優秀なミドルを活かすことができているか?

―Hopes and Fears Survey 2023に見る人材マネジメントの重要課題

  • 2024-04-18

次世代を担うミドル層こそが、不満を抱えたまま働いている

PwCコンサルティングはグローバルで実施したGlobal Workforce Hopes and Fears Survey 2023に基づく日本版レポートを公開しました。そこでは日本の労働者の「仕事に対する満足度の低さ」などを報告しています。こうした日本企業の傾向は、人的資本経営の重要性が叫ばれる昨今、解決すべき課題として存在感を増しています。

調査結果を世代別に集計すると、興味深い事実が見えてきます。ミレニアル世代(27-42歳)とX世代(43-58歳)は、他世代よりも「仕事に対する満足度」が低く、またZ世代(18-26歳)よりも「職場でのアクションに消極的」な傾向にありました。

上図で併記した米国・中国においては、Z世代よりもミレニアル世代とX世代の満足度のほうが高く、また世代にかかわらず職場でのアクション(自己成長や組織への貢献など)に積極的です。日本の労働者は諸外国とは異なり、会社で過ごす時間が長くなるにつれ、不満が募り消極的になる傾向にあるようです。

ミレニアル世代とX世代を総じて「ミドル層」と捉えることとしましょう。彼らは職場においてリーダーを務め、その振る舞いが職場環境に強く影響する存在です。事業を継続・成長させていくうえで、次世代を担うミドル層の満足度が低く、組織への貢献に消極的なことは、重大な課題であると言えるでしょう。

会社視点ではなく、社員視点で課題を捉える

入社したばかりの若手社員よりも、会社でより長く過ごしたミドル層のほうが、不満を抱えている――こうした職場では、何が起こっているのでしょうか?

社員の満足度を高めるには、会社視点ではなく社員の視点から課題を深掘することが重要です。つまり「会社として何を提供できるか」を検討する前に、「社員が会社に何を求めているのか」を把握することがポイントとなります。

さらには、「どの社員の」視点で考えるのかまで明確化すべきです。価値観が多様化する現代において、社員が会社に期待することもさまざまです。採用・リテンションのターゲットとなるペルソナを設定し、そのペルソナの期待や不満を捉えることが、実効的な施策につながります。

このコラムでは「優秀なミドルマネジメント」の視点に絞り、どのような不満を抱えているかを考えていきます。

大きくなる負担、報われない努力、感じられない成長

当社が数多くの企業を支援するなかで、優秀なミドルマネジメントは、特に以下の3つのネガティブな経験を繰り返している傾向にあります。

1. 負担が大きすぎる――上司からの要求と部下への配慮の板挟み

現代においてミドルマネジメントの負担は大きくなる一方です。不確実性の高い状況での成果創出が求められるうえ、上司によって仕事の進め方を決められ適切な支援も受けられない場合があります。そして何より、部下のマネジメントの難易度が高まっています。多様化する働き方に配慮し、世代・性別を超えて円滑な人間関係を作り、ハラスメントに気を付けて指導し、組織として成果を出すことはとても高いハードルであり、乗り越えるには大きな負担がかかります。

2. 頑張ったほうが損をする――年功序列の昇給・昇格

成果を出したミドルマネジメントを待つのは、成果が処遇に反映されない現実です。上司からの高い評価を得ても、横並びの相対評価のために昇給が見送られたり、空きポストがなく昇進できなかったりします。一度は我慢しても、それらを何度も経験するにつれ、「頑張っても仕方がない」と諦めてしまいます。

3. 成長している気がしない――身につかない専門性と見えないキャリア

たとえ報われずとも、自分なりの成長やキャリア形成につながるならば、取り組む意義が見出せるでしょう。現代において上級管理職を目指すことは当然ではなく、特に優秀人材は、特定の分野の専門性を高めるなど自分なりのキャリアを描いているケースも多いです。しかし多くの大企業では、会社・人事主導で専門性が身につく前に複数の部門を経験させ、次世代幹部を担うゼネラリストとして社員を育成します。求める専門性やキャリアがあったはずの優秀なミドルマネジメントが、多種多様で大量の業務に追われるうちに自身の将来像を見失っているとすれば、現状に不満を抱えるのも無理はないでしょう。

付け加えるべきは、優秀なミドルマネジメントは上記を繰り返し体験していることです。何度も自らを奮い立たせてチャレンジしても上の世代の高い壁に阻まれ、下の世代からの期待に圧し潰されてしまう。そうするうちに、自己や組織に対する評価が次第に下がり、学習性無力感に陥ってしまうと考えられます。転職を考えるにつけても、自身が他社にも通用するスキルを有しているかが分からず、また優秀であるばかりに職場から囲い込まれてしまうこともあります。物価や教育費の高止まりも後押しし、自社に留まることを選ばざるをえなくなりがちです。

社内で報われず社外にも出づらいという八方ふさがりの状況のまま、会社に放置されたミドルマネジメントは、バーンアウト状態で働き続けるしかありません。

ミドルマネジメントの役割を明確化し、処遇を適正化せよ

このように、社員の視点に立って不満の原因を捉えることが、実効的な施策につながります。今回のケースでは、以下のような施策が有効です。

1. ミドルマネジメントの役割・要件を明確化する

マネジメントに対する高い要求をクリアしてもらうためには、年功序列で昇格してきたミドル層から評判の良い人材を登用するのではなく、マネジメント志向があり経験もある人材を登用することが理想です。

まずは、マネジメントの期待役割および登用要件(スキル・経験など)を明確化しましょう。これが昇進を目指すミドル層にとっての「目標」となるだけでなく、役職者の評価の透明化・適正化にもつながります。

2. 権限を与える

役割を明確化することに加えて、優秀なミドルマネジメントが自らの創意工夫で成果を高めることができるよう、仕事の進め方や組織作りに関する権限を与えましょう。

本調査結果からは、上司が「小規模な失敗を許容しない」「意思決定をする際に私(回答者)の視点を考慮しない」という傾向も見られます。職場における小さな実験を奨励し、失敗を恐れない組織を作ることは、成果向上とミドルマネジメントのやりがいにつながるでしょう。

3. 処遇を適正化する

ミドルマネジメントに大きな役割と権限を与え、組織の生産性を高めさせるだけでなく、その成果に報いて次なるモチベーションにつなげてもらえるよう、処遇を改善することが何より重要です。

ミドルマネジメントにかかる負荷と報酬のアンバランスさには、若手社員も気づいています。処遇改善により、昇進を目指す社員が増えるという好循環につなげることができるでしょう。

一言にまとめるならば、優秀なミドルマネジメントに活力をもって働いてもらうには「魅力的な将来像を用意し、その実現に向けた努力に対して適切に報いること」が必要です。裏返すと、先行きの見えない職場のままでは、意欲を失ったまま働き続ける(静かなる退職)か、離職するかのいずれかとなってしまいます。

なぜ変わらないのか――経験の繰り返しが組織風土を形作る

ただし、上記の施策によってすぐに解決されるかというと、やはりそうではありません。現在不満を抱えているミドル層も、若手のうちは、上記のような変革に取り組んだでしょう。しかしそれが「組織」に跳ね返され、失敗に終わった経験の繰り返しが、会社に対する諦めにつながってしまうのです。

では、どうすればよいのでしょうか?筆者は「着実に取り組み続けるしかない」ということが、悲観的なようで現実的な回答であると考えています。

組織を形作るのは人間だとすると、組織を「どうせ変わらない」ものにしているのは、「どうせ変わらない」と感じている人間自身だと言えます。部下の意見に対して「自分は賛成だけど、この会社では結局実現できないよ」と否定するケースが見られませんか?職場でネガティブな経験をした社員は、無自覚に、次世代にも同じ経験を与えてしまいます。この経験の連鎖が、変革の難しい組織風土を作るのです。

しかしこの連鎖は、ある意味では希望であると言えます。社員一人ひとりに、「確かに変わるのだ」というポジティブな経験を地道に与え続けることで、どんな組織も改革しうるということだからです。

特に大企業においては、大々的な施策を打ってもその真意が理解されず、当初の目的からは離れた運用となり、最終的に形骸化することも多いです。しかし、大きな変革は小さな変革の積み重ねで実現します。自社にとってクリティカルな要素に絞り、強い影響力を持つ少人数のリーダーから巻き込んで、試行錯誤を通じて着実に変えていく。これらを継続したあかつきには、活性化した組織の姿を見ることができるでしょう。

本稿が、組織の課題を捉えて解決に導くことの一助となれば幸いです。

執筆者

森井 茂夫

シニアアドバイザー, PwCコンサルティング合同会社

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竹之内 亮

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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久家 範之

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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