場と機会を提供できます。パーソルマーケティングの「人々の成長を支援する」という姿勢は、何年経っても変わりません。このビジョンを実現するために、今後も邁進していきます。

岩花:
メタバースの可能性は無限大です。企業は長期的な視野に立ち「今できることは何か」「今後はどのような領域が拡大するのか」を見極めることが重要だと考えます。

―― ありがとうございました。

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メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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主要メンバー

岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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